第9話 車輪を回したところでかかる時間は変わらない

学校が始まって2週間がたった。



「さて、そろそろ遠足の時期だ。今年も自由に決めていいとのことなので、どこか行きたいところはあるか」


「去年はどこ行ったんだっけ?」


「去年は入場者0人のつぶれそうな遊園地に行って改装したな。今は人気の遊園地になってるぞ」


「そんなすごいことしていたんだ」


「今年は前人未到のところに行きたくない?」


「香川、誰も行けなかったから前人未到のところなんだぞ」


「知ってるよ。・・・ブラックホールの中とかどう?」


「どうも何も死んじゃう」


「他はあるか?ないならブラックホールになるが」


「アンドロメダ銀河とかどうだ?」


「梶井君まで何言ってるの?」


「うーん、日帰りはむりだから却下かな」


「あ、行けはするんだ」


「異世界とか行けたりする?」


「行けないことはないが日帰りが無理だ」


「どうしていけるの」



他にもいろいろな案が出たが、一番面白そうで日帰りが可能な場所ということでブラックホールになった。




そして当日。


「昨日は楽しみすぎて何回も目が覚めちゃったよ」


「それは睡眠の質が悪いだけだと思う」


音無も楽しみにしていたみたいだが、香川に一刀両断されている。


「で、蓮。どうやって行くんだ」


「銀河バスを呼んでいる。もうすぐ来るはずだが」


そう言っているうちに、空から光がさしてきて神々しくバスが舞い降りてきた。どこからかそれっぽい効果音も流れている。


「車輪は使わないんだ」


「一番近くのブラックホールでさえ1000光年以上離れているんだ。車輪を回したところでかかる時間は変わらないぞ」


「それはそうだろうけど。なぜバスの形にしたの」


そんなこと知るわけない。製作者の趣味だろう。




「さて、皆乗ったな」


「蓮、全員いるみたいだ」


「ありがとうございました、先生。では出発」


バスの周りが光に包まれたと思うと周りは写真で見るような宇宙になっていた。


「本当にこんな感じなんだ」


「今の技術はすごいからな」


「このバスに乗りながら言われても」


「そして、遠くに見える・・・黒いもやもやみたいなのがブラックホールだ」


「ブラックホールって見えないんだ」


「光すら吸い込んでしまうと言われているからな。そして、皆さんが気になっているでしょう、本当にブラックホール内では時間が止まるのか、さらにホワイトホールがあるのか、その真相が今明らかになります」


