第26話 本物のメイドって初めて見たかも

(久しぶりのシリアス注意です)

---------------------


「幽栖ちゃーん、遊びに来たよー」


そう言いながら、呼び鈴を鳴らす。すると、いかにもメイドみたいな人が出てきた。


「あさみん、様たちでよろしいでしょうか」


「え・・・はい。あってます」


珍しく香川が敬語になっている。家から金持ちなのは分かっていたが、メイドを雇えるとは相当な金持ちのようだ。


「幽栖様が楽しみにしておりました。案内しますので、付いてきてください」


「私、本物のメイドさんなんて初めて見たかも」


周りを見ると赤坂を除いて全員頷いている。赤坂はメイドロボットを作る際に、参考にするために話を聞いたりしていたらしい。



「あ、あさみん!来てくれたんだ」


「うん、来たよー」


案内されたのは寝室だと思われる場所だった。幽栖はかなり大きめのベットに座っている。香川は気にせず楽しそうにしているが、みんな少し戸惑っているようだ。


「飲み物を持って来ますので、そちらにおかけになってください」


そう言ってメイドは部屋を出た。そして香川が座ったのを機に、各々座る。僕は窓近くに座る。


「驚いた?私、実は珍しい病気でそんなに体は強くないんだ」


「大丈夫?なんの病気か聞いてもいい?」


「日光性機能停止症候群っていう病気。かなり珍しいみたいで、世界に1人か2人しかいないみたい」


「蓮、聞いたことある?」


「聞いたことないな、どういう病気か教えてくれるか」


「珍しいからあまり良く分かっていないんだけど、日光を浴びると体の機能が徐々に停止していく病気みたい。光を浴びるだけでも少しずつ進行していくんだけど、日光を浴びることで急激に進むの」


確かにこの部屋にも一応窓はあるが、黒いカーテンで厳重に光が遮断されている。


「昨日普通に外に出てたけど大丈夫なの?」


「夜だったら比較的進行度は遅いから大丈夫。でもこの病気にかかってから結構経つから、私の命はそんなに長くないかな?大体あと2ヶ月くらい」


「言いたくなかったら答えなくてもいいけど、どれくらい進んでいるの?」


「うーん、前調べた時は体の年齢が80才くらいだって言われたから、今は130才くらいじゃない?」


「それ、歩けるの?」


「骨が弱る病気ではないから。骨折したときに治るのが遅くなったり、免疫機能が弱まっているだけ。でも進行しすぎると脳にも影響があるみたい。覚えられなくなったり話せなくなったり」


「怖くないの?」


「怖くないわけないじゃない。もし治ったらなぁ、って思うよ?でも治療薬があるわけじゃないし、治る可能性は0に近いから受け入れる覚悟をしているだけ」


「蓮、なんとかできないの?」


香川が僕を頼る。


「僕はドラ〇もんじゃないからな」


「そうだよね、さすがに無理だよね」


「蓮でもこれは流石に無理なんだ」


音無が驚く。音無は僕を何だと思っているんだ。


「ドラえ〇んじゃないからな。できないことなどない」


音無が椅子から転げる。コント以外で本当にずっこける奴を初めて見た。


「嘘でしょ!?本当にできるの?」


「正しくはその病気を治せる奴を知っている。料金もそんなに高くはつかない」


「そんな人がいるの!?早く紹介してよ」


香川の方が必死になっている。


「ただし、とっても嫌な奴だ。どんな病気でも直してきたからこそ、嫌なことを聞いてくる」


「嫌なこと?」


幽栖が聞きかえす。


「幽栖が何年前からその病気にかかっているかは知らないが、そんな病気になったということは一般的な事柄を体験していないということだ」


「うん」


「あいつはこういうことを聞いてくる。仮にその病気が完治したら、どういう風に扱ってほしい?」


「どういう風?」


「元不治の病のかわいそうな境遇の子?それとも、そんなことを気にせず一般的な人として扱ってほしいか?」


「そんなこと考えたこともなかった」


「かわいそうな境遇の子として扱ってもらうなら、周りは優しくしてくれるだろうが、そこには当然『元病人』という肩書がつく。どれだけ本人たちが意識しなくとも無意識下にその肩書を見る」


「・・・うん」


「一般的な人として扱ってもらうなら、事情を知っている者を除いて、『普通』の扱いをされる。それはつまり、いくら病気のせいでハンディキャップがあったとしても、それを隠し能力が低ければ『無能』として扱われる」


「蓮!そんなひどいこと・・・」


「これは一例だ。もっと嫌な現実を突きつけてくるかもしれない。どんな病気やケガでも直し、多くの人の生かすあいつにとって、『生きること』が良いことという感覚はない。むしろ死んで幸せになるなら、死ぬべきだという意見を持っている」


皆黙って聞いている。


「選択肢はもう一つある。


ここに素晴らしく、恐ろしい薬が存在する。一度飲めば、2週間病気なんて気にしなくてもいいほど体が元気になる。病気は当然進行などしない。しかし2週間経てば寿命、余命など関係なく息を吸うように息を引き取る。


 幽栖は『生きたい』か。この薬を飲んで2週間の『余生を堪能する』か。それとも『天命を待つ』か。3択だ」


「蓮・・・」


「僕が知っている、その病気を完治できる奴はそいつだけだ。ほぼ悪魔と言っても過言ではない。それでも生きたいと願うなら当然止めはしない」


「それは・・・」


「別に時間まだある。ゆっくり決めてくれ」


急いで決めるようなことでもない。むしろゆっくり決めるべきだ


「れんれん。私は・・・」


-------

※日光性機能停止症候群は存在しない病気のはずです。万が一存在すれば教えていただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る