第17話 私、勇気出してお願いする意味なかったじゃん
※人が死にます(過去)。シリアスにご注意ください。
僕は―遠藤連は5歳の時、子役・小松士郎のアシスタントをしていた。正しくはいつの間にかアシスタントになっていた。
最初は5歳の子役をリラックスさせるために連れてこられただけだった。その時の調子が良かったために、それから出番があるたびに呼ばれるようになった。
その結果、士郎と僕は仲良くなった。嫉妬などは特になく、純粋に良い演技をしてほしいと思い、一生懸命、お手伝いをした。
その甲斐があってか、士郎の演技は見違えるほど上手くなった。プロ俳優に負けていない、どころがプロ俳優よりもうまいと言っても過言ではなかった。
ある日、僕は風邪を引いた。なんて事のない、ただの風邪だ。翌日には元気になった。しかし、その日の士郎の演技は、僕がアシストする前の演技に戻っていた。
下手になったわけではないが今までの演技に比べると、どうしても見劣りをしてしまう。でも、僕が行くと、とても上手い演技をする。僕も周りの大人も、『なじみのアシスタントである』僕がいないから、調子が悪くなっている物だと思っていた。
しかし、一人だけ―もしかしたら二人だったかもしれない―違う考えに至っていた。僕のおとうさんこと、プロデューサーは見抜いていた。
しばらくたったある日、プロデューサーは、僕に士郎ではない俳優のアシスタントをするように、オモチャを餌に頼んだ。僕は特に断る理由もなかったので、それを了承した。そして一生懸命、手伝いをした。
すると、その俳優はとても素晴らしい演技をした。僕の主観だが、初めて士郎よりもうまい演技をする人だと感じた。
それから、プロデューサーに頼まれて、僕ははその他何人かの俳優のアシスタントをした。全員が素晴らしい演技をした。
その時、僕はある考えに至った。士郎の高い演技力は『なじみのアシスタントである』僕のおかげではなく、僕が『アシスタントをした』おかげではないか、と。
しかし子供であった僕でも、そんなことがあるはずがないと思った。アシスタントによってそんなに演技に差が出るのはおかしい、と。
そこで僕は、士郎のお手伝いで手を抜いてみた。すると、士郎の演技力は落ちた。もっと手を抜くとさらに落ちた。しかし一生懸命お手伝いをすると素晴らしい演技を魅せた。
非常に納得しがたい話だが、僕はアシスタントの才能があると感じた。
それと同時に、もしくはそれ以前から、士郎は感じていたのかもしれない。『この演技は本当に自分の実力なのか』どうか。
ある日、僕は士郎に「今日は何もしないでくれ」言われた。言われた通り、何もしなかった。すると、士郎は僕がお手伝いする前の演技しか出せなかった。とうとう、なじみのアシスタントがいない不安や緊張が言い訳にできなくなった。
それから少し経ち、士郎が自殺した。そして僕もアシスタントをすることはなくなった。
そもそも仕事がなくなったとか、ちょっと業界がざわついたとか、いろいろ理由はあるが、友達をなくした喪失感も大きかった。
「あまり言いたくない過去ではあるが、別に言えないような過去ではない。ただ、僕はもうアシスタントはしたくない」
責任を感じないことはないが、事故のようなものだ。いつまでも引っ張るわけにはいかない。だから今となっては割り切って考えている。
「やっぱりトラウマになっているの?」
珍しく音無が踏み込む。
「別にトラウマとか罪悪感とかでしないわけじゃない。今ならそこまで思い詰めらせないように対処できる自信すらある。だけど・・・」
「じゃあさ。私の手伝いをしてくれない?遠藤君に手伝ってもらった方が絶対に良い物が作れる気がするんだ」
「・・・」
「大丈夫。私はその成功が、自分の力ではなかったとしても、気にしない」
それはそれで問題もある気はするが、恐らく励ますつもりで言ってくれたのだろう。
「・・・分かった。そこまで言うなら手伝おう」
「ありがとう」
音無は転校して一番の笑顔になった。
「その代わり、調子がおかしくなったり異変があったらすぐに言えよ」
「もちろん」
「水を差すようで本当に申し訳ないんだけど・・・、蓮って今までもちょこちょこ誰かの手伝いをしていたよね」
香川が水を差す。
「数回なら大丈夫かなと思って・・・」
そういえば、手伝いをしていた気がする。
「・・・私、勇気出してお願いする意味なかったじゃん!」
そして、転校して1番の大声が音無から響いた。
「私、勇気出したのに。久しぶりにあんなに頑張ったのに・・・」
音無が露骨に落ち込んでしまった。
「蓮、これって私が悪い?」
香川が僕に相談する。
「分からない。だが少なくとも香川だけの責任ではないと思う」
「私、うまく励ませる気がしないんだけど。蓮、励まして」
「今回だけだぞ」
僕のせいでこうなったと言っても過言ではないので、今回は僕が励ますことにした。
「音無、その・・・騙したみたいで悪かったな」
「別に遠藤君は悪くないよ。勝手に先走ったのは私だから」
音無が卑屈モードに入っている。
「確かに手伝いは何回かしているが、1度きりじゃない手伝いはあの日以来初めてだ」
正しくは覚えていないが、覚えていないのなら、なかったのと同じだ。
「本当?私、頑張った意味あった?」
「ああ、とてもうれしかったよ」
「そう。・・・心配かけてごめん」
そのセリフを言うにはちょっと時間が短い気がするが、気のせいだろう。
「奏花ちゃん、元気出たみたいだね。蓮、ありがとう」
「心配してくれて、ありがとう」
その後、今日は夜も遅いので寝ることになった。
「じゃ、お休みー」
香川は自称エスカレーターで上に上がっていく。
「遠藤君、香川さんのエスカレーターって上昇機能ついていたっけ?」
「僕の記憶が正しければついていなかったはずだ」
いつの間にか改善されたのかもしれない。
「でも、この仕組みって絶対しんどいよね。遠回りでも階段上った方が絶対に楽だと思うんだけど」
改造されたエスカレーターにはもう一本ロープが増えており、それを全力で引くことで昇れるみたいだ。もはやエレベーターというツッコミは野暮なんだろう。
「さぁ、僕には理解できないが地球にやさしいからいいんじゃないか」
「確かにエコそうではあるよね」
僕も今日は自室でゆっくりと寝るか。
他のみんなも寝てしまったので、私も寝るか。そう思って、自室に戻って目をつむる。
「なんか今日は壮絶な日だった気がするな」
私のふとした言葉で、遠藤君の意外な過去を掘り出してしまった。でも、最終的には問題なく解決してよかったな。私が勇気を出した意味はあるよね、たぶん。
・・・何か一つ大切なことを忘れている気がする。しかも、結構大きなことを。しかし思い出せない。誕生日とかそんなことだったかな。
うーん、思い出せないということはその程度のことなのかもしれない。そう信じて私は眠りについた。
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