第15話 ミナトの旅立ち

「ミナト来るかなあ」


 ユウトには少し不安があった。もしかしたら自分はミナトの意思を無視して先走ってしまったのではないかと。

 

「彼女はきっと来るわ…ほら」

 

 ミナトはそんなユウトの不安を払しょくするかのように颯爽と駅前広場へと入ってきた。

 黒革のロングコートにタイトなジーンズ、黒のエンジニアブーツ。

 その姿はまるで闇の中から抜け出してきた光のように鮮やかで印象的だった。

 周囲の人々は思わずその美しさと凛とした佇まいに目を奪われ、足を止めて彼女を見つめずにはいられなかった。

 まるでこの瞬間のために生まれてきたかのようにミナトは歩を進める。

 風がコートの裾をなびかせ彼女の髪をさらりと流すたびにまるで時間が止まったかのような錯覚さえ覚えた。

 彼女の瞳にはこれまでにない輝きが宿っている。

 まるで長い旅を終えて新たな世界への扉を開けるためにここに立っているかのようだった。

 誰もが彼女に魅了されその美しさと強さに圧倒された。

 ミナトはまるで生まれ変わったかのように駅前広場に降り立ったのだ。

 ユウトは駅前広場に現れたミナトの姿に思わず息を呑んだ。

 まるで別の世界から現れた女神のように彼女は輝いていたからだ。

 ユウトは彼女の美しさと凛々しさに圧倒され一瞬言葉を失ってしまう。

 周囲の人々も思わずミナトに見とれ足を止めて彼女を見つめている。

 まるで時が止まったかのような不思議な感覚が広場を支配していた。

 

「おはよう」

 

 ミナトが元気よく声をかけてくるがユウトの反応が一瞬遅れる。

 

「あ、え、おはよう」

 

「?どうしたのユウト」


「なんでもない、さあ!はりきって行こう!」

 

 ユウトはミナトの変化がうれしかった。

 彼女の前向きな姿勢と旅立ちへの決意が、ユウトにも新しい冒険への期待を感じさせていたからだ。

 ミナトとユウトは用事を済ませてから行くというアリアナを残しプラットフォームへと降りていった。

 そこでミナトの目に飛び込んできたのは純白に輝く未来的な列車の姿だった。

 

「キレイ…」

 

 ミナトは思わず息を呑む。

 まるで夢の中に迷い込んだかのような圧倒的な美しさを前に言葉を失っていた。

 ユウトに導かれるままミナトは列車に近づいていく。

 すると車体の横で発車前の点検をしていた車掌が目に留まった。

 

「車掌さん、彼女はこれから一緒に旅をすることになったミナト」

 

 ユウトが嬉しそうにミナトを紹介する。

 

「超長距離航行ができる次元船を作ろうとしてるんだ。すごいだろう?」

 

 ユウトはまるで自分のことのように得意げに話す。

 

「それは素晴らしいですね」

 

 車掌さんが感心したように頷く。

 

「私もこちらで働かせていただいて長くなりますので、異次元についても多少は知識がございます。お手伝いできることがあれば、おっしゃってください」

 

「ありがとうございます。夕紀ミナトです。これからよろしくお願いします」

 

 ミナトは丁寧に頭を下げた。

 

「ところで、その本をちょっと拝見してもよろしいですか?」

 

 車掌さんの視線がミナトの手に握られた一冊の本に向けられる。

 ミナトは一瞬躊躇してユウトの方に目を向けた。

 ユウトはミナトの気持ちを察して車掌さんなら大丈夫だとウインクしてみせる。

 

「あ、はい、どうぞ」

 

 ミナトが差し出した本を、ジョセフは興味深そうに眺めた。

 

「ふむ…」

 

「車掌さん、読めるのかい?」

 

「さっぱりですな。ですが、ここに描かれている図などから考えるとエンジンのようなものでしょうか」

 

「そうなんです!」

 

 ミナトの瞳が輝く。

 

「これは超高効率でエネルギー変換が可能なエンジンだと思うんです!」

 

「次元宇宙を長距離移動するためには相対性理論の時間遅延効果と高度な時空間ナビゲーション技術を組み合わせることで、次元船が異次元間の移動を時間と空間の両面で正確にコントロールすることが可能になると思うんです。この統合されたアプローチにより次元船は複雑で不安定な時空間を効果的に航行し、目的地に正確に到達することができるはず。そのために必要不可欠なもののひとつが超高出力のエンジンなんです!」

 

 ほらすごいやつだろうと言わんばかりに車掌さんにユウトが目配せする。

 もちろんミナトが言っていることのほとんどはユウトには理解できていないのだが…

 興奮して話しを続けるミナト。その胸元でふと何かが光るのが目に留まった。

 車掌さんの視線が赤い石のついたネックレスに向けられる。

 それに気づいたミナトが口を開いた。

 

「これもお父さんの形見なんです」

 

「そうなのか、昨日はしてなかったよね?」

 

 ユウトが首を傾げる。

 

「昨日はこうやって中に…」

 

 ミナトが胸元をガバッと開きながら言う。

 

「お、おわっ!そ、そうか、わかった。そうなんだね、うん」

 

 ユウトは慌てて目をそらした。顔を真っ赤にしている。

 そのユウトの反応をミナトは不思議そうに見つめるが、自分のせいだとは微塵も感じていないようだった。

 そんな二人のやり取りを、車掌さんは懐かしむように見守っていた。

 ふと、彼の口からつぶやきが漏れる。

 

「ユウキだったか…」

 

「どうしたんだい、車掌さん」

 

「…そろそろお時間になりますので、ご乗車ください」

 

 ユウトの問いかけが聞こえなかったかのように車掌さんは乗車を促した。

 アリアナも間に合ったようで、三人は列車の中に静かに足を踏み入れた。

 ミナトは、自分の席に着くと心臓の鼓動を抑えきれずにいた。

 彼女の緊張はもはや言葉にできないほどのものに達していた。

 発車のベルが鳴り響き列車はゆっくりと動き出し、徐々に加速していった。

 車体の揺れが激しくなりトンネルをくぐるとそこはもう次元宇宙だ。

 

 車両が揺れる中ミナトは窓の外に目を向けた。

 そこに広がるのは、色とりどりの光が渦巻く、異次元空間の幻想的な景色だった。

 彼女はその美しさに再び言葉を失い、ただ見とれることしかできなかった。

 

 (お父さん、行ってくるね)

 

 窓外の光景は新たな世界への招待状のようで、自分が夢見た長距離航行可能な次元船をこの旅を通じて絶対に完成させると彼女は心の中であらためて誓った。

 その決意は、彼女の目に新たな輝きを与え、不安や緊張を力に変えていく。

 これから訪れるであろう無数の異世界、未知の出会い、そして乗り越えなければならない試練。

 それらすべてが彼女を待っていると思うと胸は期待でいっぱいになった。

 ミナトの冒険はまさに今、新たなステージへと踏み出したのだった。

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