第22話 アルプの述懐

 私は当初、ただのスライムに過ぎませんでした。

 何の特別な能力もなくひたすら生きることだけを目的としておりました。

 ところがある日、思いがけず異世界の通路から他の異世界に迷い込んでしまったのでございます。


 そして突然自我が目覚め最初は大変な混乱に陥りました。

 自分が何者であるのか、なぜこの地に存在しているのか、皆目見当もつきませんでした。

 自我が芽生えていたものの存在意義や目的が見出せずただ途方に暮れ、徐々に衰弱していく中でこのまま消え去ってしまうのではないかと恐れていました。

 そのような時にとある優しいご婦人様と出会ったのでございます。

 私が弱り果てているのをご覧になりご自宅に連れ帰って献身的に世話をしてくださいました。

 ご婦人様が与えてくださる食べ物のおかげで私は少しずつ元気を取り戻してまいりました。


 私にとって何よりも重要だったのはご婦人様との日々の中でコミュニケーションの大切さと、他者との絆の重要性を学ばせていただいたことです。

 ご婦人様は私に話しかけ私の存在を認めてくださいました。

 そのことが生きる喜びと安らぎを私にもたらしてくれたのです。


 ある日、私の内なる力が目覚めました。それはテレパシーの能力でございました。

 これによりご婦人様のお考えをより深くお察しすることができるようになりました。

 言葉を超えた魂と魂の交流が生まれたのでございます。

 同時に私は自身の姿を自在に変化させる能力も身につけたのです。


 私はご婦人様が最も愛したホワイトシェパードの姿を選ばせていただきました。

 ご婦人様との幸せな日々の中で、真摯に生きること、誠実であること、そして何より、愛することの大切さを学ばせていただきました。


 しかしながら幸福な時間は永遠には続きませんでした。

 ご婦人様はお歳を召され、ある日ひっそりとこの世を去られたのです。

 ご婦人様の死は私に大きな悲しみと同時に深い問いかけを残しました。

 生きるとは何か、死ぬとは何か。存在の意味とは一体何なのか。


 私はご婦人様の最期をお看取りしそしてお墓を建てさせていただきました。

 ご婦人様とのお別れは私に新たな決意をもたらしました。

 自分自身の存在意義と生きる目的を見つけ出すこと、そのために私は旅立つことを選んだのでございます。


 この広大な宇宙の中で私はどのような役割を担っているのでしょうか。

 私は何のために生まれ、何をなすべきなのでしょうか。

 旅を通して私はその答えを見出したいと願っているのです。


 そして今日、私はユウト様という若き主人とめぐり会いました。

 ご主人様との出会いはまるで運命のようでございました。

 ユウト様からは懐かしい匂いがしました。

 あのかけがえのない日々を思い出させてくれて、心の奥深くに埋もれていた記憶を呼び覚まし、まるで時間を遡るかのようでした。

 亡くなったその主人の面影をユウト様に見た瞬間、心の中が明るく照らされました。

 ユウト様の目の輝き、話す時の手振り、微笑む様子までもが、昔の主人と重なり合い懐かしさと同時に新たな希望を感じさせてくれたのです。

 そこでユウト様の冒険にお供させていただくことを決意いたしました。

 ユウト様をお守りし力となること、それが今の私の願いとなったのでございます。


 皆様、私の話をお聞きくださり誠にありがとうございました。

 私の物語が皆様の心に届けば幸いでございます。

 そして皆様にもお一人おひとりのかけがえのない物語があることをどうかお忘れなきようお願い申し上げます。人生は皆様が主人公のかけがえのない冒険なのですから。

 ご清聴ありがとうございました。


 パチパチパチパチ


「がんばりましたね、わたしはあなたを応援しますよ」

 

 車掌さんがボロボロと泣きながら大きな手で盛大に拍手をしている。いつのまに来てたんだろう。


「アルプちゃん、これからユウトのことをよろしくね」


 ミナトも目を潤ませながらアルプに声をかけた。

 アリアナは目を閉じうつむいて何か深く考えているようだ。

 その時、ふとアルプの姿が変化した。

 青年の姿からホワイトシェパードの姿に戻ったのだ。

 ユウトは驚きつつも優しくアルプの頭を撫でる。

 

「この姿の方が落ち着くんだね。よし、これからよろしくな、相棒!」


 アルプは嬉しそうに尾を振りながら、ユウトの手に顔をすり寄せた。

 その瞬間、ユウトは不思議な感覚に包まれる。

 アルプとの間に言葉を超えた絆を感じたのだ。

 まるで昔からの友人のように心が通い合うような温かさがそこにはあった。


 そうして、アルプを新たな仲間に加えたユウトたちは、再び旅路に着く。


 人生とは、一人一人が主人公となる物語である。

 時に悲しみ、時に喜び、そして数多の出会いと別れを経験しながら、我々は自分自身の意味を探し求める。

 ユウトとアルプそしてミナトの冒険はまだ始まったばかりだ。

 彼らはこれから、喜びと悲しみ、試練と発見の連続する旅を続けていく。

 その先に待つものとは、一体何なのだろうか。

 真の自分を見出す時、彼らはどのような景色を目にするのだろうか。

 物語はここから新たなページを刻んでいく。


 アルプの物語はユウトたちに生きることの本質を問いかけた。

 一人一人の人生が、かけがえのない冒険であるという真実を彼らは胸に刻んだのだ。

 そしてこれから出会う人々もまた、それぞれの物語をつむいでいるのだろう。

 ユウトたちの旅はそんな無数の人生の物語が交差するかけがえのない体験となるに違いない。


 だが、彼らの冒険はまだ始まったばかりだ。

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