第7話 学校なじめるか不安だな

別荘に来て数日。そろそろ、帰りを気にする時期になった。


「遠藤君、春休みっていつまでなの?」


「あと1週間だな」


「そろそろ帰らないとヤバくない?」


「まぁ、やばくはないが・・・そろそろ帰ることになるとは思うぞ」


「?なんで口ごもっているの」


「蓮ー、そろそろ帰ろー」


「本当に帰ることになった・・・」


「いいのか?まだ10日しかたっていないぞ」


香川史上最も短い滞在期間かもしれない。


「確かに名残惜しいけど、来たくなったらいつでも来れるし、そこまで長く滞在しなくてもいいかなって」


「確かに、そうか。じゃ、荷物まとめとけよ」


「もちろん」


「音無も適当にまとめとけよ。香川のことだ、いきなり帰ると言い出すぞ」


「・・・うん、そうだね」


「どうした?名残惜しいのか?」


「いや、そうじゃないんだけど・・・、・・・・・・」


会話の途中で音無は眠ってしまった。相当疲れがたまっていたようだ。


「奏花ちゃんを連れまわしすぎたかな?」


「そんなことだろうとは思ったよ。毎回旅行するたびに誰かは睡眠不足に陥らせているからな」


「私はただ、付き合ってもらってるだけなんだけどな」


「お前の生活習慣ははっきり言って異常だからな」


「そんな。蓮にだけは言われたくないな。私と同じ生活習慣でも体調一つ崩さなかったじゃん」


そういわれると何も反論できないから困る。



ちょっとして音無は起きた。


「じゃあ、帰ろうか」


「ってことで、よろしく」


「行きの時に思っていたんだが、お前の空飛ぶ靴で往復したほうが速くないか?」


「あのソリは幾分不人気なものでな」


「俺が言うのもおかしいが、乗り心地は変わらねぇだろ」


「・・・そうかもしれない」


「いや、空飛ぶ靴の方が乗り心地がひどい。あれだけは2度と乗りたくない」


アンチ空飛ぶ靴の梶井からひどい批判をくらった。そんなにひどいものかな。


「私は好きだけどねー」


香川はフォローしてくれる。


「奏花ちゃんはどう?あの靴」


「私は、乗りたくはないかな。ジェットコースターに乗ってるみたいで楽しかったけど、何回も乗りたいとは、とても・・・」


音無からはガチのレビューをくらってしまった。



「やっぱり、この車も嫌い」


寮に到着したものの、またまた僕以外は全員グロッキー状態になっている。と、思ったが香川は今回も元気そうだ。


「香川、乗り物酔いは大丈夫なのか?」


「うん、もう慣れた」


さすが香川だ。適応能力が異常に高い。


「じゃ、葦田ありがとな」


「おう、また何かあったら何でも言ってくれ。車でなんとかできるなら何でもするぜ」


葦田は実は愛車家だったりする。車の改造を行っているのに、高級車も普通に買うから出費が絶えないらしい。僕たちには関係ないし、それ以上に儲けているみたいだから口を出すことはないが。もちろん車の改造は許可を得ている。


「寮に着いたってことはもうすぐ学校だね。なじめるか不安だな」


「・・・突っ込みにくいボケはやめてもらえるか」


転校初日みたいなことを言っているが、香川はまだ転校して2回しか学校に行っていない。終業式前日に転校するからこうなるんだ。


「奏花ちゃん、ゲームしよ」


「帰ってきたばかりなのに、疲れてないの?」


「?私は全然。疲れてるなら、最恐眠気覚まし、貸すけど」


「あれはいい。大丈夫、ある程度ならできるから」


超人香川に付き合って大丈夫なのだろうか。音無が死にそうだったら変わってやるか。



結果的に1時間も経たずに交代することになった。ゲーム中に音無が眠ってしまった。香川も鬼ではないので、眠気覚ましを無理やり飲ませることはせず、次の生贄を探してさまよっていた。10分くらいさまよっていて、あまりにもかわいそうだったので交代してやった。


「蓮ってさ、こういう運ゲーでも強いよね」


「完全な運ゲーではないからな。実力要素があれば勝率はその分変わるだろ」


「ところで、蓮ってどこまで目押しできるの?」


目押しとは、簡単に言えばスロットで流れてきたものを目視してぴったり当てる、技術みたいなものだ。


「ぴったり止まるものならできるが」


「やっぱりそうか。じゃあ、本気でやればこのゲームでも余裕で勝てるの?」


「勝てるな。おもしろくはないが」


「ゲームを純粋に楽しめないってかわいそうだね」


「別に楽しめないわけではないぞ。少し手を抜いてはいるが」


「私、手加減とか許せないんだよね。やるなら、本気でやれって思う」


「その結果、友達なくした奴がいるらしいぞ」


「誰のことなんだろうね」


言わずもがな、香川のことである。


「それに、陰湿な戦法を取っていないだけで、本気ではあるぞ」


「さっき、手を抜いているっていったじゃん」


「香川、チェスで一生、必勝法を使って買っても面白くないだろ。それなら、あえて必勝法を使わずに本気でやった方が面白い」


「確かに、そうだね。・・・えっ!?チェスって必勝法あったの?」


「一部界隈では有名だぞ。どっかの馬鹿が、チェスの全盤面を書き上げて、コンピュータに読み込ませたらしい」


「でも、そんな話聞いたことがないけど」


「そりゃ、表向きにはまだ見つかっていないことになっているからな。だから言っただろう、一部界隈では、と」


「発表したら大騒ぎになるのに、もったいない。隠したくなる気持ちもわかるけど」


「というか、僕の空飛ぶ靴も発表すれば騒ぎになる代物だぞ」


「そういえば、そうだね。私の最恐眠気覚ましも騒動になるくらいにはすごい代物だった気がする。そう考えたら、発表されている物ってごく一部だね」


「それが社会だ。あ、総資産100兆いった」


なぜか、社会批判の様になってしまった。


「蓮、何でしれっとこんな桁をたたき出してるの?」


気づいた人もいるかもしれないが、僕たちがやっているゲームは桃太郎が鉄道運営をする、サイコロゲームだ。そして、僕たちは10年決戦で遊んでいる。


「そんなこと言われても、これが実力としか」


「事実だけど納得はできないね。これって運ゲーじゃなかったんだ、っていう気持ちの方が大きいよ」


「世の中、完全な運ゲーなんてほぼほぼないぞ」


「でも、オープンワールドすごろく、別に強くなかったよね」


「あれは、隅々まで探索したり、壁に激突したりしてたら、遅くなった」


「もしかして120%楽しんであの順位だったりする?」


「120%楽しむの意味が分からないが、最短ルートを逸脱はしていたな」


「・・・恐ろし」


「お前ら、いつまで起きてんだ。もう朝だぞ」


香川と話しながらゲームをしたら梶井に怒られてしまった。外を見るとすでに朝日が昇っている。これがゲームの依存性か。怖いな。


「少なくとも、ゲーム云々よりかは二人が異常だけだと思う」



いつの間にか起きていた音無の声は誰にも届かなかった。

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