第3話 謎の美女

「さあ、ここなら大丈夫よ」

 

 女性はユウトをホテルの一室に案内し、ベッドに腰掛けるよう促した。

 ユウトは疲労と緊張でガタガタと震える足を必死に前に進めベッドに腰を下ろす。

 

「少し落ち着いた?ちょっと待ってて、すぐにコーヒーを入れるから」

 

 彼女は優しく微笑むとコーヒーメーカーのスイッチを入れた。

 少しすると湯気が立ち込め、香ばしい香りが部屋に広がる。

 ユウトは深呼吸をして頭の中を整理しようと努めた。

 先ほどまでの出来事があまりにも非現実的で、まるで夢の中にいるようだ。

 

「はい、飲んで、きっと落ち着くわ」

 

「ありがとう」

 

 女性が差し出したカップを受け取り、ユウトは小さくお礼を言った。

 温かいコーヒーを一口飲むと、ほろ苦さと共に体の奥底まで温もりが広がっていく。

 

「君は、一体何者なんだ?」

 

 ユウトは女性を見つめ、改めて尋ねた。

 彼女の美しさに気圧されそうになりながらもユウトは必死に平静を装っていた。

 

「私の名前はアリアナ、次元列車で旅をしているわ」

 

「次元列車!?」

 

「私の話は後でちゃんと話すから、まずはあなたの話を聞かせてくれる?えっと……」

 

「あ、オレは星野ユウト」

 

「うん、ユウトくん」

 

「ユウトでいいよ。アリアナ……さん」

 

「ふふ、アリアナでいいわ」

 

 アリアナは優しく微笑むと、ユウトを見つめた。

 ユウトはこれまで自分に起きた出来事を静かに語り始めた。

 父親はユウトが幼い頃に亡くなったと母に聞かされていたこと。

 10歳のときやつらに母が連れ去られたこと。

 それ以来、ユウトは一人で生き延びてきたが今日家を失ったこと。

 そして母が残したトランクを開け銃を手に入れ、奴らが現れたこと。

 

「そして私があなたを見つけた。今まで頑張ってきたのね……えらいわ」

 

「え?うん!あ、いやーそんなことないよ、ははは、まいったなあ……」

 

 アリアナはすなおに褒めた。

 しかし褒められることなど滅多になかったユウトは大いに照れている。

 

 そんなユウトを微笑ましくみていたが、アリアナは真剣な表情で話し始めた。

 

「さっきのロボット、あれは帝国の機械兵よ」

 

「帝国の機械兵?」

 

 突然の耳慣れない言葉にユウトも真剣に聞こうとする。

 

「そうよ、でもまずは次元宇宙について少し話さないといけないわね」

 

「次元宇宙?」

 

「次元宇宙は、無数の世界が星のように点在する多次元空間なの。あなたの知っている宇宙と似ているけど、もっと不思議で複雑な空間よ」

 

「パラレルワールドってやつかい?」

 

「そうね、パラレルワールドにはさまざまな解釈があるけれど、おおむねその認識で問題ないわ。あなたが今いるこの世界を含む多くの世界が存在していて、それらの中の一つ、ディメンタル帝国が他の世界、つまり次元宇宙への侵攻を開始しているのよ」

 

 アリアナが語る世界の話は、まるでファンタジー小説の一ページのようだ。

 しかし、今日起きた出来事を思い出すと、それが現実であることを受け入れざるを得ない。

 

「あれがそこの機械兵だと?でもそれがなんでオレや家族を狙うんだ」

 

「それは私もわからない、でもあなたの持っている銃は連合側のもののようだから帝国の敵対勢力ということになるわね」

 

「帝国の敵対勢力に父さんと母さんが?」

 

「今はまだなにもわからないわね、銃については車掌さんなら何かわかることがあるかも知れないけど……」

 

「車掌さん?」

 

「そう、さっきも言ったように私は次元列車で旅をしているの、異世界間を渡る方法はいくつかあるのだけど、最も確実に長距離を移動できるのが次元列車ね。その車掌さんはさまざまなことに精通しているわ。それに……」

 

「それに?」

 

「あとは会ってみればわかるわ」

 

「会ってみればねえ」

 

 ユウトは車掌さんにもがぜん興味がわいて来る。

 

「それでねユウト、あなた次元列車に乗って一緒に旅をしてみない?ここにいればきっとまた奴らは襲って来るでしょう。でも列車に乗ってしまえばそう簡単にあなたを見つけることはできないと思うわ。それと列車は様々な世界を巡っていくわ、だからあなたのご両親のことも何かわかるかも知れない」

 

 アリアナの言葉で、ユウトの心に希望の光が差す。列車に乗ればこの世界を離れられるかもしれない。

 そして父や母のことを知るための手がかりが得られるかもしれない。

 

「オレが列車に?乗れるのかい?」

 

 ユウトの目がキラキラと輝き出した。

 

「ええ、どうする?行く?」

 

「当たり前だよ、こんなチャンス逃せるもんか!」

 

「うふふ、わかったわ。とりあえず駅に行きましょう」

 

 ユウトは未知の世界への扉が開かれようとしていることを感じていた。

 胸の奥底から新たな世界を見たいという衝動が湧き上がってくる。

 しかし彼は、自分の人生がいま大きく動こうとしているのだということを知るよしもなかった。

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