第24話 最先端なのに便利じゃない

「到着だー!」


特に何事もなく、夏休みを迎え、幽町に到着した。今回も運転はアッシーくんこと葦田に任せた。


「・・・香川さん・・・元気過ぎない?」


香川以外の4人は当然のようにグロッキー状態である。


「荷物までありがとな」


「気にすんな。じゃ、帰る時になったら声をかけてくれ。迎えに行くから」


そう言って葦田は帰っていった。


「っていうか蓮、この街に家なんか持っていたんだ」


「僕のじゃない。知り合いの別荘だ。頼んだら、快く貸してくれた」


「やっと、酔いが収まった・・・ってなにこれ。これはこれで気持ち悪い」


身内の家ならともかく、他人の家を気持ち悪いというのは流石に失礼だぞ。気分は分からなくもないが。


「機械が大好きな奴でな。やりすぎな気もするが、9割が自作みたいだから止められないというのが現状だ」


音無が気持ち悪いといったのはもちろん理由がある。リビングに入っても何もないのだ。モノから扉、通路まで何もない。一面真っ白な空間が広がっているだけである。正しくは光って導きそうなうすい灰色の線が引かれているが、それもまた気持ち悪さを醸し出している。


「これ、トイレとかどうやっていくの?まさか、ないとか言わないよね」


「安心しろ音無。当然トイレはある」


壁に手を当てて『トイレ』というと、右壁の一部が通れるように開く。


「あの中に入ればトイレが出てくるぞ」


「最先端だけど面倒くさいね」


「面倒くさいがすべて最先端かそれ以上のモノがそろっているぞ」


「最先端なのに便利じゃないって、意味あるの」


恐らくその言葉は「無駄なモノづくりの香川プロ」に刺さるぞ。



皆荷物を部屋に置き、トイレに行ったり、お茶を飲んだり、仮眠を取ったりしていると、もう夜になった。


「本格的な行動は明日からなの?」


「奏花ちゃん、何寝ぼけているの。当然今からが本番じゃん」


「え」


「っていうことで、皆で夜景を見ながら唐揚げを食べるぞ!」


香川の扇動に音無以外は「おおー」と返す。


「今から?マジで?行くの?」


音無は状況を飲み込めていないようだ。そろそろ香川の無茶ぶり行動に慣れてきたと思っていたんだがな。



事前に調べていた香川によると幽町の夜景は隠れ絶景らしく、中でも山から見る街の夜景はきれいらしい。


「本来なら6合目あたりで見る景色が有名なんだけど、人が多くて感動が薄れるから、私たちは山頂まで行くよ」


「夜の山をなめないほうがいいと思うんだけど・・・」


音無の言う通り、6合目までは夜に来る観光客も多いため、安全面がしっかり整備されているが、山頂まで登る迷惑客はなかなか来ないのであまり整備されていない。


「音無、今更だ。この程度の山で香川の足元をすくえるなら、とっくの昔に死んでいる」


「確かにグラウンドに平気で地雷を仕掛けるような人だったら、大丈夫か」


音無、そうだけどそうじゃない。



香川の言う通り、山頂には周りに人がいない。


「さあみんな、唐揚げは持ってきた?それでは、いただきまーす。んー・・・やっぱサイコー!」


「確かにここからの夜景はきれいだな。さすが蓮だ。上手い唐揚げを作る」


梶井もほめている通りまさしく絶景にふさわしい夜景が広がっている。唐揚げはやっぱり美味しいなぁ。


「ねぇ、なんでみんな普通に夜景と唐揚げっていうセットを受け入れているの。美味しいけど」


音無はそう言いながらも唐揚げを食べている。


「やっぱり絶景が一番の調味料っていう話は本当だったんだね」


「香川はこういう絶景と食事の組み合わせ好きだよな」


「だって考えてみなよ。絶景だけだったら、思い出す瞬間は絶景を見た時だけだよ。でもそこに唐揚げを食べた思い出が加わると、唐揚げを食べるたびに絶景を思い出せる。絶景を見ると唐揚げが食べたくなる。人生っていうのはこうやって深くなるんだよ」


人生が云々はおいておいて、香川のこの理論は結構よいと思う。誰にも迷惑が掛からないし。


「んー、迷ったけど一応写真撮っておくか」


「音無、どうして迷っていたんだ」


「私、あんまり写真を撮るのは好きじゃないんだよね」


「どうして」


「思い出が美化できない気がするんだよね。こういうのは2、3年たって脳裏ではこれ以上の絶景を思い浮かべながら話すのが醍醐味だと思っているんだよね」


「後でいざ見てみたら思っていたよりきれいじゃなかったな、ってなるのが嫌いなのか」


人によって個人差はあると思うが、僕にとっては結構あるあるな気がする


「うん、でもこれは曲作りに役立ちそうだから写真撮っておく」


身近にいるような人でも意外な一面やこだわりを知れるのが旅の醍醐味だろう。そういう意味ではもうすでにかなり旅を満喫していると言ってもいい。


「ところで、香川さん。なんで初日に絶景なの?こういうのは帰る直前に最後の思い出としていくようなところじゃないの」


「それは違うよ、奏花ちゃん。旅行は、特に私の旅行は、いつでも今がクライマックスなんだから。行きたいところに行けるときに行って、もう一回みたいなって思ったらもう一回見て、次の旅行先を考え始めるようになったら帰る、それが後悔しないように旅行するコツだよ」


香川の持論自体を否定する気はないが、そんなに長居はしないでくれよ。


「なんか香川さんって旅行慣れしているよね」


「そう?中学の時は累を連れて半年に1回くらいしか行ってないし、高校なってからだよ、結構行くようになったのは」


「中学生で半年に一回は多いと思うんだけど」


「高校になってからは、蓮に頼んで日帰りとか1泊2日とかの旅行も結構するようになったからなぁ。新年に富士山の山頂で初日の出を見たのはいい思い出だよ」


「おい、朝海。そんな話聞いたことないぞ」


香川の彼氏である梶井が反応する。


「え・・・あ、蓮と内緒で行った旅行だった」


「遠藤君、香川さんと二人で旅行なんかしてたの?」


なぜか音無がちょっと怒っている。


「香川に何回も頼まれたし、日帰りだから別にいいかと思って。どうせお前ら、空飛ぶのは嫌だろ」


「・・・声くらいはかけてくれ。結局行かないがはぶられているみたいで悔しくなる」


梶井は特に言い返すことなく、納得した。


「私は魅力的だったら行くから、しっかりと教えて!」


音無は乗り気みたいだ。正直、香川の無茶行動に適応できるとは思わないが。



「唐揚げ美味しかったねー。これからどうする?」


「これからどうするって写真撮って帰るくらいじゃないの?」


「音無さん、旅行全力で楽しんだことある?そんなのつまらないじゃん」


「私は2つの意味でお腹いっぱいなんだけど」


「じゃあここでちょっとゆっくりしようか」


香川が折りたたみ椅子・・・ではなく折り畳み式ビーチチェアを取り出して設置する。


「何を持ってきているの」


「奏花ちゃん、夜景っていうのはね、10時から1時くらいまでが見どころなんだよ」


「え、そうなの」


音無が僕に確認を取る。


「別にそう言った確証はない。が、香川曰く街の明かりが少しずつ消えていくのが花火みたいな儚さがあって趣深いんだってさ」


「なるほど、すこし興味あるかも」


「ところで赤坂、お前はさっきから何をしているんだ」


赤坂が変な装置を山にたてている。


「香川にこの街は霊力っていうのがあるらしいから採集してほしいと頼まれてな。共同で作った機械を組み立てている最中だ」


「そんなオカルトをマジで信じているのか。別に霊力がないというわけではないが、普通は採集なんかできないぞ」


「俺と香川も全く同じ意見に至った。だからまずは霊力とはどんな力なのか調べるところから始める」


「具体的には」


「香川特製の今知られている全ての物質に反応しないが未知の物質があれば赤く光る特殊な液体を使って、霊力が強い場所を探る」


その特殊な液体のほうがよっぽど価値がある気がするのは僕だけだろうか。


「さっき、部屋に入る前に試してみたんだが、街中の方が反応が強い。やはりこの街は霊力のようなものがあるんだろう」


真面目にバカなことをしていると思うのは僕が冷めているのだろうか。


「あ、奏花ちゃん!見てみて右の方かなり消えてきたよ」


「本当だ、急激に付いている電気が減ってきたね」


「ちょっと切ない気持ちにならない?」


「確かにちょっと切ないかも。きれいに光っていた夜景が少しずつ終わっていくようで」


勝手に夜景で切なさを感じている二人はどうすればいいのだろうか。まあ、時間が解決してくれるだろう。それより問題は・・・


「白石、さっきから何をしている」


「ひっ!いや、ちょっと落とし物を」


「落とし物を落としていたのか?」


「どこまで見破っているの・・・ダメ?」


可愛くお願いしてくる。


「レベルによる」


「これくらい」


白石の渡してきた本はコンビニにも売っているくらいのかなり普通のエロ本だった。


「まあいいか」


「やったー」


白石曰く、山にはエロ本を埋めてあげると、年頃の男子中高生が拾って読むことがあるらしい。今でもあるのかね。ちなみに埋めてはいけないというと、白石によるエロ本埋めの3時間にわたる説得が始まるので、基本はNOサインを出すことはない。レベルを落とすように言うことはあるが。



街を見下ろすと、光は残り4分の1くらいになっていた。夜景の時間の終わりはかなり近づいてきている。

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