第4話 次元超特急イオタ-i9
大東京駅の迷路のような地下通路を、アリアナは迷いもなく歩いていく。
しばらく歩くと、ユウトは人通りがなくなったことに気づいた。
歩を進めていくと、前方に改札のようなものが見えてくる。
しかし、それはユウトがよく知っている無人改札とは違っていた。
聞いたことのある有人改札のようだ。
改札口の脇には、駅員が立つためのスペースが確保されている。
この改札脇に立つ職員が切符にパンチで穴を開けるなどして乗車券として証明していたのだという。
だが今そこには人の姿はない、その改札をアリアナはするりと抜けて改札の中へと入っていく。
改札の先の階段を降りていくとその先に広がるプラットフォームは幽玄な静寂に包まれており、光は柔らかくどこか幻想的な雰囲気を漂わせていた。
そしてその先に現れたのは荘厳でありながらも美しい列車だった。
「これが次元超特急イオタ-i9よ」
「これが次元列車……」
その列車は純白のボディーにこの世のものとは思えないほど繊細で精巧な装飾が施されており、光り輝く金色の線がその全身を美しく彩っていた。
まるで夜空を駆ける流星のように、静かにその場に佇むその姿は見る者を異世界の旅へと誘うかのようだった。
列車の扉が開き、アリアナが先に足を踏み入れようとしたその瞬間ユウトは躊躇いの言葉を口にした。
「ちょっと待ってよ、オレも乗っちゃっていいのか?」
アリアナは振り返り安心させるように微笑んだ。
「問題ないわ」
ユウトの顔にはまだ不安が残る。
「いや、でもこういうのはバカ高いパスが必要だったりとか……」
「必要ないわ」
アリアナの返答は即座に来た。
「異次元列車は乗る意思のあるものは誰でも乗れるの、旅に連れて行ってくれるのよ」
「そうなのか、まあオレとしては願ったり叶ったりだけど」
ユウトの口元には僅かに笑みが浮かんだ。この列車が彼に新たな世界への扉を開いてくれることを彼は信じていた。
「一つ確認しておかなければいけない事があるの。異次元列車は再びこの東京に戻ってくる保証はない。それでもいいわね?」
「ああ、後悔はしないさ」
ユウトはしっかりと前を向き一歩を踏み出す。
列車に踏み込むその一歩はユウトにとってただの一歩ではない。
彼は一瞬足を止め、深呼吸をした。
自分の人生においてこれほどの決断を下す瞬間はそう多くないだろう。
未知への旅立ち、そして母との再会の可能性。
彼の心は希望と不安がいりまじっていた。
列車に足を踏み入れた瞬間、ユウトは時間がゆっくり流れるような感覚に襲われた。
彼の心の中では母との思い出がフラッシュバックし、母が彼に残した言葉が蘇る。
"ユウトは強い子"
その言葉を胸に、ユウトは新たな世界への一歩を踏み出した。
列車内の空気は温かく、どこか懐かしい感じがした。
ユウトはその一歩を噛みしめながらアリアナの後を追う。
未来への期待と冒険への興奮が彼の心を満たしていく。
これから旅が始まるのだ。
ガラッと音を立てて客室への扉が開いた。
ユウトがその先で目にしたのは、列車の外観が示す荘厳さとは裏腹に温かみのある落ち着いた雰囲気の空間だった。
彼はほっと一息つき内心で安堵する。
(中まであの調子だと落ち着かないよな)
木材をふんだんに使った車内は席が向かい合わせに配されており、どこか懐かしささえ感じさせる。
アリアナはさっそく自分の席に座ろうとしていた。ユウトは彼女に近寄り、向かい側に座った。
どこかそわそわと落ち着かないユウトを見てアリアナは微笑む。
「落ち着かない?」
「ああ、いや!そんなことないさ」
ユウトは少し照れ臭そうに首を横に振りった。
「そう、じゃあ異世界とこの列車について話しましょうか。」
「あなたが知っている宇宙と似ていて次元の中に浮かぶように異世界が点在しているというのはさっき話したわよね。でも大きな違いがあるの、時間も空間も入り乱れてめちゃくちゃなのよ」
「時間も空間も……」
「そう、だから次元船のようなもので目的の時間に目的の場所へ着くのはなかなか大変なの、近距離ならさほど問題ないのだけど、長距離になると膨大なエネルギーと計算が必要になり常に修正しながら進むことになるわ。そこで異世界間にレールを引いて安全に安定して運行できるようにしたのよ」
「なるほどね、列車であるのにはちゃんと意味があるってわけか」
ユウトは納得し、アリアナに感心の眼差しを向けた。
「もちろんよ」
アリアナは彼の好奇心を喜ぶように続ける。
「それと駅の停車時間は次の駅までの安全を確保する目安がわかるまで決まらないの、だから大抵決まるのは停車の直前になるわね」
「安全の確保?」
「次元宇宙には巨大生命体や次元嵐なんていう未知の危険がゴロゴロしてるわ。それをできるだけ回避するためにこういった形がとられているのよ」
「巨大生命体?ほえー 次元宇宙ってやっぱり空の上の宇宙とは違うんだなあ」
ユウトの目は興奮で輝き、声は子供のような好奇心が満ち溢れていた。
彼は窓の外を見つめ、イオタ-I9が次元を縫うように進む様子を想像していた。
「そしてこの列車の中のものは無料で利用できるのよ。食事も無料よ」
アリアナが続けるとユウトの顔には驚きが浮かんだ。
「飯も?すっごくありがたいけど、パスも無料だし…この列車はいったいなんなんだ?」
「この列車は異世界の王族や政府などさまざまな組織の支援で時空管理鉄道局が運営しているの。だから資金は滑沢なのよ」
アリアナの説明はイオタ-I9がただの交通手段ではなく、異世界間の架け橋であることを物語っていた。
「なるほどね」
ユウトは納得したようにうんうんとうなずいている。
”ジリリリリリリリ”
その時、発車のベルが鳴り響いた。
空気圧によりドアが閉まりロックされる音が車内に響く。
車体が僅かに振動し、ゆっくりとイオタ-I9は動き出した。
加速していくにつれて外の景色が流れ始める。
白い車体に夜の街の灯火が反射して美しく輝き、真夜中の街を列車は走り抜けていく。
ユウトの脳裏に東京での思い出が次々と蘇った。
家族と過ごした日々、友達との笑顔、そして母が突然消えたあの日。
迷いを吹っ切るように彼は心の中で力強くつぶやく。
(オレは行く、オレは行くぞ、今は前だけを見て進め!)
列車はさらに加速し周囲の景色はぼんやりとした光と影に変わる。
そして列車はトンネルへと吸い込まれていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます