第28話 一枚10万円の御札
ホラー注意
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「ところで霊剣って引き抜けていいことあるの?」
「うーん、変に触ると祟られることもあるから、何もしないほうがいいと思うよ」
「そんなリスクあるものを触っていたの!?引き抜けなくてよかった・・・」
音無は安心している。
「まぁ、この剣は特に害はないと思うのが私の見解だけどね。10年以上この街に住んでいる私が言うんだから間違いないって。れんれんもそう思うよね」
「住んでいる歴は関係なくない?」
「確かに害はないな。ただ持ち出すのはやめておいた方がいいかもな。ただ調べた限り、この街に霊力が多い理由の一つになっている可能性が高い」
「結局霊力って何ができるの?というかそもそも正体が分かったの?」
香川に頼まれて霊力について調べていた赤坂が答える。
「いや、まだ分からない。この場所が他の場所に比べて多いのは事実だが、特に変わったことは感じられないな」
「蓮は分かるの?」
「詳しくは知らないが、オカルト話に詳しい知人によると分子や原子を引き付ける力のようなものらしい。信憑性は低いが、ダークマターの1種とも言っていたな」
「なるほど。そういう物質のことをそこまで考えていなかったかも」
「うんうん、後は魂なんかも引き留める力があるらしいよ。だからこの街は心霊現象が起こりやすいって言ってた」
幽栖が参加してくる。
「やっぱり起こりやすいんだ」
音無が嫌そうな顔をしている。
「ま、まあ魂なんてものが本当にあるかも定かじゃないしさ、起こりやすいのは火の玉とかその程度が多いらしいよ」
「火の玉でも十分怖いよ!」
「でも火の玉は化学で再現できるから。ただの化学現象だよ。そう考えれば怖くない怖くない」
「あ、確かにそんなこと言っていたかも」
「一応もとの場所に戻して次に行こう」
そう言って香川は元の場所に剣を刺して、洞窟を出る。
「次の場所はここ、山の中だよ」
「ねぇ不気味なんだけど」
音無が露骨に怖がっている。そのせいか歩くスピードも明らかに遅くなっている。
「仕方がない、音無これを貸してやる」
ポケットから御札を取り出す。
「なにこれ」
「知り合いの陰陽師が使っている御札だ。キョンシー、吸血鬼、ゾンビなど何にでも効くらしいぞ」
「えー、いいなぁ。私も欲しい!」
香川も要求してきた。ついでに幽栖も要求している。
「高いんだ。一枚10万円だぞ。仕方なく買ったもので量がそんなにあるわけじゃないから、ポンポンあげられるものじゃない」
「前から気になっていたけど遠藤君って何人友達がいるの?というか何者なの?」
「友達かどうかはともかく、いろんなことをしている知人が多いからな。基本的なことで不自由はしない程度に融通を聞かせてもらっている」
「幽霊って基本的なことだったんだ・・・」
音無は違うことでショックを受けているみたいだ。香川は御札が気になっているようで、まだ欲しがっている。
「着いたよ!この鳥居をくぐると、霊剣のある場所に・・・」
そう言いながら、幽栖は鳥居をくぐろうとする。
「通るな!」
そんな幽栖を止める。
「え、何急に」
音無が驚いている。
「見ていろ」
そう言って、鳥居の柱を蹴る。すると鳥居は倒れ、そのまま地面が陥没した。
「なにこれ・・・、落とし穴?」
「いや、よく見れば分かるが死体が多く埋まりすぎている」
「ほんとだ。でも最近できたものではないみたいだけど」
落とし穴の中を見た香川が冷静な判断をする。
「冥界の扉とか地獄への入り口とか言われるものだろうな。そして霊剣の能力とでも言えるものだろう」
よく見るとその先に剣が見える。
「確かに明らかに自然物ではないけど、誰かの悪質ないたずらっていう可能性はないの?」
「それはないと思うよ。さっきも言ったけど『最近できたもの』はないよ。逆に言えば『最近できたもの』じゃないものならたくさんあるってこと。見えるだけでも最高500年は経っているね」
音無の疑問に香川が答える。
「つまり誰かのいたずらだったら、代々行われていることか、奇跡的に同じ場所に落とし穴を開けているってことになるってことでしょ」
幽栖が補足を加える。
「霊剣の近くに行けば詳しいことが分かるだろうな。足元に気を付けて近づくぞ」
僕の後ろを離れるな、とも加えて剣のある場所に行く。
落とし穴を避けるように迂回して、霊剣が手に取れる場所まで近づいた。
「なんか紙が巻き付けてあるよ」
音無の言う通り、剣の柄に紙が巻き付けてある。香川が普通に紙を取る。
「危ないんじゃ・・・」
「大丈夫、大丈夫。なんて書いてあるのかな?・・・、・・・分からない。蓮、読んで」
分からないのかよ。香川に渡された紙を見ると、達筆で1000年以上前の日本語が書かれている。確かに読めなくても仕方がないかもしれない
「『死に近づく魂、喰らう剣なり。霊に変わりし魂、喰らう剣なり。総じて成仏に秀でた剣なり』と書かれているな。多少僕が補足しているが大体原文そのままだ」
「どういうこと?」
「たぶんだけど、最初の部分はもうすぐ死ぬ人を引き寄せる力があるという意味だと思う。だって私がこの剣の在処を知って、一番死にそうになっていたでしょ」
「認めたくないけど、私もそう思う。遠藤君が止めていなかったら死ぬのは幽栖だけだったかもしれない」
幽栖の解釈に音無が賛成する。
「じゃあ、次の部分はたぶんだけど、幽霊とかそういうものを成仏させることができるっていう意味だよね」
香川が次の意味を考察する。
「最後の部分は・・・霊だろうが人間だろうが殺せる、という意味か?」
赤坂も一緒になって考察する。
「というよりも、幽霊を作らず幽霊を許さない剣といった意味の方が強いだろうな」
梶井が考察に補足する。
「見つけてしまったからには仕方がない。音無、御札を貸してくれ」
「う、うん。遠藤君、封印するの?」
「当然だ、残すとこれから多くの被害者が出る」
「でも今まで幽霊を抑えてきたモノでもあるんだよね。いいの?勝手に封印しちゃって」
「僕がするのは、御札を貼るだけだ。しばらく力が発動しないようにするくらいだ。本格的な処置は本職に任せる」
「本職って?」
「この御札を作った陰陽師に頼めば、適切な処理をしてくれるだろう。影響も最小限だ」
「ふーん、ならいいけど。現地の人的にはどうなの?」
音無が幽栖に話を振る。幽栖は剣をじっと見つめていたので少し反応が遅れた。
「あ、え、うん。ぜんぜん大丈夫だよ。幽霊って言っても悪霊ばっかりじゃないだろうし。死にそうとは言え、人を殺す剣なんて危なくて残すなんて言えないよ」
「そう」
「じゃあ、一旦解決したし、次のところに行こうか」
香川の提案で次の場所に行くことになった。
「・・・・・・だったのか」
「どうしたの?幽栖」
「ん?なんでもないよ。行こう」
幽栖の声は誰にも届かなかった。
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