第23話 世界で1番変な街

「夏休みだー!」


「まだ始まってすらいないぞ。来週の終業式が終わったら夏休みだ」


「そんなのもう実質夏休みじゃん。ねぇ夏休みはアトランチス連れてって」


「断固拒否する」


「アトランチス?本当に実在するの?」


近くにいた音無が話に入ってくる。


「存在するも何も、蓮の出身地はアトランチスだよ。だから私が人外人外言っているわけ」


「なるほど、納得」


納得しないでほしい。


「ここ以外の四大都市は基本的に行かないほうがいい。あまりにもぶっ飛んでいる」


「ここも大概でしょ」


音無のツッコミが入る。続けて音無が聞く。


「ところで四大都市ってどこだっけ」


「天空の支配島こと『バビロン』、地上の楽園こと『エデン』、海底都市こと『アトランチス』、不思議な街こと『ワンダーランド』の4つをまとめて言うことが多いな」


「私もここに来るまではアトランチスの存在を信じていなかったんだけどね、蓮が出身者っていう話を聞いて何回もいきたいって言っているのに全然了承してくれないの」


「ここを差し置いて世界で一番変な街とまで呼ばれている街だぞ。存在すらあやふやなんだぞ」


一般的には幻の都市ということになっている。


「それはそうだけどさ、蓮がいてくれたらきっと安全じゃん」


「あそこは僕が唯一安全を保障できない場所だ。毎日が異常事態だ」


「どんなことが起きてるの?」


「いきなり重力が反転したり、窒素と酸素の割合が入れ替わったり、物質の状態がいきなり変化することもあるな」


「なにそれ、怖い」


音無は普通の反応をしてくれるようで良かった。


「じゃあエデンは?すべての国の理想郷とまで言われているんだからいいんじゃない?」


「あそこは旅行客をとらない。不法侵入して、不法脱出をしなければいけないから面倒だ」


「でも、あそこに住む人全員が幸せだっていう噂もあるくらいだから私も気になるかも」


音無も興味を示したようだ。


「それはある意味で正しく、ある意味で間違ってるな」


「どういうこと?」


「あそこは徹底した身分社会だ。上級国民の生活を見せず、下級国民の生活を見せることで、自分たちは相対的に幸せだという意識にしている」


「・・・ちょっと怖いからやっぱりいいかな」


音無が手を引いてくれたようだ。こうなれば香川も手を引く。


「バビロンは・・・いいかなぁ。行けるとしても行きたくない」


「それはそれでバビロンがかわいそうだな」


「バビロンって確か、世界平和機構とまで呼ばれている島だよね」


「そうだ。といっても世界各国から武力を徴集して圧倒的軍事力で戦争を起こさないようにしているだけだがな」


「それで世界平和が保たれるなら別にいいんじゃない?」


「そこは難しいところではあるが、昔行われてた冷戦を過激にしたようなものだからな。当然、そんなもの平和じゃない、といった意見は出るだろうな」


「ふーん、難しいね世界情勢って」


「もー、そんな難しい話していないで、旅行!旅行先を決めよう」


「とはいえ、香川四大都市以外で行きたいところはあるのか」


「四大都市はどうせ断られると思っていたからね、ちゃんと決めているのだ!」


断られること前提で提案しないでほしい。


「ほう、それでその場所は」


「ここにある幽町っていうところ。噂によると霊力が集まりやすい町みたいで、昔から超常現象がよく起こるらしいよ」


「・・・ここなら別に大丈夫だろう」


「香川さん、ち、ちなみにだけどゆゆゆ幽霊とかはで、出たりしないよね?ね?」


「幽霊はねー、発見報告はたくさんあるけど、出るときはどこでも出るからね」


気にしても仕方がない、と香川は楽しそうにしゃべると同時に音無は深刻な顔をし始めた。


「どうした、幽霊苦手なのか」


「に、苦手なんかじゃないよ。ちょーっと、霊感がというより霊の声がたまに聞こえるから、びびびっくりするだけだよ」


「それは苦手だろ」


「えー!奏花ちゃんお化け苦手なの?」


「ちょっとだけね、ほんのちょっとだけ」


「じゃあそんな奏花ちゃんにお化けが怖くなくなるDVDをあげよう」


香川が渡したDVDには『科学的に存在が確認されたお化けたち』と書かれている。


「なにこれ」


当然、音無も困惑している。


「あの有名オカルト学者、佐久万裕作が監修した、科学的に存在することができるお化けを説明していくDVD。これを見れば、なんだそんなことか、ってなること間違いなしだよ」


