第16話 クイント島
次の世界に着くまでの間ユウトは銃の手入れをしていた。
ミナトは本を読んでいたのだがふと何かを思い出したようにユウトに問いかける。
「そういえばユウト、あなたのご両親の行方に異世界の誰かが関係しているかもしれないって言ってたわよね?もしよかったら私にも話を聞かせてくれない?」
ユウトは銃を磨く手を休めミナトを見た。
ミナトは少し躊躇った表情をしていたが、彼女が自分のことを気にかけてくれているのがよくわかる。
その気持ちに応えるようにユウトは自分に起こった出来事を話し始めた。
「……というわけで、わかっていることはまだ少ないんだ」
「そうなのね、ディメンシア帝国か……」
ユウトの前途が多難であることは想像に難くなかった。
そんな中でミナトの夢に協力すると言うのだから、余程のお人好しか能天気なのか。
もしかしたら両方なのかもしれないとミナトは思う。
「考えなしに進むのはユウトの最大の長所だものね」
ミナトが呆れ顔をしているので、アリアナがユウトをフォローする。
「全然褒められてる気がしないんだけど」
「本当に褒めてるのよ」
アリアナは本当にそれがユウトの長所だと思っていた。
自分の心のままに行動できるユウトが羨ましいとさえ考えている。
「やってみなくちゃ何も始まらないからなあ。失敗したら次を考えればいいし、成功したらばんばんざいだ」
「失敗してもいい……」
「そう、立ち止まらなければ本当の失敗なんてないんだ」
「そうか、じゃあ私も次元船を作れるね!だってあきらめないもの」
ミナトはアリアナの言いたいことがわかった気がした。
ユウトと一緒ならなんでもできるような気がする。
「あ、そうだ。私の船でユウトのお父さんとお母さんを探せばいいんじゃない?」
「おお、そうか!」
ユウトは飛び上がりそうになった。
もう完成したかのような二人の盛り上がりにアリアナは苦笑いしつつもどこか嬉しそうだった。
きっとこの二人ならやり遂げられるでしょうね、と。
そんな中車掌さんの声が車内に響いた。
「次の停車駅はクイント島。停車時間は3日と8時間となります」
列車が異世界のトンネルを抜けるとそこには広大な海原が広がっていた。
列車はトリレームと呼ばれるガレー船へと姿を変えている。
トリレームは長く細身の優雅な船体を持つ古代ギリシャの戦闘艦だ。
三層に並んだオールが力強く海を切り裂き船は勢いよく進む。
夕暮れの光の中でその姿はまるで海上の獣のようだ。
深い青と白の帆が風を捕え、悠々と航行する様は壮大だった。
「誰が漕いでるんだろう……まあいいか」
男は細かいことなど気にしないのだ、とユウトが自分に言い聞かせるように独り言を呟く。
船は徐々にクイント島に近づいていく。
黄金に輝く夕日を背に、島のシルエットが浮かび上がってくる。
ミナトとユウトは新たな冒険の予感に胸を躍らせながら甲板の手すりに身を乗り出した。
クイント島はまるで絵画から抜け出してきたような幻想的な美しさを誇っていた。
白い砂浜に透明度の高い青い海。そして、島の中心部には鮮やかな緑に覆われた森が広がっている。
「すごい…まるで、夢の中に迷い込んだみたい」ミナトは息を呑んだ。
列車がゆっくりと島に近づくにつれ不思議な香りが車内に漂ってきた。
甘く、そして少し妖しげな香り。
それはまるで島そのものが放っているように感じられた。
ミナトはその香りに心を奪われそうになった。
「この香り、なんだろう…」
「二人で先に行ってて、あたしはお買い物してから行くわ」
アリアナが二人に先に行くように促すとミナトとユウトは島に降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます