十章 決着
十章 決着(1)
「レヴァロスが、ヴォスキエロ軍の陣営に?」
獣人族とエルフの援軍が駆けつけた四日後、斥候がもたらした報告に一同は困惑した。シュベート城とヴォスキエロ軍が逃げ込んだ森にそれぞれ送った斥候は、いずれも同じ報告をしてきた。ゼルディアとレミル、リバルをはじめ数人のレヴァロスがヴォスキエロ軍の陣営に向かったという。
「どう思う?」
ケイロスにたずねられ、ディノンは腕を組んでしばらく考え込んだ。
「考えられるのは二つ。協力要請と宣戦布告」
ディノンの言葉に全員がざわついた。
「レヴァロスの目的は、新魔王ゼルディアの采配によって、いまの魔王を討つことだ。それを周知させるためにゼルディア率いるレヴァロスが第三勢力として起つ必要がある。そして新魔王に降るようヴォスキエロ軍に呼びかけ、断ればこれを討つ。俺たちに敗北したヴォスキエロ軍の戦力と士気は著しく低下してる。重傷を負った獣魔将も弱っているはずだ。いま叩けばヴォスキエロ軍は、ほぼ壊滅する。しかし、ヴォスキエロ軍にはまだ相当数兵が残ってる。首都からの増援もある。いっぽうレヴァロスの勢力は三万だが、そのうち戦えるのは一万ほどらしいから、まともにぶつかっても勝てる可能性は限りなく少ねぇ。万が一勝てても被害は甚大だ。だから宣戦布告も兼ねて敵を挑発し、シュベート城で迎え撃つ……。てところか?」
「というと、ヴォスキエロ軍はレヴァロスを叩くためにシュベート城を攻めるな」
斥候の報告では、すでにヴォスキエロ軍は再戦の準備に取り掛かっているという。首都から足の速い騎兵三千が先に駆けつけ兵力は一万八千ほどになり、さらに森の資源を使って破壊された攻城兵器を修復している。
いっぽうシュベート城を占拠したレヴァロスは防衛の構え。城壁に戦力のほとんどを集結させていた。
「――レヴァロスを支援してやろう」
机に広げられた地図を眺めながらディノンが言った。そこにはシュベート城とそっくりなテフィアボ・フォンエイムの屋敷の見取り図も並べられていた。怪訝そうにする仲間を見返して、ディノンは薄く笑った。
「ついでに城から追っ払う」
「どういうことだ?」
「双方を戦わせて、ある程度戦力が削れたタイミングでこっちも戦闘に参加する。城に集中しているヴォスキエロ軍を両側面から叩くんだ」
ディノンはテフィアボ・フォンエイムの屋敷の見取り図に視線を落として言葉を継いだ。
「同時に、城の地下通路を通って城内に侵入し、捕らわれている仲間を救出する。彼らとともに、内側からレヴァロスを攻撃する」
ああ、と納得するような声がいくつか上がった。
城へ通じる道は、すでに調べがついていた。大山脈の坑道を練り歩き、レヴァロスが追い立てた暗螂の痕跡を探してそれをたどって発見した。
「当然、地下通路はレヴァロスに警戒されてるだろうが、戦闘がはじまったら連中の注意はヴォスキエロに向かう。精鋭を少数で向かわせれば制圧も十分可能だ」
地図と見取り図を眺めていたケイロスがディノンを見た。
「では、そっちはお前が行け。外は俺たちが預かる」
顔を上げたディノンは、一度口を引き結んでから言った。
「可能なら、この戦いで獣魔将も討っておきたい。だから……」
カシオが口をはさんだ。
「奴の相手は僕がする。君は城のほうに行きたいだろう」
ディノンはわずかに苦笑した。
「ああ、まぁ、そうだが……」
「今回はダインも一緒に戦ってもらう。大丈夫だ。君が獣魔将に深手を負わせたおかげで、僕らだけでもやれるはずだ。必ず、奴の首を取ってみせる」
カシオの背後に立ったダインが深く頷いた。二人の力強い視線を受けて、ディノンは深く頷いた。
「分かった。お前らに任せる」
「だた、一つだけ確認しておきたい」
カシオは少し躊躇うようにたずねた。
「君は、レミルと戦えるか?」
周囲から、はっと息を呑む音がした。
カシオは気づいていた。レミルの裏切りが発覚したとき、ディノンが彼女を討つのを躊躇ったことに。それに気づいたから、カシオも迷った。たとえ霊剣を所持していたとしても、二人で斬り込めばレミルを討つことは十分可能だったろう。しかし、ディノンが躊躇ったことに気づき、カシオも自ら踏み出すことができなかった。
ディノンはカシオをまっすぐ見据えて答えた。
「戦える」
「本当か?」
ディノンは苦笑した。
「心配性だな。あっちには俺の仲間も捕まってんだぞ。それに、レミルはエルフの里から霊剣を奪った。あれだけは返してもらわなくちゃならねぇ。――必要なら、あいつを斬る」
鋭い声で言ったディノンに、さらに、周囲がぎょっとする。
しばらくディノンの視線を受け止めていたカシオは、深く息をついて頷いた。
「そうならないことを祈ろう」
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