第8話 エルフの少女

 そよ風に乗って一片の光が降り注ぐかのように、一人の少女が姿を現した。

 

 金色の髪は太陽の恵みを受けた稲穂のように輝いている。

 透き通る白い肌は朝露に濡れた白百合の花弁を思わせる。

 そして、澄み渡る青い瞳は深く澄んだ森の泉のように神秘的な光を宿している。

 少女はまるで大地を踏まぬかのような優雅な足取りでユウトの前に立つ。

 そして、春の訪れを告げる花のような笑顔を彼に向ける。

 その笑顔はまるで暖かな陽光が森に差し込むかのように周囲に温もりを広げていった。

 

「こんにちは、旅の人。私はミューリンクス」

 

 少女の声は清らかな水の音色のように澄んでいた。

 

「あなたたちの戦いぶりを見ていたの。最後はちょと危なっかしかったわね」

 

 そう言って少女は軽やかにユウトに歩み寄る。

 まるで大地を踏まずに宙を舞うかのようなしなやかな動き。

 ユウトは思わず息を呑んだ。

 

「君は……エルフ?」

 

 ユウトの問いかけに少女は楽しそうに頷いた。

 

「そうよ、そんなにめずらしいかしら」

 

 ミューリンクスはユウトの反応に少し驚いたようだった。

 確かにエルフの数は人間に比べればそれほど多くはないが、ここソルディア王国の周辺ではエルフと人間が共存している。

 だからユウトのような反応のほうが珍しいといえる。

 

「ええと、ごめん。オレ、エルフには会ったことなくて…」

 ユウトは頭を掻きながら照れくさそうに言った。

 

「ふーん、まあいいわ、それよりあなたすごい魔道具を持っているのね。オークの集団をあっという間に全滅させるなんて」

 ミューリンクスはユウトの銃を興味深そうに眺めている。

 

「魔道具?あ、このじゅ…!?」

 

 銃という言葉を使いそうになってユウトは慌てて言葉を飲み込む。

 ユウトは内心で焦りながら、何とか誤魔化そうとする。

 

「あ、ああ、これは……その……特別な魔法の杖なんだ。うん」

 

「そう。魔法の杖…」

 

 ミューリンクスは少し疑わしい目をしたが追及はしなかった。

 

「ところであなたたちこれからどこに行くの?」

 

「えっと、ソルディア王国の城下町に行こうと思って…」

 

「だったら案内しましょうか。私、この辺りのことならよく知ってるの」

 

「え、でも…」

 ユウトはチラリとアリアナを見る。

 

「ありがとう、ミューリンクス。ぜひお願いしたいわ」

 

「あ、うん、そうだな!よろしくたのむよ、ミュー」

 

「ミュー?」

 

「ミューリンクスだからミューだろ?」

 

 何かおかしなことでも言ったか?とでもいうような顔でユウトはミューリンクスを見ている。

 ミューと呼ばれて少し戸惑うミューリンクスだったが不思議と悪い気はしないようだった。

 

「え?あ、まあいいわ」

 

 ミューリンクスは楽しそうに先頭に立って歩き始めた。

 ミューリンクスの案内で彼らはソルディア王国の城下町へと向かっていく。

 木漏れ日が差し込む中、鳥のさえずりと心地よい風が冒険者たちを迎えてくれる。

 

 アリアナとミューリンクスは、楽しそうに会話をしながら歩いている。

 そんな二人の後ろをユウトがぼんやりと歩いていた。

 

 彼の目はミューリンクスの後ろ姿に釘付けになっている。

 ミューリンクスの長い金髪が、陽光を浴びてキラキラと輝いている。

 まるで太陽の光そのものが彼女の髪の中に宿っているかのようだ。

 スラリとした背中からしなやかな腰のライン。

 エルフ特有の優美な立ち振る舞いが彼女の美しさをさらに引き立てている。

 

「キレイというか、かわいい?いや、可憐?それとも……幻想的?」

 

 ユウトは必死に彼女の美しさを言葉で表現しようとする。

 でもどの言葉も彼女の魅力を十分に言い表せているとは思えない。

 

「アリアナもすっごい美人だけど、ミューリンクスはまた違う魅力があるよな」

 

 アリアナの美しさは大人の女性らしい落ち着きと優しさを感じさせる。

 一方、ミューリンクスの美しさはより神秘的で、どこか非現実的ですらある。

 

「エルフって、こんなに美しいものなのか…」

 

 ユウトは感嘆のため息をつく。

 まるで絵画の中から抜け出てきたような美しさ。

 それが今ユウトの目の前にある現実なのだ。

 

「ねえ、ユウト。どうしたの?さっきからブツブツと」

 

 ミューリンクスの声にユウトはハッと我に返る。

 

「え?あ、な、なんでもないよ!」

 

 慌てて答えるユウトにミューリンクスは不思議そうな顔をする。

 

「着いたわよ」

 

「うん?」

 

 ユウトが顔を上げると、そこには圧倒的な光景が広がっていた。

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