第21話 クイント島離脱

 3人と1匹が乗り込むとタラップが格納され、船はゆっくりと港を離れていく。

 クイントの島の港はまるで島の懐に抱かれるように、静かに佇んでいた。

 島民が集まってきて笑顔で手を振ってくれた。その中には村長のノエルの姿も見えた。

 

『たとえそうだとしても私たちが幸せであることに変わりはありませんから』

 

 ユウトはノエルの言葉を思い出していた。

(本当の幸せは自分で掴むものだと信じているけど。たとえ強制的に与えられた幸せだとしても、それもまた真実なのだろうか?)

 船は優雅な白い帆を風になびかせ青い海原へと進んでいく。

 帆に描かれた金色の紋章が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

 船首から水しぶきが上がり虹色に散る。海風が3人の髪をやさしくなでた。

 島は、徐々に小さくなっていく。緑豊かな森、白い砂浜、そしてクイントの大樹。それらが、まるで絵画のように、遠ざかっていく。

 

「入りましょう」

 

 アリアナに促されてミナトも中に入っていく。

 ユウトは島を見つめながら深く息を吸い込み、振り返るとアリアナ達の後に続いた。

 ユウト達が各々の椅子に座ると、窓の外の景色は色とりどりの世界が煌めく次元宇宙に変わっていた。

 列車は次元の海を力強く進んでいく。

 

「二人とも今回は本当にありがとう」

 

 ユウトは改めて二人に礼を言い頭を下げた。

 

「ちゃんと反省してくれるならいいんだけど、それにしてもあんなものをいきなり食べるんだもんびっくりしたわ」

 

 ミナトが呆れたように言う。

 

「自分でもなんで食べてみたくなったんだか、よくわからないんだよなあ」

 

 ユウトは困ったように頭をかきながら首を傾げていた。

 

「確かにいくらユウトでもいきなり花を食べるなんて変よね」

 

 アリアナもユウトの行動には不審な点があると思っているようだ。

 そう言われるとそうねとミナトも首を傾げた。

 

「……」

 

「アリアナ、どうかしたのかい?」

 

「……あそこはあの女神の島ですものね、彼女が何かしてても不思議じゃないわ」

 

 ユウトの疑問にアリアナが答えるが更なる疑問が湧く。

 

「女神様がオレに?なんで?」

 

「あくまでも可能性の話よ」

 

「それよりアリアナさんはこの世界の女神様を知っているの?」

 

 ミナトの疑問ももっともだった。

 ここに至るまでアリアナは女神の話は何もしていなかったし、いくらアリアナでもまさか神という存在に知り合いがいるとは誰も予想はつかないだろう。

 

「ええ、まあね」

 

「神様を知ってるなんてすごーい、でもなんで言ってくれなかったの?女神様ならなんとかできたんじゃ……」

 

 ミナトの抗議も当然だろう、クイントの木を作った張本人をアリアナは知っていると言うのだ。

 

「神様と言ってもいろいろよ。できるだけ関わり合いになりたくない神様もいるわ。ユウトが戻らなかったら行くしかなかったんでしょうけど」

 

「あまり会いたくない?」

 

「ちょっと面倒な女神様だからね」

 

「そうなんだ」

 

「でも彼女が関わっているならいつか向こうから会いにくるでしょう」

 

 アリアナの言葉に、ミナトは小さくうなずいた。彼女の瞳には、まだクイントの島への想いがくすぶっているようだった。

 ミナトは窓の外を見つめ、大きなため息をついた。

 

 「まだ島のことが気になるのね」

 

 ミナトの大きなため息を聞いてアリアナが気に掛けている。

 

「うん……あの島は本当にこのままで良かったのかしら」

 

 ミナトはやはり今回の件が納得いかないようだ。

 

「オレもスッキリしないけど、彼等にはあれ以外の世界がないんだ」

 

「だから、現実に引き戻すのは無理だと?」

 

「うん、でも納得いかないのはオレもいっしょだよ、だから女神様に会ったら文句の一つも言ってやるしかないな!」

 

「そうね、今は悔しいけど、私たちには何もできないのね……」

 

「それにしてもユウトはそんなところからよく戻って来れたわよね」

 

「オレの場合は、おばあさんが仲間のところに帰れって言ってくれたんだ」

 

「おばあさんが帰れって?」

 

 アリアナが不思議に思うのも当然だ、クイントの木の力は絶対である。もう何百年も島民を捉えて離さないのだ。

 その力が働く夢の中で現実に戻す存在が現れるなど考えられないだろう。

 

「後、それに……」

 

(私もそばにおりましたから)

 

「そうそう、アルプがそばにいたから」

 

「!?アルプやっぱり喋れるのか?」

 

「どうしたの?ユウトったらいきなり何を言い出すのよ」

 

「今、アルプしゃべったよね?」

 

「なに言ってるの、アルプが喋るわけ無いじゃない」

 

(これはテレパシーでございます。ユウト様)

 

「テレパシー!?今アルプがテレパシーって」

 

 アルプの姿が変わっていき執事の姿の白髪の美しい青年に変わった。

 

「えーーー」

 

「私は不定形生物でございます」

 

「不定形生物というとスライムとかああいった?」

 

「はい、左様でございます」

 

「この度はユウト様の従者として同行させていただくことになりました。今後ともよろしくお願いいたします」

 

「ええ!!そうなの?」

 

「本人が驚いてどうするのよ」

 

「でもアルプさん、どうしてユウトの従者に?」

 

 さすがに、アリアナは冷静である。

 

「ユウト様の従者であるワタクシに敬称は必要ありません、みなさまワタクシのことはアルプとお呼びください」

 

「じゃあアルプ、あなたはなぜユウトの従者になったの?」

 

「それにはワタクシの生い立ちをお聞きいただいた方が早いかと思いますが、お話しさせていただいてもよろしいでしょうか」

「うん、じゃあみんなで聞いたあげましょうよ」

 

 ミナトが張り切って聞く体制になる。不定形生物アルプの生い立ちに非常に興味を持った様子だ。

 

「あれはもう随分と昔に感じます……」

 

 そしてアルプは語り始めた。

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