第33話 今の主役は私!

幽町で知り合った友人、佐久万幽栖が亡くなって1日。せっかくの旅行だというのに部屋は悲しい雰囲気に包まれている。


「ねぇ蓮、幽栖ちゃんの家に行ったら迷惑かな?」


「・・・かまわないと思うぞ。花でも持って行ってやったらどうだ」


「そうだね」


香川の提案で皆、幽栖の家に行くことになった。



道中に花屋があったので、そこで花を買うことにした。


「どんな花がいいかな」


「幽栖のことだ。手向けの花よりもきれいな花の方が喜ぶと思うぞ」


「・・・!そうだね。じゃあこんなのはどう?」


香川はカスミソウを含む花束を選んでいる。


「いいんじゃないか。花言葉は・・・『感謝』か」


「うん、幽栖のおかげでこの旅行が楽しくなったから」


他のみんなも特に反対はないようだ。



「失礼しまーす」


香川が佐久万家のチャイムを鳴らす。出てきたのは幽栖のメイドだった。


「香川様たちですか」


「手向けの花を送りたくて」


「・・・ひとまずお入りください」


そういってメイドはリビングに案内した。


「わざわざ花まで・・・ありがとうございます」


「幽栖ちゃんはどこに?」


「幽栖様は少し特別な部屋にいらっしゃいます。入るのに許可がいるので・・・申し訳ありません」


「いろいろあるんだね」


「もう連絡は送っておりますので少ししたら許可が降りると思われます。その間・・・幽栖様との思い出を教えていただけませんか」


「幽栖ちゃんから聞いてないの?」


「いえ、少しは聞いております。ですが幽栖様が最後まで一緒にいたいと選んだお方です。お話を聞きたいと思うのは不思議でしょうか」


「そうだね・・・」


そうして香川は幽栖との思い出を語り始めた。




香川が思い出を語ること30分。いろいろ思い出したのか少し涙声になっている。


「そんなことがあったのですか。幽栖様をありがとうございます」


「お礼を言いたいのは私の方」


「伝えたらどうですか。例え、この世にいなくても思いは言葉にすることで通じますから」


「そうかもしれないね。・・・幽栖ちゃん、改めてありがとう。幽栖ちゃんと友達になれて良かった。私達との最高の思い出をありがとう!」


「香川様以外もどうですか」


メイドが香川以外の奴らにも促す。


「ありがとう、幽栖」


それぞれ香川につられて言葉を紡ぐ。


「ありがとね、幽栖。今までで一番楽しい2週間だったよ!」


最後に音無が言った。


「これからも作っていこうね」


「うん、もちろ・・・ん?」


音無が返事をしかけて戸惑う。


「え?」


香川を除き他の奴らもぽかんとしている。


「やっぱりそういうことだったんだね。蓮、幽栖」


「えへへ、あさみんにはバレちゃっていたか」


幽栖がドアをすり抜けて登場する。


「え、待って、どういうこと?」


「さすがに今回は俺も分からん」


音無と仲間たちは状況を一切つかめていないようだ。


「えーっとね、復活しちゃった。てへっ」


「幽霊?」


「そういうことになるのかな・・・?私もよくわかんない」


「幽栖は分類的には幽霊となるが、触れることもできるし食事もできるぞ」


「あさみんはもう気づいているかもしれないけど、私、幽体離脱のエキスパートなんだ」


「おい、そんな後付けありなのか・・・」


メタいことを言うな、梶井。しかも後付けじゃないぞ。


「一番最初に気づいたのは蓮だったんだよね。さすがとしか言いようがないね」


「ちなみにいつ頃気づいてたの?」


香川が聞く。


「2日目だ。確信したのは7日目あたりだったな」


「本当不思議だよね。どうやって気づいたの?」


「まずは佐久万という珍しい苗字だ。佐久万という名前をどこかで聞いたことがないか?」


音無が何かに気づいたような表情をする。


「もしかして、オカルト学者の!?」


