第29話 冬将軍襲来
村長の話に、一同は息を呑んだ。
「雪女?」ユウトが声を上げる。その目は好奇心と不安が入り混じっていた。
ミナトが口を開く。その声は少し震えていた。
「雪女の伝説を聞いたことがあるわ。旅人を凍らせて殺してしまうという話だったと思いますけど…」
「そんなに恐ろしいものではない」
村長が首を振る。
その表情には、複雑な思いが浮かんでいた。
「雪女の元へ行った村人は数年で帰ってくる。しかし、性も魂も尽き果てたと言った感じで、まるで生ける屍じゃ。だが、雪女の元で役目を果たしての結果であろうということで、村では手厚く庇護しておる」
村長の言葉に、部屋の空気が重くなる。囲炉裏の火がパチパチと音を立て、その光が皆の顔に揺らめいていた。
「それにより」村長は続ける。「冷害や魔物などの厄災から雪女に守ってもらっておるのじゃ」
アリアナが眉をひそめる。
「でも、それは…」
その時、突然の風の音が家を包み込んだ。窓ガラスが激しく揺れ、外の様子が一変する。
村人が村長の家に慌てて駆け込んでくる。その顔は恐怖で青ざめていた。
「村長!冬将軍が来ました!」
村長も驚く。その目は大きく見開かれ、声も震えていた。
「なんで今頃、こんな季節に…」
「冬将軍?」ユウトが首をかしげる。
「冬将軍は冬に厳しい寒さや大雪をもたらす寒波のことだと思うんだけど…」とアリアナが説明を始める。
「いや」村長が深刻な表情で遮る。
「冬将軍とは冬に来る魔物じゃ。配下のものを連れてやってきて略奪のかぎりをつくす。襲われて消滅した村もいくつもある」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、外から悲鳴が聞こえてきた。
ユウトは反射的に立ち上がる。その目には決意の色が浮かんでいた。迷うことなく銃を抜き、家の外へと飛び出す。それにアルプも忠実に付き従った。
「ユウト!」ミナトが叫んだ時にはすでにユウトの姿はなかった。
外に出ると、世界が一変していた。穏やかだった雪景色は、今や猛吹雪の中にあった。
視界は悪く、風が顔を切りつけるように吹きつける。
そんな中、村の女性が足軽の格好をした冬将軍の配下にまさに襲われようとしていた。
その姿を見たユウトは、躊躇なく銃を構える。
「やめろ!」ユウトの叫び声と共に、光弾が闇を切り裂く。
配下は一瞬で倒れ、村人を守ることができた。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
ユウトはアルプと共に村の中心へと駆け出す。
吹雪の中視界は極めて悪かったが彼らは必死に前に進んだ。
途中何度も冬将軍の配下と遭遇し、その度にユウトは銃を撃ち、アルプは体を変形させて攻撃をかわした。
やがて村の中央広場付近でユウトは冬将軍と対面する。
その姿はまさに冬の化身のようだった。
全身が氷の甲冑で覆われ、目は青く光っている。
冬将軍は無言で配下のものをけしかけてユウトとアルプに襲いかかる。
「くそっ!」ユウトは歯を食いしばりながら次々と押し寄せる敵を倒していく。
しかしその数があまりにも多く、徐々に追い詰められていった。
その時、背後から ミナトの声が聞こえた。
「ユウト!」
振り返るとミナトとアリアナが駆けつけてきた。
ミナトは手にレーザーセイバーを握りその姿はまるで剣士のようだ。
「一緒に戦うわ!」
三人と一匹は背中合わせに立ち、迫り来る敵に立ち向かう。
ミナトはレーザーセイバーを巧みに操り敵を次々と切り裂いていく。
車掌さんの訓練を受け始めて以来、彼女の実力は驚くべき速さで向上していた。
その成果が今、まざまざと示されている。
アリアナは二丁拳銃を華麗に扱いまるでダンスを踊るかのように敵を倒していく。
その優雅な姿は戦場に咲く一輪の花のように美しく、力強かった。
徐々に優勢になっていくがまだまだ数が多いため余裕はない。
突然ミナトの悲鳴が聞こえる。
「きゃあっ!」
ユウトが振り向くと、冬将軍がミナトに襲いかかっていた。
その巨大な日本刀がミナトに向かって振り下ろされようとしている。
「ミナト!」ユウトは咄嗟にミナトの方へ飛び込む。
スレスレのところで飛びついて一緒に転がり、冬将軍の攻撃を交わす。雪の中を転がる二人。
「大丈夫?」ユウトがミナトを心配そうに見る。
「う、うん…ありがとう」ミナトの頬が赤くなる。
しかし、安堵する間もなく、冬将軍の次の攻撃が迫っていた。
ユウトはミナトを庇うように立ち上がる。
「くそっ…」
その瞬間、女性の声が響く。
その声はまるで氷のように冷たく美しかった。
「やめなさい」
突如として、激しい吹雪が起こる。
冬将軍たちが動揺する中、吹雪はさらに強まり、周囲が見えなくなる。
ユウトとミナトは、互いにしがみつくようにしてその場にしゃがみ込む。
そして、突然の静寂。
吹雪が収まると、驚くべき光景が広がっていた。
冬将軍と配下の足軽たちは、全て凍りついていたのだ。
「え…?」ユウトが呆然と立ち上がる。
冬の魔物が凍りついていることに驚くユウトとミナト。
二人は、目の前の光景が信じられないという表情だった。
そして冬将軍の影から一人の女性が現れる。
白い着物を着たこの上なく美しい女性。
その姿はまるで雪そのものが人の形を取ったかのようだった。
「遅くなりました」雪女がユウトに語りかける。
その声は、春の訪れを告げる風のように優しかった。
「この季節に冬将軍が襲ってくるとは、少し油断しました」
”ふう” 雪女は冬将軍に近づきそっと息を吹きかける。
すると冬将軍の体がバラバラに砕け、氷の結晶となって風に舞い散った。
ユウトは、雪女の人とは違う美しさに見とれていた。
その姿はまるで冬の女神のようにみえた。
しかし、次の瞬間、予想もしない出来事が起こる。
雪女は、今回の生贄と間違えたのか、一陣の風と共にユウトを連れ去ってしまったのだ。
「ユウト!」ミナトの叫び声が空しく響く。
一瞬の出来事に、唖然とするミナトたち。
アリアナは素早く行動を開始する。
その表情には、決意の色が浮かんでいた。
「急いで村長のところへ戻りましょう。ユウトを取り戻さないと」
残された仲間たちは突然の展開に戸惑いながらもユウトを救出するための行動を開始する。
吹雪は収まったものの、空には不穏な雲が垂れ込めていた。
これからの展開を予感させるかのように。
異世界鉄道〜父さんと母さんが帝国にさらわれたので謎の美女と次元宇宙を巡る旅に出ます〜 サカイ阿蘇 @saszero
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