第1話 終業式前日にやってきた転校生
高校1年生も終わりに差し掛かり、終業式を明日に控えた通常日。
「えー、13、14・・・24人全員いるな」
どうやって24人カウントしたのだろうか。
「突然だが、転校生を紹介する」
こんなへんぴな学校に転校生か…転校生!?このタイミングで?ドアが開き、制服を着た女の子が教室に入ってくる。
「音無…奏花です。音楽と・・・ジャガイモが好きです。よろしくお願いします」
「転校生歓迎パーティをしよ」
クラスの女子、香川朝海が言うと歓迎パーティーを開く雰囲気になった。こうなるともう止められない。
「・・・遠藤、音無の学校案内と他の教師たちに伝えておいてくれ」
「分かりました。音無さん、付いてきてくれる?」
「・・・うん」
「ここが職員室。まぁ、行くことはほとんどないと思うが覚えておいても損はないと思うぞ」
「よぅ、遠藤。ってことはまたか?」
「はい。転校生歓迎パーティーを開くことになったので少なくとも4限目まではつぶれますね。では僕はこれで」
「ちょっと待て!遠藤、お前らが毎週のように授業をつぶすから全然授業日数が足りてないんだ」
「・・・いやですよ。授業時間まとめるの結構面倒くさいんですからね」
「そんなこと言わずに頼むよ。ただでさえ注目を集めているんだ。国のノルマさえ守れなかったらお前らのクラスが来年から消えるかも・・・」
「って前回も言ってましたよね。今回こそは手伝いませんよ。転校生の学校案内もありますし」
「わかった。授業内容の要約だけ、要約だけでいいから手伝ってくれ」
このまま粘っても時間が過ぎていくだけだろう。
「わかりました。音無さん、少しだけ待っててもらえる?」
「え?はい、うん」
「ありがとなー遠藤ー」
なんで僕が教師の仕事を・・・。というか仕事を生徒におしけていいのか?授業6時間分を2時間分にまとめるのはこれで232回目だ。そのおかげで10分程度で終わった。変な特技が増えてしまった。
「ごめん、待たせた。音無さん」
「全然大丈夫」
音無は五線の書かれた紙に何かを書いていた。作曲だろう。少し覗いて見る。
「そこはちょっと変えたほうがいいと思うぞ」
「・・・そうかも」
「あ、口出ししてごめん」
「ううん、大丈夫」
本当に気にしていなさそうだ。ならば僕がこれ以上気にしても仕方がない。
「じゃあ、学校案内に戻るか」
「うん」
そして僕は保健室など適当に使うかもしれない施設に案内した。実際は使ったことはおろか、行こうと思ったことすらないのだが。使うかもしれないし一応だ。
「一応確認だけど音無さんって絶望的な方向音痴だったり、常識のかけらもないタイプの人ではないよね」
「?たぶん違うと思うけど・・・」
「なら良いんだ。上の階に行くには階段をのぼらないといけないか言わないといけないから」
「私のこと馬鹿にしてる?」
「いや、過去にそういう人がいたから一応確認をね」
「そんな人、いたの?」
「僕が本当に見たんだから、都市伝説とかではないよ。音無さんに歓迎パーティーを提案した女子がいただろ」
「うん」
「そいつだ。そいつは爆風で2階に上がろうとしたんだ」
「・・・どうやって?」
「だから、爆風で・・・」
「そうじゃなくって。天井あるよね?爆風で上がれないよね?」
「あー、そういうことか。一応、あいつは『化学の天才』だからな。天井の一部分だけ溶かして上がるつもりだったらしいぞ。ほら、あそこ一部分だけ新しいだろ」
「ほんとだ」
「あ、そうだ。言うの忘れてた。僕たちのクラス、
「え、どうして」
「他クラスに行くたびに問題を起こして帰ってきたらしい。その代わり天才クラスには校則がほとんどないんだ」
実際、この学校は校則で制服を定められているが天才クラスではほぼ誰も着ていない。もちろん僕も着ていない。音無は制服を着ているが。
「確かに制服は来たくないかも。でも私、私服はあまり持っていない・・・」
「あ、それは大丈夫。うちのクラスにはコーディネートと服製造の天才がいるからな。頼まなくても作ってくれるぞ」
たぶん今頃作っているだろう。
「本当?」
「本当だ。あと、制服改造も受け付けているらしいから私服っぽい制服が欲しかったら頼むといいぞ。1着ぐらいは持っておいた方が便利だからな」
「それは制服なの?」
その時、香川から電話がかかってきた。
「悪い、電話に出るからまた待っててくれるか」
「分かった」
香川からの電話にでる。
「あと何分くらいなんだ」
「うーん、30分くらいかな。けど、お菓子の在庫が切れてたから・・・」
「買いに行け、と?」
「え、行ってくれるの?ありがとー」
そういって一方的に電話を切られた。
「音無さん、お菓子を買わないといけないから一緒に来てくれないか?」
「いいけど」
コンビニに着くとお菓子コーナーに向かう。
「あ、欲しいものあったらいくつでも入れていいよ」
音無はスナック菓子を2、3袋カゴに入れる。
「遠慮しなくていいからな、金は余っているし。それに音無さんの歓迎パーティーなんだから好きなものを買うべきだと思うぞ」
「本当にいいの?」
「そんなどうでもいい嘘はつかないぞ」
「じゃあ…」
音無は大量のお菓子をカゴに入れる。軽く見ると全部ジャガイモを使ったお菓子だった。
「本当にジャガイモが好きなんだな」
「うん、ジャガイモだけで一生生きていける」
自信満々でそう言い切った。この様子はマジでジャガイモだけで生きていけるな。
目についたものを適当に買っていたらビニール袋10袋分くらいになった。
「今時珍しいね、無料でビニール袋くれるコンビニなんて」
「それはこの街のビニールは僕たちの学校が作ってるからな」
どうやって校内に工場を造ったのかは分からないが卒業生が在学中に造ったらしい。代々在校生に受け継がれており、僕たちが石油を一切使わず環境に優しいビニール工場に改築した。
「なんで学校に工場が?」
「それは知らないが、この街はうちの学校中心に成り立っているからな」
おかげさまで『世界で2番目に変な街』などとまで言われている。
「転校する前に変な街とは聞いていたけど、思っていたよりも変な街だね」
「それはそうだな。けど、暮らしてみると楽しい街だぞ」
「期待しとく」
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