第15話 難しい区画移動

「奏花ちゃん、あーそーぼー!」


「ごめん、今日はちょっと用事があって」


「珍しいね。分かった。また今度ね」


香川は物分かりがすごくいい。


「ありがとう。また今度遊ぼう」


「音無、どこかに行くのか」


「遠藤君、聞いてたの?」


「赤坂に用があってな。盗み聞きしたみたいで、すまないな」


「それは全然いいけど・・・あっ!遠藤君ここへの行き方教えてほしいんだけど」


「なんで私には聞いてくれないの」


「・・・香川さんは凄くあいまいな教え方をしそうだから」


実際に間違ってはいないのだが、偏見でそう思われているのは少しかわいそうに思える。


「ここはついてきてもらった方がいいな」


「そんなにややこしいの?」


「この街、区画を移動するのが結構難しいからな」


「区画?」


この街は円形をしており、ちょうど4つに分けられている。僕たちの居住区は4区だが、なぜか4区から出るのが一番難しい。さらに、4区は無法地帯となっており、違法建築、爆発など何でもありとなっている。


「なるほど・・・私は区画を移動したことないから連れて行ってもらった方がいいかも」


「あー区画移動って難しいもんね。私未だにできないから」


香川は1年ここに住んでいるのにできないのは問題あるだろ。



「ここにカードキーをさして、1と7と9を押しながら右にずらす」


すると、鍵穴が出てくる。


「なんで鍵穴にセキュリティをかけているの?というかここまでする必要ある?」


「残念だが、まだあるぞ」


「まだあるの!?」


「鍵穴を右に90度回してから左に180度回す。すると鍵穴が外れる」


「あ、外れるんだ」


するとボタンが現れた。それを押すと、ドアが開く。


「あれ?通らないの?」


「長押しすることで長時間開くようになる。あとは逆手順で元通りにする。元通りにするのを忘れないようにな」


「確かに難しいね。できる気がしない」



しばらくして音無の目的地、レコード会社についた。


「ここまでついてきてくれなくても良かったのに。ありがとう」


「いや、僕もちょっと用事があるからな」


「この会社に?」


「ああ、いつでもよかったんだが、せっかくだから行くことにした」


「遠藤君っていろんなことに手を伸ばしているんだね」




僕らが会社に入るなり、女性が声をかけてきた。


「・・・!蓮くん、来てくれたんだ」


「久しぶりです。桜さん」


「・・・遠藤君、音羽さんと知り合いなの?」


「奏花ちゃん!蓮くんと知り合いだったの?」


「似たような反応をするなよ」


声をかけた女性は桜音羽、レコード会社の社員である。


「ここで話すのも何だし、部屋に行きましょう」



「へぇー、奏花ちゃんと蓮くんは同じ学校の同じ寮に住んでいるんだ。となると、いろいろなハプニングが・・・」


「ないですね。基本的にハプニングなんて起きませんから」


「でも、前回あった時は、毎日が非日常で1寸先が闇かどうかすら分からない、なんて言ってたじゃない?」


「そんなことも言っていたな」


「それって大体、香川さんのせいだよね」


それは、そうかもしれない。


「ところで、遠藤君と音羽さんってどういう関係なんですか」


「私が結構役職が高いのは知っているでしょう」


「たしかアイドルグループのプロデューサーとかいろいろやっていましたよね。役職が高いからやりたいことができるとかなんとか」


「そうそう。元々は平社員だったんだけど、蓮くんのおかげで昇給することができたのよ。今ではアイドルのプロデュースしたり、未来ある若手のレコードをつくったりやりたいことがし放題よ」


「やっぱり遠藤君が助けた側なんだ」


「で、今も何かと助けてもらっているのよ。奏花ちゃんも何かあったら蓮くんを頼りなさい。私よりもずっと頼りになるわよ」


本人がいる前で頼らせようとしないでほしい。




「うん、今回の曲も超良いわね。ヒット間違いなし」


「ありがとうございます」


「蓮くん、この曲どう思う?」


「ちょっと聞かせてくれ」


桜さんが音無の楽曲を流す。


「いいんじゃないか」


「だよねー。良かったね奏花ちゃん。蓮くんからのお墨付きよ」


「何か気になったところある?」


「ないことはないが、今から修正するのは大変だろ。それにこだわりとかもあるだろうし」


「・・・一応聞かせて」


気になったところを言う。


「なるほど。・・・そっちの方がいいかもしれない。ちょっと変えてみる」


「蓮くん、良かったの?」


「そっちから振ったんだ。責任はとれよ」


「蓮くんのおかげでちょっとくらい融通が利くから大丈夫」


しばらくして音無の修正が終わった。


「ちょっと直しただけで、ここ一番の出来になった。遠藤君すごい」


「じゃ、これでいい?」


「はい、お願いします」




会社から出るともう夕方だった。


「遠藤君ありがとう」


「そこまでのことはしていない」


「でも・・・」


「気にしなくていい」


「分かった」

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