「言われたら確かに気になる」


「現在時刻は午前12時、つまりワープに必要な時間は4時間なので大体午後4時に帰れたら時間が止まっていることになりますね」


「遠藤君、ノリノリのところ悪いけど、このバスっていまどうやって動いているの?」


「もちろんブラックホールの重力にすべて任せているから、少しずつ加速していくぞ」


「もちろん、で済まさないでほしい」


そしてブラックホールに吸い込まれていった。


「停車ー!ブラックホールの中心部で停車したということはホワイトホールはありませんでした。残念!」


「残念がるところなんだ」


「蓮、そういえばこのバスって重力に潰されないの?」


「ビックバンの衝撃を受けても一つとして壊れない設計らしいぞ。ブラックホール程度では壊れないんだろう」


「なるほど」


「なるほどじゃないよね」


「ところでブラックホール専用宇宙服があるが、外に出てみたい奴はいるか?」


「私、出てみたい!」


香川をはじめ一部の生徒が立候補した。


「宇宙服を着たら胸にあるテレポートボタンを押すんだ。戻りたい時もボタンを押したらバスの中に戻れるぞ」


「じゃ、行ってきます」


「香川さんって恐怖心とかないのかな?」


「朝海はああ見えて結構怖がりだぞ」


「それはうそでしょ」


「それをはるかに上回る好奇心があるだけで」


「なるほど」


人の意見というのはこうも180度変わるものだったのか。


「ただいまー、なにも聞こえないし何も見えなくて面白くなかった」


「そうだろうな」


「いちおう、本みたいな冊子があったけど」


香川が手に持っていた本を見ると異言語だろうか、良く分からない文字列が並んでいた。バスについている翻訳機能によると『創世絵日記』と書かれているみたいだ。

音無が「なんでバスに翻訳機能が・・・」などと言っていたが、銀河バスなどというファンタジーな代物に何が付いていてもおかしくないと言うと、納得してくれたみたいだった


「創世絵日記だって。だれかのいたずらかな?」


「いたずらでブラックホールに投げれるの凄すぎでしょ」


「とりあえず中身を見てみようよ」


『8月1日 僕は自由研究として世界を作りました。おもしろい世界が広がってくれると嬉しいです』


「この世界って自由研究に作られたんだ」


「神様からすれば自由研究程度のモノなのかもしれないね」


『8月10日 色々な星に生物が生きていました。その中に爬虫類と呼ばれる生物が生きていた世界があったのですが、間違えて隕石を落としてしまいました。明日には星にぶつかると思います。これからはできるだけ隕石を落とさないように注意します』


「爬虫類が生きている世界ってたぶん地球で恐竜のことだよね」


「そうだろうな」


「恐竜絶滅のなぞが神様のミスだったとは」


『8月22日 隕石を落とした星では哺乳類と呼ばれる生物が同士討ちをしています。星に結界を張り、壊れないようにしました。そして哺乳類が数を減らしたようなので、哺乳類の種をまきました。一つまみまでと書かれていましたが、間違えて一握りまいてしまいました。どうなるか慎重に経過を見ていきたいと思います』


「この神様ミスしかしてないじゃん」


「まぁ、自由研究だからな」


『9月1日 よく頑張りました。しかし、創世はあぶないので用法容量を守りましょう。創世に限らずこれからも注意深くしましょうね。   検印済み』


「これはたぶん担任に見てもらった後、飽きて捨てたな」


「ということはもう神様が干渉してこないの?」


「たぶんな」


「この神様、ミスしかしないから関わらないほうがより良い世界になる気がする」


それは僕も同感だ。そんなことを話していると他のブラックホールを探検していた人たちも帰ってきた。そして、その中の1人が香川とは違う本を持って帰ってきた。


「もう1冊あるの?」


「そうみたいだ」


「自由研究の使いまわし?」


「分からない」


『この世界を記録する。この世界は最近中古で購入したものだ。哺乳類と呼ばれる生物が同士討ちしている世界にフォーカスが当たっていたので、その中の1匹に神の力である「核の力」を与えた。その経過も併せて記録する』


「あの神様、この世界たぶん売ったよね」


「そうだろうな」


「そして核兵器って神様の実験結果なんだ。すごく余計なことをしてくれたよね」


「そー?私的にはすごい革新的だと思うけど」


「香川のように新しい力に喜ぶ人種もいるからな。余計な事かどうかは一概には言えないな」


『哺乳類と呼ばれる生物は核の力で世界を平和にしようとしていた。そこまではよかったがある問題が起こった。どこからか哺乳類の種がまかれて哺乳類が増えすぎてしまった。記録として使えないためここで放棄する』


「また放棄されたよ、この世界」


「この神様も余計なことしそうだったしマシじゃないか」


「それはほんとうにそう」


今この世界を管理している神はいったいどんなやつなのか、それとも管理していないのか。たぶん、安全な場所において放置されていると思う。




「学校に到着!」


「あっという間だったね」


「そうだな。そしてただいまの時間は4時。つまりブラックホール内は時間が止まっている!」


「すごい。世紀の大発見だよ。累!いますぐ論文書こう」


「よし、任せとけ」


「あの、乗り気なところ悪いんだけど、どうやって書くの?さすがにブラックホールに入って確かめましたと書いても信じてもらえないと思うよ」


音無がとても冷静な意見をする。


「蓮、動画とってない?」


「ワープの影響で動画はすべてデータが壊れるからな。誰もとれていないと思うぞ」


「ちぇ、せっかくブラックホールの研究が進むと思ったのに」


「香川さんってブラックホールに興味あったんだ」


「もちろんだよ。だってブラックホールってね、」




その後、香川の「星の爆発とブラックホールと爆発のロマン」についての講義が3日にわたり聞かされたらしい。音無曰く、おうちに帰っても遠足は終わらなかったらしい。

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