第31話 あとテンション上がる
翌日の朝・・・同日の朝。皆疲れが溜まっていたのか、佐久万家に集まったのは10時だった。
「で、どうする?2週間って短いようで長くて短いから」
結局どっちなんだそれは。
「それなんだけど・・・じゃーん、こんなものを作りました!」
幽栖が取り出したのはどこにでもある大学ノートだった。表紙には「死ぬまでにやりたい10のこと」と書かれている。
「なるほどなるほど・・・1週間あれば全部できそうだね」
「1週間?最低10日はかかると思うんだけど」
「じゃあ早速このノートを消化していこう!」
香川、せめて話を聞くそぶりくらいはしてやれよ。
それから1週間、幽栖のやりたいことをやったり、香川の思い付きに振り回されたり、520枚のトランプタワーをつくったりした。
「・・・すごっ。トランプタワーってここまで積みあがるんだ」
「死ぬ前にこんなヤバいものが見れるなんて・・・感動越して驚きしか出ないんだけど」
「いやー、蓮はさすがだねぇ。私でも52枚が限界なのに」
「52枚できるのも異常だと思うけど」
音無が小さくツッコむ。
「バランス感覚と手先の器用さの問題だからな。理論上はどこまででもいける」
「絶対それ以外の要素がある気がする」
「諦めろ音無。こいつらは地球に住んでいるだけの地球外生命体だ。こちらの常識は通用しない」
なんか梶井に散々に言われている気がする。
それから数日が経ち、幽栖の余命は3日となった。
「いよいよ本格的に何するか考えないと」
「私は最後にもう一度この街の夜景を見たいかな」
「分かった・・・ということで出発!」
「早くない!?もうちょっと準備とか」
「大丈夫、完璧エイリアンの蓮がいるから。必要なものは全部持ってきてくれるよ」
「じゃあ、ま、いいか」
おい、僕に丸投げするなよ。あと幽栖、納得するな。
「でも日の入りの時間まだだよ。日が暮れる7時半くらいからでいいんじゃない?」
「山登りでしょ、お弁当でしょ、記念撮影でしょ、こんなにしていたら今から出発しても遅いくらいだよ」
「香川さんだけ遠足に行ってる?」
遠足気分なのは間違いないだろう。
「んー、きれいだね、やっぱり。いろいろ見て回ったけど、この街の夜景が一番好きだな」
「前より少し明るいね」
「夏は日長っていうけど、やっぱり夜の方がいいかな。暗いのってテンション上がるし」
「分かる、暗闇って怖いとかそういうイメージがあるけど、真っ暗でもない限りそんなに怖くもないんだよね。逆に小さな悩みとかが溶けて流れていくような?あとテンション上がる」
幽栖と香川どちらの意見も分からなくもないが、「テンション上がる」の一言でものすごく台無しにしている気がする。
「普通にお化け出そうで怖いんだけど。やっぱり夜の山は怖くて無理」
残念、音無はお化けを克服できなかったみたいだ。
「夜の山をモチーフにした曲とかは思い浮かばないのか」
「あのね、歌詞の8割はイメージだし、曲調の99%はなんとなくなの!ラブソングを作っているのは恋をしたことない人か恋が終わってしばらくした人、既婚者・・・つまり新鮮な恋をしていない人なの。同様に『辛くても生きよう』みたいな曲を作る人はそんな辛い思いをしていないし、『怖い』曲を作る人は怖い体験していないの!だから本当に体験する必要なんてないの!」
だんだん口調が強くなってきているし、あまりにも個人の意見が過ぎないだろうか。でも面白そうだから一旦乗っかってみる。
「そんなものなのか」
「そんなものだと思うよ。ソースは私と私の知り合い。あ、ポジティブな『イェイ!』みたいな曲作る人は本当にポジティブだった。そこだけは注意して」
どうでもよすぎる補足が帰ってきた。そもそも音楽にそこまで関わらなければ作詞者、作曲者にはほとんどで会わないと思うんだが。
「夜景を見れば恐怖心も和らぐんじゃないのか。そこそこ明るいぞ」
「・・・そうだね」
「れんれん、隣いい?」
「もちろんかまわないが、香川との話は終わったのか」
「うん、一段落付いたから」
「で、どうした」
「死ぬ前の反応ってどうするのが正しいんだろうね。最後まで笑って死ぬのがやっぱりいいのかな」
「一般的にはそれがいいとされているが、当然唯一の正解というわけではないと思うぞ」
「やっぱり?私もそう思っていた」
幽栖が笑う。この10日くらい幽栖の笑顔は何度も見てきたが、一番かわいく笑っていた。
「幽栖はどうやって最後の瞬間を迎えたいんだ?」
「別に決まっているわけじゃないんだけど、いつも通りに笑って死ぬのって、もう生きるのを諦めているみたいでいやなんだよね」
「普通は死ねば生きれないぞ」
「分かっているよ、もちろん。でも、もしかしたらがあるかもしれないじゃん。ほら奇跡の復活とか」
「・・・」
「だから私は死ぬ時は・・・、」
幽栖が言葉に詰まる。
「・・・生まれ変わってもこの時間を過ごしたいと思って泣いて笑って死にたいな」
「結局笑って死んでいるぞ」
「そうだね。やっぱり笑って死ぬのが正しいのかもね」
本日2度目の笑いは少し湿っていた。
「あ、もうこんな時間だ!」
夜の山で夜景を見たり、香川が夏と言えば花火などと言い出したから花火をしたりしていると、いつの間にか朝日が昇る時間になっていた。
「・・・やっぱりきれい」
「夜景がきれいな街って書いてあったけど、日の出もきれいだね」
珍しく香川に調べ漏れがあったみたいだ。
「さすがにそろそろ帰るか。日の出を見終わったら帰るぞ」
徹夜に比較的慣れている人たちが集まっているとはいえ、比較的一般人の音無、梶井、白石がすでに限界に近い。今はムリして起きているが、部屋に戻った瞬間倒れるように眠ることが容易に想像できる。
「やっぱり夏は日中じゃなくて、太陽が沈んでから昇り始めるまでが醍醐味だね」
「香川は年中いつでもどんな時間でも楽しめるだろ」
「私は風流も重んじるタイプなの」
「知ってる。今までたくさん見てきたからな」
「やっぱり蓮とは気が合うね」
「合わせているだけだ」
「完璧超神だもんね」
ついに人ですらなくなってしまったようだ。いやもともとか。
しばらく日の出を見た後、香川も幽栖も満足したので帰ることにした。予想通り、部屋に戻ると音無も梶井も白石もすぐに眠ってしまった。予想外だったのは、香川もすぐに眠ってしまったことだ。色々言いつつ、疲れが溜まっていたのだろう。
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