第19話 6月と言えば追試の季節
「6月と言えばー?追試だー!」
香川が何か元気にやっている。
「やっぱり6月と言えば追試の季節だよね!」
香川が音無に謎の勧誘をしている。
「遠藤君、この学校にも追試ってあったんだね」
「音無、よく考えろ。テストを何か受けたか?」
「・・・。あれ、なにも受けていないような」
「でももうすぐあるじゃん、1学期末テスト。あれって6月中旬に行われたよね?」
確かに、6月中旬に期末テストはある。しかし今はまだ6月初めだ。
「香川さん、まだ6月は始まったばかりだけど?」
「知ってるよ。でも学校の期末テスト無茶苦茶難しいから、絶対に追試を受けることになるんだよね」
テストの内容自体は普通科と同じだが、早く追い出s・・・早く卒業してもらうために、天才クラスではテストで赤点だった人は直後に無制限回の追試を受けることになっている。3年で卒業できる良いシステムだ。
「遠藤君、そんなに難しいの?」
「難しいのは難しいが、所詮テストだからな。ちょっと勉強したら簡単に満点を取れるぞ」
「へぇ、そうなんだ」
「奏花ちゃん、騙されちゃダメ!蓮は人外だからそんなこと言えるの!私たちみたいな馬鹿じゃ絶対に赤点になるから!」
「私達って・・・私も馬鹿に含まないでくれる?」
あと僕を人外カウントしないでほしい。
「音無が馬鹿かどうかは置いて、朝海の言った通り少なくとも蓮の言葉から想像するほど簡単じゃないぞ」
梶井が珍しく香川の援護をする。
「そうなんだ。私は馬鹿じゃないけど」
「でしょ!中学の時全国模試で1ケタ順位を取れていた、超ウルトラハイパーミラクル賢い累が言うんだから間違いないよ」
その言葉が馬鹿っぽいというのは言ったらだめなんだろうか。
「そんなに難しいんだ・・・。というか、梶井君ってそんなに賢かったの?」
「音無の中の俺のイメージは知らないが、俺の親が勉強させたがる親だったからな。必然的に順位も高かった」
「特に累の母が怖いくらいに勉強を押し付けてきていたからね。私は今でもヒステリック教育ママゴンって呼んでるよ。話す機会はほとんどないけど」
どんなあだ名だよ。
「じゃあ、この学校に行くとき結構喜んだんじゃない?この学校の実情はコレだけど、外面の偏差値は高いから」
「それがそうでもないんだな。俺の母さんは、ここよりも偏差値は高い樫小杉留高校に行って欲しかったみたいでな。半ば家出みたいな形でここに来た」
「ふーん、色々大変なんだね」
「そのおかげで、そんなに勉強しなくても追試を回避できるくらいの点数は取れるからな。ある程度感謝はしている」
「一応、過去問か前回のテスト問題見せてもらってもいい?」
「あーそれはムリだな」
「なんで!?」
音無が驚き怒ったような声で聞き返す。
「だってもう捨てたからな。この寮にテスト問題を置いておく奴なんていないぞ。俺と蓮はテストに興味ないし、朝海たちはテストに恨みを持っているから、これでもかというくらいシュレッダーにかけて、捨てている」
「なんか、すごいね」
「そういうわけで!奏花ちゃんも私たちと一緒に追試、受けよ?」
香川が明るく悪魔の提案をする。
「絶対に嫌だ」
香川はそう言って部屋に戻った。恐らく勉強するのだろう。
それから数日、音無はすごく勉強しているみたいだ。僕にも何度か聞きに来た。よっぽど追試を受けたくないのだろう。なぜかは知らないが。
そして、テスト当日になった。
「分かっていると思うが、一般的にカンニングと呼ばれる行為が発覚した場合は不正行為となりその時点で終了だ。後、今回のテストも追試狙いで受ける気のない奴も、せめてバレないように遊んでくれ。注意事項は以上だ」
あり得ない注意勧告が行われた後、テスト用紙が配られる。受ける気のない奴とは、当然香川たちのことである。
「では、はじめ!」
教師の号令でテストが始まる。約3分の1がペンを持ち問題用紙とにらめっこをする。残りは解答用紙に落書きしたり、机の下でスマホを見たり自由にしている。一応、皆隠すフリはしている。当然バレバレだが。
約10分後、解き終わったので解答用紙を提出して様子を見る。
音無は表情からして苦戦しているようだ。あんなに勉強していたのに・・・。
逆にほとんど勉強していない累はスピードが落ちることなく何かを書き続けている。
当然のごとく、香川は問題用紙に落書きをしている。テスト終了後、毎回突飛な発明をしているので、アイデアを記しているのだろう。
そして、テスト時間が終わった。
「奏花ちゃん、テストどうだった?難しかった?追試になりそう?」
キラキラした目で香川が音無に尋ねる。
「全然できなかった。何アレ・・・難しすぎるでしょ」
「でしょー、あんなの勉強したって無駄だよ。分かるわけない分かるわけない」
「こんなに頑張って、遊んでいる香川さんと同じ結果って無茶苦茶嫌なんだけど」
努力は報われる、と言いにくいのがまた悲しいところだ。そもそも才能だけで
さらに日は流れ、6月中旬。テスト返しの日になった。
「追試は避けられますように」
音無が必死に願っている。
テスト用紙を受け取り、点数も見ずにこっちにやってくる。
「追試は嫌だ、追試は嫌だ」
そう言いながら、音無は点数を開示する。追試を避けられた、と言いたいところだったが、結果は残念、ぎりぎり赤点、追試が待っている点数だった。
「ここのテスト難しすぎだよ!」
音無はご立腹のようだ。確かに難しい気はする。ついでに梶井の点数を見ると70という数字が見えた。
「んー、まぁ平均プラス5だからいいか」
平均とは当然、学年平均のことである。クラス平均?そんなのもちろん10~30に決まっているじゃないか。赤点が1桁になるため一応学年平均を基準に赤点が設定される。
「いいなぁー、そんなに取れて。私ももっと勉強しておくべきだったなぁ」
そう言っている音無だが、実は全敗というわけではなく10科目中8科目は追試を免れているのである。勉強した甲斐はあったと言える。
「奏花ちゃんは2科目しか追試にかかっていないのかー、残念だなー」
逆にこう言って悔しがっていたのは香川である。香川曰く、音無も
「ねぇ、遠藤君不正した?」
音無にこう言われてしまったのは僕のテストには全部100という数字が並んでいるからだ。
「奏花ちゃん、蓮は人外だから。アインシュタインとエジソンとスーパーコンピューターを合体させて未知の力を混ぜたような人間だよ?常識で考えないほうがいいよ」
香川、それはどういうことなんだ?というより未知の力を混ぜるなら最初からそれでよかったのでは。ツッコミどころが多すぎる。
「なるほど確かに。それもそうだね」
あと音無。お前はどれだけ肯定するんだ。というか納得するな。
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