第6話 チート増やすから待ってて

「ふー、美味しかった。よし、続きをしよっか」


「えっ!?食べた後すぐに動くの?結構食べた気がするけど」


「香川は僕たちと同じ人類だと思わないほうがいい」


「蓮にだけは言われたくないなー」


「何をするんだ?プール内でバレーをしていたみたいだが」


「うーん、二人でやっても楽しくないよね。水球のPKでもする?」


「僕はいいが、勝てるのか?」


「・・・私は道具の使用ありでお願いします」


つまり、実力勝負では勝てないと。まぁ、これくらいのハンディならいいか。


「一試合一つまでだぞ」


「分かった」


ジャンケンの結果、勝った香川が先攻を取ることになった。


「いっくよー!くらえ、ジェットボール」


弾丸のような速さで飛んできたボールを片手で受け止める。比喩ではなく音速を超えている。


「危ないな、打ちどころによっては死ぬぞこれ」


「すごい、全然目で追えなかったけどなんか受け止めてる」


「あれ?おかしいな。最高マッハ3まで出るように改良したボール射出機のはずなのに。たぶん距離が足りなかったのと空気抵抗でマッハ1くらいしか出てなかったのかな?」


「マッハ1のボールを片手受け止めるって・・・もしかして蓮は超能力者?」


「じゃあ、次は僕の番だ。行くぞ」


ボールを投げる。さすがにマッハは超えていないが、時速200キロはある。しかし、香川に近づくといきなり落ちた。


「どうだ、この超吸引手袋は」


「あれ?吸引したなら、香川さんの手に寄せられるんじゃ?」


僕は見ていた。香川は手袋を付けたはいいが手を差し出して受け止めたら死ぬと思い、水に落とすことにしたのだ。その証拠に少しだけ水を吸引していた。


「ねぇ、私たちあれに加わらなきゃいけないの?」


「いや、あれに加わったら普通に死ぬだろ。人間はおとなしく観戦しておくのが正解だな」


「え、でも赤坂くんは参戦するみたいだけど?」


「あいつは人外だ」


「さぁ、俺も参加するぜ。出でよ、カメロボット・マークスリー!」


絶妙にダサい掛け声とともに巨大なカメがプールサイドから現れた。


「あれとPKはさすがに無理なんだが?」


「寸、さすがにこれは蓮の道具解禁しても良さそうじゃない?」


人外代表の香川ですら少し引いている。


「・・・一つまでならいいぞ」


ケチだな。


「先攻はカメロボットで」


地味に香川も赤坂側に回るなよ。


「準備できた?いくよ、カメロボット・水圧超噴射砲、発射!」


カメの口が開きまるで何かが発射される雰囲気が醸し出されてからカメの頭が引っ込み甲羅だけの状態になった。そして恐ろしい勢いの水砲と共にボールが発射された。


「超強風付火炎放射!」


風でボールの速度は落ち、水は蒸発した。完全にボールの速度を押し殺した、そう思った瞬間。僕はとても大事なことを忘れていた。


「・・・あ、膨張を忘れていた」


そう、水蒸気爆発である。ボールは水と共に大爆発を起こし、僕は吹っ飛んだ。


「蓮ー、大丈夫?結構な爆発が起きた気がしたけど」


「ああ、大丈夫だ。腕時計についている安全装置で火傷一つしていないぞ」


「そっかー、腕時計の安全装置で無傷だったんだね。すごいね、安全装置」


「普通、腕時計に安全・・・もういっか」


「奏花、突っ込み役が諦めたらだめだよ」


外野二人は放っておいて、ボールが爆発に巻き込まれ破裂どころか跡形もなく消え去っている。


「これ、判定はどうする?跡形もなく消え去っているし、これではどっちが勝ったかわかんないぞ」


「たしかに。どうしようか」


「なら、ゲームで決着をつけるっていうのはどうだ?」


「私、負けるじゃん」


自信が無さすぎるだろ。


「俺の作ったゲームだったらどうだ。ちょっとくらいならチートを使っても・・・バレはするが・・・別に問題ないと・・・」


「別に多少のチートなら目をつむってやるから、もうさっさと決着を付けよう」


異例の参加者がチートを認めるとてもアンフェアな対決である。



「さて、ルールは分かったか?じゃあ、早速始めるぞ」


ゲームはよくある格闘ゲームの一つ。事前情報として、何かチートをしてくる。そして、敵は香川だけ。三戦して僕が三連勝すれば、僕の勝ち。一回でも負ければ、香川の勝ち。香川の方がとんでもなく有利な条件な気がするが、なんでもいいか。


「アターク、ヤ―、コレデドーダー」


香川が棒読みで何か叫んでいるが、十中八九チートだろう。しかも当たり判定を変化させる系の悪質なチートだ。いや、チートは基本的に悪質だが。しかし、僕の当たり判定は減ってはいるがなくなってはいない。絶対に勝てないチートはさすがに遠慮してくれたようだ。


「僕に最低限でも勝ち筋を残したことを後悔させてやる」


本気で行くか。



3分後、なんとか勝つことができた。


「1戦目は蓮の勝ち。ちょっと2戦目に行く前に、少しチートを増やすね」


チートを増やすから待ってて、と言われた人は僕だけではないだろうか。というか、これからも聞くことはないだろう。


「よし、できた。いつでも始めてもいいよ」


次は香川の行動が明らか速くなり、僕の行動が遅くなっている。さらに、先ほどのチートも残っているようだ。


「今度こそ、勝つぞー」


「そもそもチート使って負けるなよ」


「蓮が強いのが悪い」


正論言ったら逆切れされた。



さらに、3分後。結果は僕の圧勝。


「蓮、本当はチート使ってたりしない?」


「チート使っているのは香川たちだろ」


「いや、普通、チート使われて勝てないよ?」


「朝海、蓮は人外だ。常識が通じる相手じゃない」


「遠藤君は人外で超能力者・・・どういうこと?」


おい、お前らが変なこと言うから音無が僕を良く分からない存在にしようとしているぞ。


「じゃ、さらにチート増やすねー」


「堂々と言うなよ」



しばらくして、さらにチートを組み込むことに成功したようだ。失敗すればよかったのに。


「これで勝ったらついに蓮の勝利だ」


そもそものルール設定がおかしい気もするが、過ぎたことを気にしても仕方がない。


「よーし、頑張るぞー」


「チート2つ使って負けるなよ・・・」


「蓮が人外なのが悪い」


勝手に人ではなくされた上に非を押し付けられた。なんという理不尽だろう。


「じゃあ、始めるぞー」


ヌルっと始まった。と思ったら先ほどまでとは比べ物にならないくらい切れのある動きをしてくる。隣の香川を見ると、もはやコントローラーすら握っていない。口笛まで吹いている。


「せめて、チートを隠そうとしろよ」


「だって、付いていけないもん。それに虚しくなるし」


「そんなチート使うなよ」


「勝てればなんでもいいかなーって」


そんな、適当な。



「なんとか、勝てた」


「なんで勝てるの・・・?」


「チート込みで学習させた最強AIなはずなのに・・・」


チート込みで学習させるからだろ。


「何はともあれ、僕の勝ちってことで」


「蓮って本当に人外かもしれない」


音無がマジで僕が人外だと思い始めた。弁明したいけど、どう説明したものか。

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