第23話 怪獣の島
「次の停車駅は、怪獣の島でございます。停車時間は5時間25分です」
車掌の声が車内に響き渡る。
ユウトの瞳が期待に輝いた。
「怪獣の島?」
「そこは、大小様々な怪獣が暮らす平和な怪獣の楽園なのよ」
アリアナの説明によれば、怪獣たちは人間に対して友好的であり、怪獣同士の間でも喧嘩はあれど命を奪い合うような戦闘は起こらないとのことだ。そのため現在では観光を主な産業としている村も存在しているそうである。
「マジで!? 早く着かなかなあ!」ユウトのテンションは爆上がりだ。
「子供っぽい」ミナトがあきれ顔で呟く。
そのとき、列車に大きな衝撃が走った。
「なんだ!?」
ユウトは咄嗟にミナトの手を掴み、身を守るように引き寄せる。アルプも警戒しうなり声を上げた。
「ふたりとも大丈夫?」
「あ…」
ミナトが赤面しながらユウトの手を振り解く。
その後は特に何事もなく列車はゆっくりと減速し、怪獣の島の駅に滑り込んだ。
「よっしゃ、降りるぞ!」
ユウトはそそくさとアルプを連れ列車から飛び降りた。
すると最後尾の車両を点検している車掌の姿が目に入る。
「車掌さーん!」
ユウトは大きな声で呼びかけながら、車掌に近づいていく。
「おやおや、ユウト様。どのようなご用件でしょうか?」
「車掌さん、何かあったんですか?」
「ああ、これでございますか。実は停車寸前に最後尾の車両に何かが接触してしまいまして。少々亀裂ができてしまったのです」
「ああ、あの衝撃の時だね。大丈夫なの?」
「ご心配には及びません。この程度でしたら自動修復機能で問題ございませんので」
「自己修復!さすがだなあ。…… じゃあ心配ないね、俺、怪獣の島を探検してくるよ!」
「はい、存分にお楽しみください」
ユウトとアルプは目をキラキラさせながら、駅舎から飛び出していった。
「ったく、もう…」
アリアナとミナトが後から駅舎に到着するがすでにユウトの姿はない。
二人は呆れつつも仕方なく後を追うことにした。
駅舎から飛び出したユウトが見た光景はまるで絵本の中に迷い込んだような不思議な世界だった。
駅の外にあるのはカント村。
これが観光用に作られた村だという。
村の中には人より小さい怪獣や人と同じくらいの大きさの怪獣もいる。
「ねえねえ、アルプ! 見てみろよ! こんなに沢山の怪獣がいるなんて、すっげえ興奮するなあ」
ユウトは目をキラキラさせながらアルプに感動を伝える。
『まったくもってご同感でございます。このような世界が存在していたとは私も驚きを隠せません』
アルプがテレパシーで返事をする。
二人は怪獣の姿に心踊らせていた。
「ユウト! 急に走り出して…はぁ、はぁ…」
ミナトが息を切らしながら、ユウトたちに追いついてくる。
「もう、置いていかないでよ!」
「ごめんごめん。でもほら、こんなの見たら我慢できないって!」
「まったく…」
ミナトは呆れつつも、ユウトの気持ちは理解できた。
「さ、行きましょうか。怪獣の島、私も楽しみにしていたの」
アリアナが優しく微笑みながら言う。一行は村の中へと歩を進めた。
「わぁ…なんか、不思議な感じ…!」
ミナトの瞳が、好奇心に輝く。
「ん? なんだアレは!?」
ユウトが指差す先に、村の外れの方に佇む巨大な影があった。
「あの怪獣はキュクロプスです。ここにいる中で一番大きいやつですがおとなしい怪獣ですよ」
そう言って通りがかりの村人が親切に教えてくれた。
「50メートルはあるんじゃないか?アルプ!もっと近くに見に行こう!」
ユウトは我慢できずに駆け出していく。アルプが慌てて後を追った。
「ちょ、ユウト!」
ミナトの制止も聞かずユウトはキュクロプスに近づいていく。
「はぁ…仕方ないわね」アリアナが苦笑する。
村の外に出てアルプと並走するユウトの視線の端を赤い影が横切った。
「ん?」
立ち止まって見てみるとそこには赤い小型の怪獣がいた。
そして、その怪獣を囲むように意地悪そうな怪獣が数匹。
「ありゃ!?虐められてる?」
ユウトは咄嗟にアルプを見た。
アルプも同じ思いだったようで、ふたりは同時に怪獣の群れに突っ込んでいく。
「ウオオオオォォォ!!」
ユウトの雄叫びが怪獣の島に響き渡った。
「おらぁ! そやめろー!」
ユウトの雄叫びに凶悪な怪獣たちが振り向く。
”グルルルルルル”
アルプの低い唸り声が怪獣たちの背筋を凍らせる。
怯んだ隙を突いてユウトは赤い怪獣の前に立ちはだかった。
「大丈夫か? もう怖がることはないからな」
赤い怪獣は驚いたようにユウトを見つめ小さく鳴き声を上げる。
『ユウト様!』
アルプが合図すると、再び怪獣たちに向かっていく。
「任せた! アルプ!」
ユウトはアルプに怪獣たちを任せ赤い怪獣を抱き上げた。
「よしよし、もう大丈夫だ」
赤い怪獣は安心したのか、ユウトの胸に顔をうずめる。
ウオオオオオオオオン
その時、アルプの雄たけびが響き渡った。
『これにて一件落着ですな』
振り返ると、凶悪な怪獣たちが一目散に逃げていく。
「さすがだな、アルプ!」
ユウトが笑顔で声をかける。アルプも満足そうに頷いた。
「ユウト!」
ミナトとアリアナがようやく追いついてくる。
ミナトが赤い怪獣に気づく。怪獣もまたミナトを見つめ返した。
「か、かわいい…」
ミナトがつぶやくと、赤い怪獣は不思議そうにミナトに近づいていく。
「ははっ、ミナトのこと気に入ったみたいだな」
ユウトが優しく微笑む。
「うん!レッド、レッドでいいわね。赤い怪獣っていうのも何だし」
ミナトが提案し、ユウトとアルプも賛同した。
「よーし、レッド! 俺たちと一緒に、キュクロプスのところまで行こうぜ!」
レッドは嬉しそうに鳴き、ユウトたちについていくのだった。
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