異世界鉄道〜父さんと母さんが帝国にさらわれたので謎の美女と次元宇宙を巡る旅に出ます〜

サカイ阿蘇

第0話 旅路の果て

 次元超特急イオタ-i9は終着駅に着いた……はずだった。


 列車からホームに降りた瞬間、ユウトは強烈な既視感に襲われた。自然と外へと足が向く。

 駅舎を出たユウトはその光景を見て愕然とした。

 夕焼けが美しく駅舎を赤く染めている。

 この場所を、この風景を、彼は確かに知っていた。


 "ドクン"


 自分の心臓の跳ねる音が耳に響いてくるようだった。


 そうだ、ここは間違いなくユウトの育った世界、東京だ。


「そんな……ばかな」


 何がどうなっているかわからない、ユウトは思わず駆け出した。


「ハァハァハァ」


 ユウトは全速力で走り続けていた。

 最後の曲がり角を曲がるとそこには忘れもしない我が家があるはず。

 そしてそれは確かにあった。母と過ごしたあの家が……

 目的地に到着したユウトは歩みをゆるめて家へと向かう。

 家の前までたどり着くと中から懐かしい笑い声が聞こえてきた。


 ドアを開け家へと入る、そこには忘れもしない母の笑顔があった。


「あら、おかえりなさいユウト」


「かあさん?……」


 信じられない光景に、ユウトは言葉を失う。そこには、数年前に別れた母の姿があった。

 変わらない優しい笑顔で、ユウトを迎えてくれている。


「大きくあったなあ、ユウト」


「え?とう…さん?やっぱり生きてたんだな…よかった」


 母の隣には、ユウトの記憶にある微かにある父の姿もあった。

 ユウトが幼い頃に亡くなったはずの父が、そこに座っているのだ。


「心配かけたな。つもる話もあるが、まずは座れ」


「あ、ああ」


 ユウトは信じがたい状況に戸惑いながらも、言われるがままにテーブルに着く。


「えっと」


 ふと、さっきからユウトをチラチラと母の影から見ている幼い女の子に気づく。


「ふふ、恥ずかしいんですって、ほらあいさつして」


 優しく娘を促す母。少女はモジモジしながら一歩前に出ると、恥ずかしそうに自己紹介した。


「星野 ユイ、です」


「えーと、もしかして……」


「ええ、あなたの妹よ。うふ」


 母の言葉に、ユウトは驚きで目を見開く。妹?自分に妹がいたなんて。


 そういうと母はモジモジしながら父の方をチラチラとみている。まるで何かを伝えたくてうずうずしているかのようだ。


「まあ、そういうことだ、それにしてもお前も大人になったな」


「何がそういうことだよ、人の気も知らないで……とってつけたように大人になったとかまったく!」


 ユウトは混乱しながらも、父の言葉に思わずツッコミを入れる。


 ああ、でもオレの妹か、とユウトは改めてユイのほうを見る。贔屓目じゃなくかわいい。

 さすが我が妹!となんだか誇らしくなる。


「ユイちゃ……ユイは何歳になったんだい?」


 するとユイは小さな手を大きく開いて「5歳!」と元気よく答えた。


「5歳か、うん、元気でよろしい」


 ユイに向かって満面の笑みで答える。


 余計な詮索をする気はないが、それにしても連れ去られてすぐに二人は再開してたってことか。

 うーん、とユウトは考え込んでしまう。


(でも、よかった)


 ユウトは両親が幸せな時間を過ごせたと思うと少しだけ安堵した。


「ユウト、お前の旅の話を聞かせてくれるか」


「あ、うん、そうだね、オレの旅はまず……」


 ユウトは次元超特急イオタ-i9で旅立った日のことを思い出し、話し始めた。


「イオタ-i9で旅立って最初の謎は母さんが残したこの銃だった。だからオレは車掌さんに色々聞いたんだ。車掌さんは、見た目はすごいゴツい人でスーパー戦士って感じのオーラを持つ人なんだけどオレに色々教えてくれた。この銃がおそらく父さんのものだろうってこともね」


「確かにそれはオレの銃だ。さすがだな」


「さすがだな?」


 まるで車掌さんのことを知っているかのような口ぶりが気になったがユウトは話を続けた。


「……まあいいや、それでね、ミナトって子と一緒に旅をすることになったんだけどこの子がすごいんだよ。オレと歳が一緒なのに長距離航行可能な次元船を作ろうとしてたんだ。エンジンの理論は完成していていろんな世界を周ってどんどん完成に近づいていったんだよ」


「ミナトちゃんなら会った事あるわよ!」


「えーー!ミナトに会った事あるだって?」


「そう、すっごく綺麗な娘よね。しっかり者だったし、そうそうあなたのことも話してたわよ。あんなこが私の娘になったらどうしましょう。うん、それがいいわね。あー楽しみだわあ、ユウト!きっとライバルは多いわよ!ガンバって!!」


「な!?なに勝手に納得してんだよかあさん!ミナトはそんなんじゃないよ。オレには……」


(オレには?……)


(…………)


