第10話 狩り

「ユウト、ユウト!起きて!」

 

 ミューリンクスの声で、ユウトは目を覚ました。

 

「う~ん……もう朝?」

 

「ええ。ほら、狩りに行くわよ!」

 

「狩り?」

 

「そうタイガーボアの狩りよ。昨日の串焼き、美味しかったでしょ?」

 ミューリンクスが目をキラキラと輝かせている。

 

「あ~、確かに美味しかったけど…」

 

「さあ、早く準備して!朝食は後にしましょう」

 

「えぇ~?朝食抜きなの~?」

 

「大丈夫よ。狩りの後に、美味しいものをたくさん食べられるわ」

 

 ユウトは慌ただしく身支度を整えると、タイガーボア狩りに向かうのだった。

 ユウトとミューリンクスは静かに森の中を進んでいく。

 早朝の森はまだ夜の面影を残しており、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「ユウト、まずは獲物を見つけなくちゃね」

 ミューリンクスが小声で言う。

 

「動物は水場に集まるものよ。だからまず水場を探すのがセオリーよ」

 

 二人はそっと川の方向に向かう。

 しばらく歩いているとミューリンクスが突然立ち止まった。

 

「見て」

 ミューリンクスが、前方を指差す。

 

 ユウトが目を凝らすと、少し離れたところにタイガーボアの姿が見えた。

 大きな体に鋭い牙を持つ猪のような動物だ。

 

「風上から近づくのが基本よ。動物は、風で匂いを嗅ぎ分けるから」

 

 二人は、風の向きを確かめると、そっとタイガーボアに近づいていく。

 地面を這うように、音を立てないように、慎重に距離を詰める。

 

「ユウト、武器を構えて。私の合図で撃つのよ」

 ミューリンクスが弓に矢をつがえながら言う。

 

 ユウトは深呼吸をすると銃を構えた。

 "ドキドキ"と鼓動が速くなる。

 タイガーボアまであと数メートル。

 ミューリンクスが静かに弓を引き絞る。

 

「撃って!」

 

 ミューリンクスの合図と同時に、ユウトは引き金を引いた。銃声が森に木霊し、ミューリンクスの放った矢が風を切って飛んでいく。

2つの攻撃が見事にタイガーボアに命中した。銃弾は頭部を、矢は心臓を正確に貫いていた。

 

「やったぁ!」

 

 ユウトとミューリンクスは、仕留めたタイガーボアを見つめている。

 

「さあ、これを街まで運ばないと頑張ってねユウト」

 

「いー!?これを一人で運べっていうのか?」

 

 300キロはゆうに越えているであろう巨大な獣。

 それを一人で運ぶのは流石に無理がある。

 

 ミューリンクスは手を掲げると、厳かな口調で呪文を唱え始めた。

 

「イア・シルフ・ヴェントゥス・エレメンタリス、風の精霊の王よ、契約に従い我が願いを聞きたまえ」

 

「シルフ、来て!私に力を貸して」

 

 ミューリンクスの周りに風が渦巻き始める。

 呪文に呼応するかのように風は力強さを増していく。

 そして、風の渦の中心から一つの姿が浮かび上がる。

 それは風そのものから生まれたかのような、透明感のある小型の妖精のような姿だった。

 

「シルフ、お願い、手伝ってくれる?」

 

 ミューリンクスがシルフに語りかけるとシルフはちょこんと頷き、タイガーボアに向かって飛んでいって、そのまま引っ張り上げるように力を込める。

 

「これが精霊魔法かあ、カッコいいなあ」

 

「いや、でも、精霊さん、さすがに引っ張り上げるのは無理でしょう」

 

「なにやってるのよユウト担ぐのはあなたの仕事よ」

 

「オレが!?そんなこと言ったって、いくら風の精霊が手伝ってくれても……」

 

 ユウトは目を丸くしてブツブツ言いながらタイガーボアを担いでみると

 

「あれ?か・る・くはないな、でも、なんとか」

 

 ユウトはシルフの力で軽くなったタイガーボアをなんとか担ぎ上げ歩き始めた。

 

「よし!街に帰ろう!腹ペコだ!」

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