第12話 ガイアノイド

 列車の車内、ユウトは疲労に耐えかねたように座席に横たわり深い眠りに落ちていた。

 訓練の日々が彼の肉体を容赦なく痛めつけているようだ。

 

 その寝顔を向かいに座るアリアナが優しく見守っている。

 ユウトの険しい表情が眠りの中で緩むのを見てアリアナはふふっと微笑んだ。

 そこへ車掌さんが列車の揺れと共に現れる。

 

「次の停車駅はガイアノイド、停車時間は24時間です」

 

 いつもの車掌さんの丁寧な口調が車内に響く。

 彼はユウトの寝姿に気づくがいつもの光景だと気にせずアリアナに向けて軽く頭を下げた。

 アリアナは車掌の視線の先にいるユウトを見やり思わず口にする。

 

「ユウトはガンバってるみたいね」

 

「そうですな、やっと少し形になってきたかもしれません」

 

 車掌さんの言葉に、アリアナの表情が明るくなる。

 

「車掌さんにそう言ってもらえるなんてすごいじゃない」

 

「ははは、まだまだですが、思い切りの良さだけはなかなかのものです」

 車掌さんは含み笑いを浮かべながら続ける。

 

「あれは私にはもうまねできませんな、若者の特権です」

 

 二人の会話にユウトは夢の中で何やら嬉しそうな表情を浮かべている。

 まるで二人に褒められていることが夢の中まで伝わっているかのようだ。

 その時、列車が大きく揺れた。ガイアノイドの領域に入ったのだ。

 

「うわっ!」

 

 突然の揺れに、ユウトは驚いて飛び起きる。

 

「何事だ!?」

 

 周りを見回すユウトとは対照的に車掌さんは微動だにしない。

 揺れに合わせて体を傾けながらも平然としている。

 アリアナはパニックになるユウトと冷静な車掌の対比に思わず吹き出してしまうのだった。


 トンネルを抜けるとそこはまるで昔ながらの大工業地帯を彷彿とさせる世界だった。

 "ガイアノイド"

 ここは工業の息吹が絶え間なく響く世界。

 鋼鉄の森が立ち並び無数の煙突からは白い煙が天を突く。

 この世界は近隣の世界へと製品を輸出し繁栄の輪を広げる交易の要所。

 近距離次元船が舞うポートは常に活気に満ち次元の旅人たちで賑わう。

 空を飛ぶ次元船が光の軌跡を描きながら加速し、次元の狭間へと消えていく様子はこの星の技術力と冒険心の象徴である。

 

 ガイアノイドは、その旧き良き産業と新たな次元旅行の技術が共存するユニークなフロンティアだ。

 旅する者にとってここは新たな発見と可能性の宝庫であり次元を超えた冒険の出発点となる。

 

「おおお、あれが次元船かあ」

 

 ユウトの目は、空を舞う様々な形の次元船に釘付けになっていた。

 

「そういえばユウトは初めて見るのね」

 

「ああ、なんだか結構いろんな形のがあるんだな」

 

 ユウトは、次元船の多様性に驚いている。

 まるで、空を泳ぐ魚の群れのように、各々の船が独自の形を持っているのだ。

 

「ええ、次元宇宙を航海するための形に制約はないからなんでもありね」

 

「あれは全部近距離用なんだよね?」

 ユウトがふと疑問を口にする。

 

「そうよ、隣の世界かそのまた隣の世界ぐらいまでね」

 

 アリアナの答えに、ユウトは納得したように頷いている。

 そんな会話をしているうちに列車はガイアノイドの駅に滑り込んでいき停車した。

 

「さっ、着いたわよ」

 

 アリアナが立ち上がりユウトに声をかける。

 ユウトは、列車から降りるとまず大きく背伸びをした。

 

「よし、いくか!」

 

 ユウトは一歩を踏み出した。

 彼の瞳には期待と決意の光が灯っている。

 ユウトとアリアナは、工業世界ガイアノイドに降り立った。

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