「正解。で、香川が言っていた噂について覚えているか」


「たしかあれだよね。幽体離脱の存在だけは無根拠に信じているっていう話」


誰も覚えていないと思ったのか、香川が答える。


「そうだ、科学に重きを置く人が根拠なしに信じる可能性は大きく分けて3つ考えられる。

1つ目、自分が何度も体験している。研究者自身の経験は根拠としては弱いが信じる要因にはなる。

2つ目、知り合いが何度も体験している。さらに根拠が弱くなるが信じてもおかしくはない」


「3つ目が、根拠はあるが何らかの理由で発表できない、だよ」


幽栖が答える。


「じゃあもしかして」


「うん、私が幽体離脱のシステムの大枠は完成させていたんだけど、発表すれば私の私的利用が難しくなると思って発表を避けてもらっていたんだ」


日中、外を出れない幽栖にとって幽体離脱装置は日中の景色を見る大切な装置だったのだろう。


「でもそれだけじゃ、根拠が弱いよね。確信に至るには」


音無がさらに聞く。


「2つ目は・・・街について詳しすぎるとは思わなかったか」


「確かに詳しいとは思ったけど、定期的に夜に抜けだしたり、家の中で地図やテレビを見ていても分かるんじゃないの?」


「それでも説明がつくものも多い。が、おかしなところも多く存在する」


「例えば?」


「2本目・・・僕たちが封印した霊剣のことだ。まずあの霊剣はほとんど誰にも知られていない。なのになぜ場所が分かる」


「それは死に呼ばれていたからじゃないの?そういう剣だったよね」


「そうだな。だが、もし夜に抜け出してそこに行っていたらそのまま殺されていただろう。つまり呼ばれている感覚はあるのに、危ないから行ってはいけないという理解もしなければいけない」


「確かに」


「しかし、初めから危ない剣ということが分かっていたらどうだ?」


「絶対にそこにはいかない。けど、どうやって・・・そうか!?」


「あの剣のもう一つの効果、幽霊みたいな現世にしがみついている奴を殺そうとする性質がある。幽体離脱は幽霊みたいなものだ」


「つまり、幽体離脱した際に何度か殺されそうになった・・・ということ」


「実際には殺気を感じただけだけどね」


幽栖曰く、幽体離脱中に殺気を感じることはよくあれど、剣が飛んできたりしたことはなかったらしい。


「他にもわかりやすいところで言うと、なぜ日中出歩けない幽栖が喫茶店のモーニングセットが一番人気であることを知っている?」


「よく考えればおかしいね」


「ちょっとした違和感が幽体離脱という超常現象を操れると考えるだけでスパッと解決する」


「ちなみに香川さんはいつ気づいたの?」


音無が香川に聞く。


「私?幽栖が死んだ後・・・ううん、私が蓮に幽栖の家に行きたいといった時」


「なんでそんなところで」


「蓮が花でも持って行ってやったら、って言ってたじゃん。でも幽栖別に花が好きとか一言も言ってなかったよね」


「うん」


「蓮はそういう気づかいができるからね。好きなモノとかを買うのを推奨すると思ったんだよね。まあその時はそういう可能性もあるかもって思った程度だけど」


「そうなんだ」


「確信に変わったのは、手向けの花よりきれいな花の方が喜ぶっていった時」


「重々しい雰囲気にしたくなかったんじゃないの?」


「そういう意味にもとれるけど、蓮を振り回そうとしてきた私ならわかった。これは手向けの花は必要ないって意味だ!って」


意図して振り回そうとしていたのかよ。迷惑な奴め。


「へぇ、なんか納得いかない・・・」


僕の言葉には納得した音無が、香川の説明にはあまり納得がいっていないみたいだ。


「もう!主役を無視しないで!今の主役は私!」


幽霊となり、さらには空気となりかけていた幽栖が声を上げる。でもそんなことを言ったら基本空気の赤坂と白石に文句を言われるぞ。

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