第17話 ホワイトシェパード
島の空気が肌に触れる。それは温かくそして少し湿り気を帯びていたが不思議と不快ではなかった。
「さて、どこから探索しようか」
「え?いいの?アリアナさんは先に行ってるって言ってたけど」
「ちょっとぐらい寄り道しても問題ないだろう」
ユウトは初めての場所で冒険したくてウズウズしている様子だ。彼の本領発揮である。
ミナトはキラキラと目を輝かせているユウトを見て微笑んだ。
「そうね、せっかくだし、行っちゃおうか」
二人は島の中心部に目をやった。そこにはまるで島の心臓部のように巨大な樹が聳え立っていた。
その樹は他の木々とは明らかに異なる雰囲気を放っている。
「あの木、気になるわ。まずはあそこに行ってみない?」
「よし、行ってみよう!」
二人は巨大な樹を目指して歩き出した。
島の美しさに心を奪われながらもどこか奇妙な雰囲気を感じずにはいられなかった。
まるで島が彼らを引き寄せているかのように。
島の中心部を目指して歩を進めるミナトとユウト。
森の中を抜けるとそこには小さな集落が現れた。木々の間に点在する素朴な作りの家々。
その光景はまるでおとぎ話の中に迷い込んだようだった。
「人が住んでいるんだ…」
「でも、なんだか普通の村とは違う雰囲気がするな」
ユウトは感じた違和感を口にした。
集落に近づくと村人たちが集まっているのが見えてきた。
彼らは皆、白い衣服を身にまとい、穏やかな表情を浮かべていた。
まるで何の悩みもない平和な暮らしを送っているかのように誰もが微笑んでいる。
「あ!ユウト見て!大きい白い犬!もふもふじゃない♪」
集落の入り口近くで大きな白いシェパード犬が眠っていた。
その姿に目をとめたミナトは歓声を上げながら犬に駆け寄り、満面の笑みで抱きしめた。
「わぁ、すごく大きいね!」
ミナトは犬の柔らかな毛並みに頬ずりしながら言った。
「ふわふわで気持ちいい~」
その様子を見ていたユウトもゆっくりと犬に近づいた。
しかしユウトの気配を感じ取ったのか、犬は突然目を開けてユウトをじっと見つめる。
「おっと、ごめんごめん」
ユウトは犬の反応に気づき軽く手を上げて詫びた。
「寝てたのに、邪魔しちゃったね」
ユウトはわしゃわしゃと頭を撫でながら謝った。
犬はとても嬉しそうにパタパタと大きな尻尾を振っている。
「このコ、ネックレスつけてるわ。なんか書いてある。アルプですって。きっとこのコの名前ね」
「アルプかいい名前だな……ミナト、そろそろ行こうか」
ユウトが立ち上がりながら言った。
「じゃあね、アルプちゃん。またね♪」
ミナトは犬に最後の別れのひと撫でをしてユウトと共に村の中心部へと歩き出した。
犬は二人の後ろ姿が見えなくなるとまた眠りについた。
村人たちは、ミナトとユウトに気づくとにこやかに手を振った。
「よく来てくれました」
一人の老人が言った。
「私はこの村の村長をしておりますノエルと申します」
ミナトとユウトは自己紹介をし、旅について簡単に説明した。
もちろん異世界の話は隠した。村人たちは興味深そうに耳を傾けている。
「船で旅をしているのですね。素晴らしい。旅は人を成長させます。でも、疲れたでしょう?ゆっくり休んでいってください」
そう言ってノエルは二人を村の中へと案内した。
村人たちは皆、温かく二人を迎え入れてくれる。
まるで彼らが昔からの友人であるかのように。
村の中を歩きながらミナトとユウトは不思議な光景を目にした。
村人たちは皆のんびりと時間を過ごしている。
働いている様子はなく、ただゆったりと談笑したり音楽を奏でたりしているのだ。
「みんな、働いていないみたい」
ミナトがユウトに耳打ちした。
「確かに。なんだかみんな幸せそうだ」
ユウトも不思議に思いながら答えた。
二人は村人たちとの交流を楽しんだ。
村人たちはミナトとユウトに自分たちの生活について語ってくれた。
「私たちは自然と調和して生きることを大切にしています。働くことよりも今この瞬間を楽しむことを重視しているのです」
「でも、食べ物や必需品は?」
ミナトは首を傾げた。
「自然が与えてくれるものがあれば十分です」ノエルは答えた。
「欲を持たず自然の恵みに感謝して生きる。それが私たちの生き方なのです」
その言葉にミナトとユウトは驚きを隠せなかった。自分たちとは全く異なる価値観。
しかし村人たちの穏やかな表情を見ているとその生き方にも一理あるように思えてきた。
夕暮れが近づき、村人たちは二人を村の中心部へと誘った。
そこには大きな篝火が焚かれ、村人たち全員が集まっていた。
篝火の周りには、色とりどりの布が飾られ、楽器を手にした村人たちが集まっていた。
彼らは和やかに笑い合い、音楽が流れる中で踊り始めた。
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