香川にしてはまともなモノを渡している気がする。


「うん・・・ありがと、一回見てみるね」


音無は半信半疑ながらもそれを受け取った。




「ということで!今回の夏の旅行は幽町に決定!」


皆が集まった際に一応確認を取り、反対意見は特になかったため旅行先が決定した。


「本当は終業式が終わったらすぐにでも行きたいんだけど、今回はみんなの予定とかを考えて3日後にします!」


「おおー音無が他人の予定を考えるとは珍しい。本物か?」


赤坂はそう持ち上げるが、予定を考えるにしては、出発日がすでに決まっているという詰めの甘さが残っているので、99%本物だ。




そして終業式当日になった。当然のことながら、僕たちのクラスは深夜に行われる。


「冷静に考えなくても、深夜に終業式をやるってヤバいよね」


「だって何をしでかすか分からない奴らが一斉に集まるんだぞ。どうなっても普通科に被害が来ないような時間帯にしないとダメだろ」


「今回は何をするんだろうね。前回は焼肉パーティでしょ」


「夏は伝統的にキャンプファイヤーをすることになっていたはずだ」


「キャンプファイヤーじゃないよ。夏の送り火だよ」


香川が会話に乱入してくる。


「何が違うの」


「キャンプファイヤーは火を囲んで感傷に浸る行事だけど、送り火は違う。夏までの嫌なこととかを紙に書いてそれを燃やすの」


「ちなみにだが、朝海は今回のテストを燃やすみたいだぞ」


香川と一緒にいた梶井が補足説明を加える。


「なるほど。私も持っていこ」


もっとどうでもいいが、燃やす前に燃料をあさると60%がテストもしくは追試のプリントだったりする。恨み持ちすぎだろ。




「えー、やはり校長先生は午後の休暇を取っているため、今回もお話はなしです」


「ここの校長やる気なさすぎない?」


音無が小声で僕に話しかける。生徒ほぼ全員が普通にしゃべっているから小声である必要はないんだがな。


「普通科には普通に話す。天才クラスには関わりたくないらしい」


「ということで理事長のお話です」


「代わりに理事長が担当しているんだね」


「ここの理事長は結構出たがりだからな」


「毎年恒例のキャンプファイヤーも終わり、皆早く帰りたいだろうから手短に話すぞ。夏休み・・・に限らず、外に出るときは『迷惑行為をしない』『公共物を壊さない』『施設を勝手に改造しない』この3つの「ない」を心がけるように。夏休みはケガや事件、大人の遊びがあるかもしれないがほどほどにするように。健闘を祈る。以上だ」


「理事長、前回は特になしで終わったけど今回はしっかりと話したね」


音無、ちゃんと中身を聞いていたか?理事長が言ってはいけないことを言っていたぞ。


「遠藤君、今何時?」


「深夜3時だな」


「3時でもみんなこんなに元気なんだね」


「バカなことをやっている奴らだが、本気を出したときは1日中やっている奴らだからな。生活リズムは終わっていることが多い」


「私もそうだね」


だがしかし、音無の顔には少しだけ眠気が感じられる。香川に振り回されている分、疲れがたまっているのだろう。


「そういえば、遠藤君っていつ寝ているの?いつ起きても起きているけど」


「全員が寝たら寝ている。僕は最悪寝なくても死なないから」


「え・・・そうなの?」


「そうだが」


「本当に人外じゃん」


音無が自発的に人外と言い始めた。香川に影響されすぎではないだろうか。

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