第25話 そんなあなたは、いいものは使いたいけど自分では買わない庶民的なタイプ

「梶井、何をしているんだ」


珍しく梶井がウロウロしている。


「いや、近くに人影が見えた気がしてな。気のせいだったらいいんだが」


「どこで見えたんだ?」


「そこの木の間だ」


「じゃあ、行ってくる」


「ああ、気を付けろよ」



梶井の指し示した場所に行ってみると女の子が1人で座っていた。恐らく同じく夜景を見に来たのだろう。


「誰!?」


気づかれてしまったか。


「脅かせてしまったなら申し訳ない。女の子が1人で夜にここまで来るのは珍しいから見てしまった」


「大丈夫、何回も来ているから」


今まで大丈夫だからと言って、今回も大丈夫とは限らないが、そんなこと分かっているだろう。


「蓮ー。そっちに何かあるのー?」


そう言いながら香川がやってきた。その後ろにみんなが付いてきている。


「いや、1人で夜景を見ている女の子を見つけてな。ちょっと心配だっただけだ」


「え、この子1人なの?女の子がこんな時間に1人でこんなところにやってくるのは危ないよ?ところで名前は?君も夜景好きなの?」


「え、えっと」


女の子が困惑している。というより香川のマシンガンクエスチョンを受けてまともに返せた奴をまだ見たことがない。


「一気に質問しすぎだ。1つずつにしろ」


「あ、ごめん。じゃあまず、トイレットペーパーはシングル派?ダブル派?それともトリプル?」


なぜ最初の質問がそれなのだろうか。


「トイレットペーパーはシングルをよく買うかな?でも好きなのはダブル」


順応するの速すぎだろ。


「なるほど。そんなあなたは・・・いいものは使いたいけど、自分では買わない庶民的なタイプ。また、超高級品を出されると遠慮してしまったことはありませんか。またこのようなタイプの人は、トリプルのトイレットペーパーをあげると大事に取ってしまい長期間使わない可能性が非常に高いので、ダブルやシングルのトイレットペーパーをあげた方が遠慮なく使えるでしょう。・・・どう?当たってる?」


「すごい・・・ほぼその通りだよ。えっと・・・あなた、は占いが趣味なんですか」


違う。たまたま香川と同じ答えだっただけだ。自分に当てはまることをそのまま言っているだけだろう。


「初めてやったんだけど、楽しいね。あ、私、香川朝海。気軽に正体不明の美少女、あさみんって呼んでね」


美少女かどうかはともかく、正体不明っていうのは当たらずとも遠からずだろう。あと、あさみんなんて呼ばれたことないだろ。


「えっと・・・よろしくね、あさみん。えっと私は佐久万幽栖さくまん ゆず。名前自体はありふれているけど、幽霊の幽に有栖の栖で幽栖。幽栖って呼んでくれたらうれしい」


適応が速いというより、純粋なタイプな気がする。


「僕は遠藤蓮。何と呼んでくれても構わない」

 

