第21話 猫耳カチューシャにゃん

「なんか奏花ちゃん、最近頑張っているね」


「あれでも本人は楽しいらしいぞ。今まで以上のインスピレーションを感じるらしい」


「それも蓮のおかげって知ったら奏花ちゃんビックリするんだろうな」


音無が音源を作っている間、僕は暇しているのではなく音無のためにジュースだったりお菓子だったりを持って行っている。一応、製作中の曲には口出しをしないようにしている。


「蓮の的確なアドバイスが才能に見えちゃうけど、実際は小さな気配りが一番助かるんだよね」


昔、香川の発明の手伝いをしたとき、これまでにない発明品をつくれたみたいでそれ以来、僕の才能をべた褒めしてくれている。ほめられて悪い気はしない。だが、相手は香川だ。


「でさ、蓮。結構悪魔の発明しちゃったんだけど、封印したほうがいいと思う」


「したほうがいいと思うぞ」


「即答しないでよ。一応見て」


香川がねだってきたので仕方なく見てやる。香川が取り出したのは猫耳のカチューシャだった。


「なんだこれは」


「改造版猫耳カチューシャ。なんか今、引っ張れば耳が動くカチューシャみたいな被り物あるじゃん?ああいうのを作りたくて」


なるほど何かを感知して耳が動くカチューシャか。全然かわいいじゃないか。


「これは寸と百合と協力して作ったカチューシャなんだよ」


なにかいやな予感がする。


「なんと、強制的に語尾に「にゃん」を付けさせることができて、さらに「な」が「にゃ」に変わるカチューシャだよ」


想像よりもはるかにかわいくて悪魔的な発明だった。


「なんというもの創り出しているんだ、お前らは」


「で、奏花ちゃん最近頑張っているじゃん?無理しないでね、という意味も込めて着けたいんだけど、効果を確かめるために一回蓮つけてみてくれない?」


なぜ僕が?


「いや、お前らが着ければいいだろう」


「もう着けたよ。でも製作者だから、自ら言ってしまう可能性があると思うんだよ。第三者を頼るのは大切だよ?」


こういう時だけ饒舌になるから腹が立つ。


「仕方がないな。ちょっとだけだぞ」


そういってカチューシャを付ける。


「どう?何か変わった?」


「いや、いまのところは何にもないな」


「あれ?おかしいな。「ななななにゃんにゃん」って言ってみて」


なんだその意味のない言葉は。


「ななにゃなにゃんにゃん。言ったぞ」


「ねぇ蓮。まさかだけどこういうの耐性ある?我慢しているだけだよね?」


「そうだな。僕なら抑えることはできる。だけど一般人なら効果絶大だろうな」


「よかった。じゃあ外して」


許可が下りたので外す。


「あ、それ一応自分では外せないように・・・蓮なら大丈夫か」


普通に外したのをみて香川は何かを察したみたいだ。




そしてしばらく経ち、香川は上手く音無にカチューシャを付けれたみたいだ。さらにしばらくが経ち、音無の一区切りがついたみたいで、リビングに降りてくる。


「奏花ちゃん、おつかれー」


「ありがと、にゃん、・・・、・・・???」


「奏花ちゃん、どうかしたの?」


「私今、にゃんって言った、にゃん?」


「うん、言ってるね」


「蓮、どうしようにゃん。私、おかしくにゃったみたいにゃん」


頭に何かが付いている違和感はないのだろうか


「よく頭を触ってみろ。違和感はないのか」


「頭にゃん?・・・あ、猫耳がついているにゃん」


そろそろにゃんにゃんうるさくなってきたな。


「どう、奏花ちゃん。特製猫耳カチューシャは?」


「恥ずかしいから早く外してほしいにゃん。にゃんか抜けにゃいにゃん」


「えー、可愛いからしばらくそうしていようよ」


香川は想像以上の鬼畜だった。


「絶対に嫌だにゃん」


そうやって騒いでいると、皆集まってきた。


「どうした奏花。猫耳なんか付けて」


なにも知らない梶井が音無に尋ねる。


「見にゃいでほしいにゃん!はずかしいにゃん」


音無の顔は真っ赤になっている。


「でも奏花ちゃん、意外とノリノリだよね」


「そんにゃこと絶対にゃいにゃん」


「だってそれ、設定ミスで語尾に「にゃん」を雑につけるだけになっているから。何も考えずにしゃべると無理やり付けたような「にゃん」になるよ」


「・・・」


あれ、香川が100、0で悪いと思っていたが音無も乗り気だったのか。


「いやそんにゃことにゃいにゃん!?そもそも、にゃん付けを強制されてノリノリでにゃんにゃん言う人はいにゃいにゃん!」


そろそろ何が言いたいのかわからなくなってきた。


「え、でもいつもの奏花ちゃんなら「よね」とか、なんとかだ「し」とか、上手くにゃんが付かないような喋り方をするよね」


香川の言ったことは結構図星だったようで音無はさらに顔を赤くしている。


「そろそろ可哀そうだから外してやれよ」


そう言って梶井が音無のカチューシャを外す。


「あ、せっかく楽しいところだったのに」


「どこまでが本当かは知らないが見ろよ、トマトくらい顔を赤くしているぞ」


梶井が香川を叱る。これはまた珍しい。


「ねぇ、私奏花ちゃんには素質があると思ったの。どう?ちょっと私の部屋に来て、体験・・・してみない?」


「おい、白石。良く分からない沼に音無を引き込もうとするな」


「大丈夫、私、顧客満足度は100%だから」


確かに100%かもしれないが、サービスに満足したというよりはサービスに満足するようになったの方が正しい。


「音無、一旦休んでおけ」


「うん、そうするにゃん・・・」


そう言って、音無は部屋に戻っていった。後、本当に楽しかったんだな。抜けきっていないぞ。



結局このカオスな状況が落ち着くのに約1時間かかった。そして『猫耳カチューシャにゃん(香川命名)』は着用者の許可を得てからつけるように義務付けされた。

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