第2話 教室の壁からポーカー台
学校に戻ると教室の前に『転校生歓迎パーティ会場 ~ようこそ1年ν《にゅー》組へ~』と書かれた紙が掲げられていた。
「さすがこういう行動力は凄いな」
「1時間くらいでここまで作れるんだね」
「感想は直接言ってやった方が喜ぶと思うぞ」
「そうだね」
扉を開くと同時にクラッカーがなる。
「「「ようこそ、1年ν組へ」」」
そろった声で音無を歓迎した。が、残念ながら香川と数人しか歓迎の言葉は言っていない。残りは録音だ。
「ありがとう」
音無は喜んだ雰囲気ではあるがそれよりも驚きの方が強いようだ。無理もないだろう、先ほどまでの教室とは打って変わり、本格的なパーティ会場になっているのだから。
「香川、お菓子はここに置いとくから」
「ありがとー。じゃあ、おやつも揃ったし、本格的にパーティを開始するよー」
香川がそういった瞬間、どこからともなく白い煙が流れてきて壁からポーカー台のようなものが出てきた。
「じゃじゃーん。すごいでしょ」
「すごい・・・どこから出てきたの?」
「これなんだと思う?実はすごろくセットなんだ!」
質問に答えてやれよ。あと考える時間くらいやれよ。
「でも、すごろくってパーティ向きではないんじゃないか?」
「…なんで、すごろくセットが出てきたことに驚かないの」
「心配ご無用!これはこの台で6人、さらに付属のコントローラーで合計30人で遊べるよ」
「それはテンポが悪くならないか?」
「だいじょーぶ。これは最先端のすごろくだから。なんと前代未聞のオープンワールドすごろくなんだよ」
前代未聞なのはオープンワールドとすごろくの相性が絶望的に悪いからだろう。
「さらに、他の人のターンを待たなくてもいいからテンポよくできる。さらにさらに、すごろくのルール通り勝敗はかかったターンで決まるから、公平さもかけていないよ」
なるほど、よく考えられているんだな。それならルールが破綻していることはないだろう。
「じゃあ、早速やっていこー」
USBみたいなものを握りしめたまま、使用せず始めようとする。
「待て、香川。これは歓迎パーティなんだろ。主役に何か特典があるんじゃないのか」
「忘れてた。ありがとう蓮。音無さん…?には100面ダイスをプレゼント」
USBをポーカー台にはめる。音無のすごろくが100面ダイスに変わった。あと主役の名前は覚えておけよ。
「じゃあ、早速使わせてもらうね」
音無は100面ダイスを投げる。出た目は64だった。
「操作練習、操作説明もかねて、動かしてみてね」
「うん」
ポーカー台の真ん中にあるカプセルに入っている小さな人形が音無のコントロール通りに動き、64歩動いたところで止まった。
「本当ならここで何かしらアクションがあるはずなんだけど、100面ダイスは特別仕様だから何も起こらないようになっているよ。みんなルールは理解できた?」
皆口々に肯定の返事をする。音無の動きからするとゴールまで250歩ってところか。ゴールはカプセルのど真ん中に刺さっている。スタート位置は各々バラバラだが、大体ゴールまでの距離が同じになっている。
そして1時間後、音無が1着でゴールした。安っぽいファンファーレが鳴り響く。
「おめでとー。音無さんが1着でゴール!」
「ありがとう」
各自勝手にやっているものの、50回以上サイコロを振っている。50手であがった音無の勝ちは決定している。そしてみんなすごろくに意識が戻った。
「・・・ゴールしたら待つだけ!?」
さらに数十分後、僕もあがった。サイコロは結構な回数振ったので順位はわからない。
「遠藤くんもあがったんだ」
「やっと、ね」
「暇なんだけど」
「だろうな、お菓子でも食べながら他の人を待っておくか」
そういいながらお菓子のふたをあける。
「音楽すきなのか?」
「音楽が好きというより作曲が好き」
「楽器をならすのは好きじゃないのか?」
「うん。自分で作った曲を聞く方が好き」
「他人の曲を聞くのは好きじゃないのか?」
「嫌いじゃない。けど、作る曲が寄ってしまうからあまり聞かないようにしてる」
プロ根性がすごいな。僕なら人の曲聞きながら作っちゃうね。
「蓮ー!結果出たよー」
「わかった」
立ち上がって結果を見る。25人中10位だった。
「なんとも言えない順位だな」
「レクリエーションも終わったことだしお腹空いたね。蓮君、寿司作って」
さらっと寿司を要求するな。
「私はオムレツで」
「カレーをよろしく」
香川が寿司を頼んだ途端に他のみんなも注文し始めた。うどん、ホットケーキ、たらこパスタ、マカロン、ステーキ、チャーハンなどなど、みんなそれぞれ違う注文をする。…誰だ、しれっとマカロンを頼んだ奴は。
「マカロンは面倒だから却下だ」
「じゃあ、グラタンで」
マカロニが入ってるから選んだだろ。壁からキッチンを出す。
「なんで教室にキッチンが…」
「壁からポーカー台が出てくるクラスだ。何もおかしくないだろ」
「違和感はないけど…おかしい」
そう言われればそうかもしれない。しかし、今更気にしても仕方がない。
「30分で全部作り終えたの…?」
「せめて全員同じものを頼めよ…」
「しかも美味しい。ファミレスよりも美味しいなんて…」
「料理の天才かと思うだろ」
「違うの?・・・って誰?」
「俺は梶井累、朝海の助手をやっている」
「香川の研究内容を論文にしてる天才だ」
「それって誰でも出来るんじゃ?」
「そう思うだろ。でも香川の無茶苦茶な研究に価値をつけているのはコイツだ」
「どういうこと?」
「香川は科学に関しては確かに天才だ。しかし、語彙力が小学生並みだ。さらに、論文の書き方が分かっていない」
「それは論文として認められないね・・・」
「それを完璧な文章にして論文として世に送り出しているのが梶井だ」
「それは確かにすごいかも・・・」
「そんなすごい俺よりもすごい才能を持っているのが我らが委員長、遠藤だ」
「え?どんな才能を持っているの?」
音無は興味津々な顔をして聞いた。
「まだお前言ってなかったのか」
「別に聞かれなかったしな」
「遠藤の才能はな・・・」
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