第16話 いざ聞かれるとなると恥ずかしいかも

※暗い雰囲気が含まれます。シリアスに注意してください


寮に戻って、夕食を食べ終わり、全員リビングでゴロゴロしていた。みんな何もする気力が起きない時は、こうやってゴロゴロしている。


「蓮は何をしてきたの?」


「新しいビジネスの相談を受けていたんだ」


「他には?」


「音無の曲を聞いたりしたな」


「私も聞いてみたい!いいでしょ?」


「だめなことはないけど、新曲以外なら無料配信サイトで基本配信されているよ」


「配信サイトと本家は結構違うよ」


香川の独自理論が展開される。でも言われてみればそうかもしれない。


「そんなに変わらないと思うけど」


そのまま香川に押し切られ、音無製作の楽曲の発表会が行われることになった。


「いざとなると結構恥ずかしいかも」


「目の前で聞かれることあんまりないもんね。それこそ、担当の人くらいでしょ」


香川が音無を励ます。


「今日、遠藤君に聞かれたときはそんなに恥ずかしくなかったのにな」


「蓮はそういう気づかいはうまいからね」




「うーん、いい曲!」


「ありがと」


「最近、音無のことを調べたが、いろいろなCMにも使われているらしいな」


「梶井君、私のこと調べていたの?」


「このクラスに来るということはそれなりの実績を持っているということだからな」


「そうなんだ。そういえば香川さんは化学者で梶井君は論文作成の実績があると聞いたことあるけどみんなの実績は聞いたことがないかも」


「俺はロボット関係の成果を持っている。最近だとドローンをちょっと進化させたな」


「どんな感じに?」


「自動ドアに反応するようにしたり、信号機に従うようにしたりしたな」


「私には地味に見えるけど・・・たぶんすごいことなんだよね。白石さんは?」


「え、私?私は、最近、本を、出版した」


「どんな感じの」


「音無、白石の仕事についてはあまり聞かないほうがいい。お互いのためにも」


「ジャンルもダメなの?」


「その・・・私、成人向けの、その、本を、いっぱい・・・」


「・・・なるほど。聞かないでおくね。最後に蓮は?いろいろしてそうだけど」


軽く白石の話を聞き、すぐに話題を変えた。賢明な判断だと思う。


「最近は特に一つのことに集中してはやっていないな。いろいろなことに手を出している」


「最近は、ってことは昔は一つに集中していたの?」


「そうだな。もうやめたけど」


「何やっていたの?」


「アシスタントだ」


「なるほど」


少し沈黙が流れる。


「もしよかったら、これからも手伝ってくれない。遠藤君のアドバイスのおかげですごく良くなったから」


「・・・」


「遠藤君?大丈夫?」


「奏花ちゃん、蓮から何も聞いていないの?」


「え、何を?」


「まぁ、蓮もあまり話たくないことだろうだからね・・・」


「蓮、教えてやったらどうだ?」


話を聞いていた、梶井が話すように促す。


「・・・勝手に言う分には自由にしてくれ」


僕はそう言って、椅子に座った。





「まさかこれって触れちゃいけない話題だった?」


遠藤君はスマホをいじっている。そこは部屋に戻ってほしい。


「気持ちのいい話ではないからねー」


「この話をする前に、音無は12年前、彗星のごとく現れ、流れ星のごとく姿を消した天才子役を覚えているか?」


「聞き覚えあるかも。なんかそういう人がいた気もする」


「小松士郎。その子役の名前だ。とても高い演技力を魅せたことで一躍有名になった子役だ」


「あー思い出した。確か、デビュー作でものすごく話題になって、いろいろな番組に呼ばれて、その子が主役のドラマも決定していたのに、突然自殺した子だったよね。なんか過度なストレスを与えていたって言われていたっけ」


「当時、というか世間の判断ではストレスだったな。だが、一部の業界ではちょっと違うんだ」


「そうなの?」


「ああ、その子役のアシスタントとして、当時のプロデューサーの子供が選ばれたんだ。子供同士の方が安心しやすいだろう、と。そしてプロデューサーの子供はとても優秀で5歳とは思えないほど大人びていたんだ」


「そんなことがあったんだ」


プロデューサーの子供とはいえ、そんなことができるのかという疑問は声に出さずに話の続きを聞く。


「そして、子役のデビューは大成功した。子役はいろいろな番組に呼ばれた。しかし、ある時事件が起こった」


「それは?」


「アシスタントの子供が風邪を引いたんだ。なんて事のないただの風邪だ」


「それがどうかしたの?」


「その日の子役の番組での調子が悪かったんだ。なじみのアシスタントがいない中での動揺かと当時は考えられていた」


「違うの?」


「それから何度か違うアシスタントが付いた。だんだん調子は戻っていったが、子供のアシスタントの時と比べ見劣りするんだ」


私は相槌を忘れて聞き入る。


「そこで大人たちはアシスタントの子供に大人の俳優のアシスタントをさせてみたんだ。その結果、その俳優は大成功した。


 そして、何人かの関係者は思った。本当にすごかったのは子役ではなくて、アシスタントの方ではないか、と。その子供が担当した人は必ず成功する。どんな時でも調子はいいし、芸人なら大うけするし、俳優なら圧倒的な演技力を魅せる。


 それだけならよかった。しかし、そう上手くはいかなかった。いつかは分からないが子役が気づいてしまった。自分の演技力が高いのではなく、アシスタントの能力が高いのだと。そのことに気づいた子役は自分の力で演じてみるが、あの時ほどの演技力が出ない。あの時ほどの魅せ方ができなかったんだ。


 そして、それがストレスになったんだろうな。子役は5歳という若さで自殺した」


「でも、遠藤君がそれに何の関係が」


「もうわかっているかもしれないが、そのアシスタントの子供が遠藤連、蓮と同じ名前の人だ。多少漢字が違うが」


「それなら、遠藤君は16歳だよ?梶井君の話だと今17歳じゃないとおかしい」


「そこは、俺にも分からない。当事者である蓮が何も話してくれないからな」


「遠藤君、この話本当?」


私は気になって本人に確認を取る。


「・・・本当だ」


「そうだったんだ」


「音無、才能の話は覚えているか?」


「確か、援助とか補助みたいな誰かの援護をする、いわゆるアシスタントの才能だっけ?」


「それも正しいが、すべてではない」


「え?」


「実力以上の力を引き出すことができる才能だ。それこそ、実力の200%を引き出すことだってできる」


「すごい才能だと思うんだけど」


そんな才能があるなら羨ましい限りだ。


「いや、それは違うな」


梶井君が割って入る。


「梶井君?」


「人に実力以上の力を引き出すということは、力を見誤る可能性が高くなるということだ。過ぎたる力は身を滅ぼすってよく言うだろう」


「その通りだ。そして問題はそれだけではない」


「というと?」


「さっき200%の力を引き出せるといったがあれは過小表現だ。僕が本気を出せば10000%は引き出せる」


「嘘だよね」


いきなり現実味がない話になった。


「全く才能がない分野をアシストしてやるだけで、100年に1度の天才と呼ばれるほどの存在にできる」


「蓮は気軽に天才化マシンってこと?」


黙って話を聞いていた香川さんが話に入ってくる。


「言い方があれだが、そういうことだ」


「ヤバ」


それしか言葉が出なかった。

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