第18話 麻薬並みのポテチ

朝起きると、音無が珍しくキッチンに立って何かをしている。


「音無、どうかしたのか」


「間食用のおやつが切れたから、新たに作ろうと思って」


「なるほど・・・ポテトチップスを自分で作っているのか」


台所を見ると、ジャガイモと油が置かれている。


「ポテチだけじゃないよ。ジャガイモを使うスナック菓子は基本自作しているよ」


「すごいな・・・でも日持ちするのか?」


明らかに一人で食べきれない量を作っている。


「それは大丈夫。保存できるようにする機械があるから」


そんな便利なものがあったのか。


「240万くらい奮発して買って良かったと今でも思ってるよ」


240万は高すぎる気もするが、後悔していないなら問題ないだろう。


「でもなぜか、家では絶対に他人に食べさせたらいけないって言われて」


「・・・一つ食べてもいいか」


そこまで言われるポテチは気になる。


「別にいいよ。たくさん作るから」


音無の許可も得て、出来上がったポテチを食べる。


「・・・これは確かに他人に食べさせたらダメだな」


「そんなに不味い?私はおいしいと思うんだけど」


「少なくとも不味いということはないな。その・・・なんというか、中毒性が高すぎるというか・・・」


「どういうこと?」


本当に理解できていない顔をしている。


「美味しすぎるんだ。正直言って麻薬といい勝負の中毒性を持っている」


「・・・マジ?」


「マジだ。一般人ならこれ以外食べれなくなるかもしれない」


「ヤバ」


音無が語彙力を失ってしまった。最近そういうことが多い気がする。


「そりゃ他人に食べさせたらいけないって言われるわけだ」


音無は何かに納得したような顔をしている。


「でも私は結構食べてるけど大丈夫だよ」


「耐性が付いているんだろう」


「遠藤君は・・・一般人じゃないから大丈夫か」


おい、僕だけ適当すぎないか。


「じゃあ、他の人には提供しないようにしとく」


「その方がいいだろうな」


朝から音無の変な才能を知っていしまった。




時間は少し流れ、学校。


「へぇ、そんなことがあったんだ。私も食べてみたいな、奏花ちゃんのポテチ」


「やめたほうがいいと思うぞ。香川なら中毒を回避できるかもしれんが、食べすぎはするだろうな」


「油ものは太るからね。じゃあやめとく」


「香川さんって太りやすい体質なの?」


「昔はそうでもなかったんだけどね。あることがあってから太りやすくなっちゃった。累は多少太っててもいいって言ってくれるけど、どちらかと言えば痩せている方がいいから」


「梶井君、いい彼氏だね」


「でしょ」


そこから、香川の累自慢が行われると思ったが、そのタイミングで担任が入ってきた。


「ρ組生徒諸君、朗報だ。ついに・・・ついに体育教師の後続が見つかったぞ!」


担任のその宣言にクラス中が歓喜する。


「そういえば、まだこの学校入ってから一度も体育の授業やっていないね」


そういえば音無は去年の終業式前日に転校してきたな。


「今年の3月で体育教師が宇宙飛行士になりたいからってやめたからな」


「そんな理由だったんだ」


今年まで残っていれば、ブラックホールに行くことができたのに。かわいそうだ。


「でも、そうなると問題が一つ発生するよね?」


香川の声にみんな頭を抱え始めた。


「え?何か問題があるの?新しい教師だから慣れないとかそういうこと?」


「音無、そんな単純な問題じゃない。この問題はもっと深刻で、危ない問題だ」


「何それ怖い」




「えー、今日から君たちの体育を担当する、猫柳努だ。よろしく」


「先生ー。今日は何をするんですかー?」


香川が元気に質問する。


「今日は初日だから、皆で楽しくドッチボールをしようと思っている」


その声にいきなりクラス全員のテンションが下がる。


「どうした、みんなドッチボールは好きじゃないのか?」


教師は意外そうな反応をする。


「別に嫌いじゃないけど、出禁にしてほしい人が2人いるんだけど」


「運動というのはみんなで楽しくするものだ。誰かを仲間外れにしてはいけない。そうだろ」


「蓮、新栖しんす、ちょっと来て本気でキャッチボールしてくれない?」


僕も新栖も了承して、ドッチボール球でキャッチボールをする。


「先生、アレ取れるどころか避けれると思う?」


ボール速度は音速を超えている。香川の質問に教師は首がちぎれそうな勢いで横に振る。


「出禁にしたほうがいいと思わない?」


「・・・思います」


教師側が敬語になってしまった。




ということで、僕たちは見事に体育の授業で出禁になってしまった。


「蓮はともかく、なんで俺まで・・・」


と、音速のボールをキャッチして音速で返していた日谷新栖ひや しんすが愚痴っている。僕がなるなら当然、お前も出禁になるだろ。


「楽しそうだな・・・いいなぁ・・・。よし蓮!1on1のバスケを」


「それ去年やって、香川に激怒されただろ」


去年、暇だったので1on1のバスケを日谷とやったら、本気でやりすぎたみたいで突風が起こり香川に「出禁にした意味ないじゃん」と怒られた。


そんな生産性の全くない会話をしていると、突如グラウンドの一部が爆発した。そこそこ急いで、香川たちの近くに駆け寄る。


「大丈夫か、ケガはないか」


「被害はボールが破裂しただけだと思うよ。やっぱり地雷はまだ埋まっていたんだ」


香川が冷静に答える。


「そろそろ駆除しないとケガ人が出る気がするな」


「え?なにのんきにしているの。大事件だよ!?」


事情を知らない音無が焦っている。


「落ち着け、こんなことは日常茶飯事だ」


「そうなの?・・・ってそれはそれでだめだよね!?」


音無はごまかせなかったようだ。


「昔・・・といっても去年だが、グラウンドに地雷をノリで埋めたKがいたんだ」


「Kって香川さんのことだよね?」


「埋めた数は100、その日中にほとんどを爆発させたんだが、その中のいくつかが不発で残ってしまった」


「それなら早く取り除かなくちゃ」


「だけどその『KA』が埋めた地雷は無駄に高性能で、金属探知機はおろか砂と全く同じ反応を示すんだ」


「つまり・・・?」


「取り除こうと思えば、グラウンドの砂をすべてひっくり返す必要がある」


「馬鹿じゃん」


「しかも不発地雷ではあるがまだ反応することが多々あるから命がけで行う必要がある」


「なるほど・・・じゃあ、グラウンド入場禁止にしなよ」


「それも考えたんだが、それじゃ何も解決しないから勝手に爆発するのを待とうということになった」


「でも危なすぎない?」


「最悪直撃しても死なないって某香川が言っていたからな」


「もうそこまで言うんだったら、普通に名前出しなよ。で、どうして香川さんは地雷なんかを埋めたの?」


「戦隊ヒーローのマネがしたかったんだよね。登場したら後ろが爆発する、あのかっこいいやつ」


「・・・せめて爆薬を表面に置くとかにしなかったの?」


「万が一見えたら格好悪いじゃん」


音無が呆れすぎて何も言えなくなっている。


「で、これどうする?」


「うーん、一旦放置で」


こういうのは時間が解決してくれる。物理的に。たぶん。

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