「じゃあ、れんれん」


予想の斜め上をいくあだ名をつけられた。初対面だよな。別にいいけど。



各々自己紹介をし、梶井はるいるい、赤坂はすんすん、白石はゆりりん、音無はそうちゃん、というあだ名をつけられた。大体この子のネーミングセンスが分かってきたな。


「ところであさみんたちは旅行でここに来たの?」


「そうだよ。ここは夜景がきれいだから一度は来たかったんだ」


「そう言えば、ふもと近くは観光客が多かった気がする」


幽栖は曖昧な感じで答える。


「幽栖は旅行じゃないのか」


「違うよ。数年前からここに住んでいるよ。街の少し右寄りにある大きい家が私の家。佐久万っていう名字は珍しいからすぐわかると思うよ」


「会ってすぐに住所なんか教えていいのか?」


「大丈夫、私は基本家にいるから。それに悪い人じゃなさそうだし」


「じゃあお礼に私たちの住所を教えるね」


おい、勝手に教えるな。


「朝海、俺たちが今泊まっている家は蓮の友達の家だろ。勝手に教えるのはさすがにダメだ」


「あ、忘れてた。ごめん、住所やっぱ教えられない」


梶井が香川を制す。梶井はそういうところはしっかりしているので安心だ。


「まあ、別に住所を教えられても行けないから」


幽栖は苦笑いで答える。


「旅行の予定が一通り終わったり、つぶれたりしたら家に来て。観光雑誌とかネットには書かれていない穴場を教えてあげる」


「え、いいの!?明日行く。絶対」


音無が食い気味に答える。


「香川さん、今回の旅行の予定なかったの?」


「当日に行きたいところに行く予定だったから。こんな絶好の機会ないよ」


「楽しそうだね。じゃあ、待ってるね。私はそろそろ帰るね」


幽栖も楽しそうにしながら帰る準備をし始めた。


「もう!?って2時か。時が経つのって早いね。私たちも帰ろう。街の光もほとんどないし」


「そうだな。足元気を付けろよ」



家に戻ると、特に話すこともないので寝ることになった。


「香川、音無をあまり寝不足にするなよ」


「大丈夫、オセロするだけだから」


これは音無は寝不足コースだな。香川はオセロもなぜか強いんだよな。僕は負けたことはないけど。僕以外には無敗らしい。


「ところで奏花ちゃん、DVD見た?」


「一応・・・」


「お化け、怖くなくなった?」


「まぁかなり?」


「裕作先生って、オカルト学者なんだけど科学的に再現できるオカルトしか信じないんだって」


「そうなんだ」


「だけど一つだけ無根拠に信じているオカルトがあるらしいよ」


「それは?」


「それはねー、幽体離脱みたい。今のところ再現どころか根拠すらないんだけど存在する、って言いきっているらしい」


「不思議だね」


「だから裕作先生が経験した現象なんじゃないかってまことしやかにささやかれているんだよ」


「普通にありそう」


そんな会話をしながら部屋に行った。あと音無しっかり見たのか。



「おっはよー」


「ああ、おはよう」


「おはよう、ってあれ遠藤君ちょっと寝不足?」


「勘がいいな。急用ができて、作業していたらほとんど寝れていない」


「大丈夫?」


「言っただろう、僕は寝なくても死なないって。それよりも音無の方こそ大丈夫なのか」


「うん。香川さんが旅行を寝不足で台無しにするのはもったいないって言って、超ぐっすり眠れるフェイスマスクを貸してくれた。3時間しか寝てないけどいつもより寝た気になった」


早く寝させるのではなく、道具を貸すあたり香川らしい。


「で、オセロの結果はどうだったんだ」


「私の20戦20勝。内、全滅10戦、40枚以上差をつけたのが9戦。接戦になったのは最後の1回だけ」


「香川さん、強すぎ。何回かやったことはあるけど、全滅するとは思っていなかった。あの1戦で終わってなければ、オールしてたと思う」


音無が弱いのか、香川が強すぎるのか判断に困るところではある。


「なんだ朝海もう起きていたのか。まだ部屋と思ってたぞ」


梶井と赤坂がやってきた。


「私も旅行の時くらいは早く起きるよ」


「早いと言っても12時だけどな」


「平日でも3時に起きることあるじゃん、私。それに比べたら早い方早い方」


香川の稀にある欠席は基本寝坊である。


「いつもは起こしているんだがな」


「私ショートスリーパーだから3時間しか眠らなくていいけど、その3時間何があっても起きれないんだよね」


「前、建物をダイナマイトで壊すぞって言ったら速攻起きただろ」


「爆発は睡眠より大事だからね。そりゃ起きるでしょ」


その感性は未だに理解できない。おそらく今後理解することはないのだろう。


「ところで、今日幽栖のところに行くって言っていたけど時間大丈夫?」


「帰ったのが2時くらいでしょ。そこからゆっくりして、しっかりと睡眠を取ったら12時くらいにならない?」


しれっと10時間も寝る想定をしないでほしい。


「だから3時くらいに家に着くように準備すればいいと思うんだよね」


「まあ何時とは伝えていないから、大丈夫だと思う。幽栖ちゃんがよっぽどワクワクしていなければ」


「ってことで今から昼ご飯を食べてゆっくりしてから、幽栖ちゃんの家に行こう!」


時刻は現在12時なので当然朝ごはんは食べていない。


というか、香川たち3時間睡眠ということは9時に寝たのか。・・・実質オールだろ、それ。

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