一章 若返りの薬(6)
夢を見ない、深い眠りだった。目覚めたときには朝だった。一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったが、身体を起こしてあたりを見まわし思い出す。
ああ、とかすれた声が漏れる。頭が異様にぼうっとする。
とりあえず渇いた喉を潤したくて、ディノンはテーブルに置いてあった水差しに手をのばした。
そこで、異変に気づく。まっすぐのばされた腕が異様に短く、シャツの袖がだらんと垂れ下がっていた。
ディノンは視線を落とした。身にまとっているのはぶかぶかのシャツ、ズボンと靴は脱げ、長椅子に放置されていた。慌てて袖をまくると、真っ白な小さな手が現れた。それは紛れもなく幼子の手だった。
ディノンは周囲を見回した。そばにかけられた姿見を見つけて長椅子から立つ――いや、下りた。足が震え、まともに歩けないことに驚愕しながらも、這うように姿見に近づいて自分の姿を確認し、さらに驚愕した。
そこに写っていたのは四、五歳くらいの幼児。張りのある肌は、やや赤みのある白。そばにある椅子と同じくらいの背丈。ふっさりとした髪だけが白いままだった。
「な、んだ……っ!」
自分のものとは思えない幼い声にディノンは口と喉をおさえた。周囲をきょろきょろと見まわし、椅子の上に置かれた自分の荷物を認めて駆け出した。瞬間、長すぎるシャツの裾を踏んづけて転び、涙目になりながらもシャツを持ち上げて荷物のもとへ駆け込んだ。
椅子によじ登り、太刀を握る。しかし、あまりの重さにディノンは太刀ごと倒れてしまった。
「くっそ。まじかよ……」
悪態をついて立ち上がったとき、部屋のドアが開いた。現れたのはタルラを従えた二十七、八歳くらいの女性。美しい容貌の彼女は、毛先の青い霞色の髪と琥珀色の瞳をしていた。その風貌に見覚えがあったディノンは、口をぱくつかせながら彼女を指差した。
彼女も、驚いたようにディノンを見ていた。
「あ、あんた、メイアか?」
「ディノン?」
ディノンが頷くと、彼女も頷いた。
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