 ユウトの心にふと違和感が生まれる。だがその違和感がなんなのかまだわからなかった。


「えー残念だわぁ、でもまだチャンスはあるでしょ!」


「ユイもミナトお姉ちゃん大好き!!」


「えーーー!ユイも知ってるんだ?!まいったなあ、あ!そうそうペットもいるんだよ!ホワイトシェパードで名前はアルプって言うんだ!」


「すごい……お兄ちゃん!いいなあ。ワンちゃん?もふもふなの?」


 必死に話題を変えようとするユウトの話にユイはまんまと乗っかった。


「そう、ワンちゃんだよ。もちろん、もふもふだよ!」


 その後もユウトは自分の冒険譚を大げさに身振り手振りを加えて話した。

 父も母も妹も楽しそうにユウトの話を聞いている。

 初めての異世界で出会った美しいエルフの少女の話、大怪獣から仲間を救った話や異世界の勇者と共に魔神を倒した話、スーパーロボットとの友情物語、雪女のみゆきちゃんやアンドロイドの少年との旅の思い出。


 そしてディメンシア帝国との戦い……


「帝国領に列車が入って、二人がいるかもしれないと色々情報を集めたんだ。それが帝国にバレて危ないところをレジスタンスに助けられたんだよ。それで一時期行動を共にしてたんだ。父さんの話も彼らに聞いたよ。やっぱりすごい戦士だったんだな」


 ユウトは嬉しそうに話した。


「そうか、その頃は帝国と自由次元連合の戦いも落ち着いていて各所でのレジスタンス活動がほとんどだった。だからユイのために一時戦線を離脱していたんだ。お前の話も後になって聞いていたよ。ありがとうユウト」


「うん、ユイのことは知らなかったけど、身を潜めていてどこにいるか仲間内でもわからないって話は聞いたよ。それでもなんとかならないか探してみたけど結局わからなかった。さすがだね」


「その時、会えていたらな……」


「うん、そうだね……」

 

 そしてしばしの沈黙が流れた。

 

 喜びと安堵の中にも、ユウトの心のどこかで違和感がくすぶっていた。

 この状況があまりにも現実離れしていることに、ユウトは薄々気づいていた。

 そしてとても大事なことを忘れている気がする。

 しかし愛する家族との団欒を前に、その違和感を言葉にすることができない。


「いい仲間に巡り会えたな……」


「うん」


「それで?お前の話は終わりか?」


「え?まあ、あらかた話したけど、確かにもっと色々と話したいことはあるけどさ、それはまたおいおい……」


「いいのかそれで」


「いいのかって……」


 !!!!!!

 

 父の言葉で、ユウトは今自分に起こっていることを理解した。

 もちろん彼がこれまで経験してきたこともその助けになっていたであろう。

 そのことがわかっているかのように父は嬉しそうに声をかける。


「強くなったな、ユウト」

 

 父の目はとても暖かくユウトを見ている。母の目は少しだけ寂しそうに見えた。

 ユウトは家族の顔をかわるがわる見る。その姿を目に焼き付けるように……

 

「ありがとう、父さん、母さん」


 意を決したようにユウトは立ち上がる。


「ゆくのか」


 父はまっすぐにユウトを見ながら言った。


「うん、もう十分話せたしね。オレをこの旅に連れ出してくれた人がピンチなんだ。彼女がいなければオレはここまで来れなかった。だから今度はオレが彼女を守らなきゃ」


「美人か?」


「あったりまえだろ、とびきりの美人さ」


「美人のために命をかける、さすがオレの息子だ!」

 

「ああ、間違いなく父さんの息子だな!」

 

 ユウトはチラリと母の方を見て答える。それに気づいた母が照れくさそうに父を見て頬を染めた。

 そして3人で大いに笑った。

 こんな軽口を父と交わせる日が来るとは思わなかった。

 家族でまた笑いあえる日が来るとは思わなかった。


「思いっきりやってこい、これはお前の戦いだ、我々のことなど気にするな」


「いってらっしゃい、ユウト」


 そういうと母はそっとユウトを抱きしめた。懐かしい母の匂いがする気がした。涙がこぼれ落ちそうになった。

 今は泣く時ではない!なんとかこらえて微笑んだ。

 自分の心に勇気の炎がともって行くのがわかる。この二人の息子であることが誇らしく思えた。

 妹の髪をくしゃくしゃと撫でると、きびすを返して家族に背を向けて歩き出す。


 その背中に父は、大きく力強い声で言葉を投げかけた。


「ユウト!!男になったな……」

 

 父の言葉を背中に受け、親指を立てて振り向いて微笑む。


 彼の家族もまた、笑って見送っている。

 それは我が息子の成長した姿を喜んでいるようだった。


 ユウトはあの旅立ちのときと同じように力強く一歩を踏み出す。

 外に出て、深呼吸をして空を見上げる。夕焼けは美しく、世界を金色に染めていた。


 ホルスターから銃を取り出し天空へと向ける。

 夕陽に照らされて重心が鈍く輝いていた。

 ユウトはもう一度ゆっくりと深呼吸すると、そのまま天空へと向かって引鉄をひく。

 天を引き裂くように銃声が鳴り響き青白い光弾がほとばしる。


 ”ばかな……”


 天空から声がこだまする。

 ユウトはありったけの声でそれに答えるように叫んだ。

 

「人間を馬鹿にするな!!さあ、勝負だ!」

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