第5話 北の最前線ナフィラ
「んあ~~~! すご~~~~い! え? こ、こんなに立派な町なんですか~!? お、おおぉお大きい~~~!?」
「そうだろう、そうだろう。マーザ・テラー王国で王都よりも大きな要塞都市と、呼ばれている。ここからではダンジョンまでは見えないが、あの町の向こう側に大森林が広がっているんだ」
「んえええ……」
三十メートルの外壁が、見渡す限り続く。
その奥には城。
あれが領主城だという。
巨大な外壁門には多くの行商人や冒険者が列を作っていた。
それを無視して隣の関係者通路の方へ行くよう指示を出すホリーに従い、従魔馬は列の横を通り過ぎる。
門の兵士にホリーが声をかけると、笑顔で「おお、ホリーさん」と挨拶を返されていた。
「音速兔の討伐、お疲れ様! 一人で大丈夫だったか? ええと、それからその子は?」
「ああ、それが報告よりも音速兔の数が多かった。結局三羽もいたんだ。さすがに死にかけたんだが、この子が助けてくれてなんとかな」
「三羽!? 三羽を一人で倒したのか!? すごいな、いや、無事に生き延びてくれたならよかった。恩人ってことだが、身分証は?」
「これから本部で申請予定だ。身元は俺が一時保証する。頼むよ」
「んん~……正規手続きで入場してほしいところだが、ホリーさんが身元保証人になるならいいか。どうぞ」
「ありがとう。従魔馬はここまでかな」
「ヒヒン」
「サリー、ここまでありがとう」
「ヒゥウウン」
従魔馬から降りる。
ティハが頬を撫でると、従魔馬は目を閉じて気持ちよさそうにした。
その様子に、門兵は目を丸くする。
「気難しい従魔馬がこんなに懐くなんて……ずいぶん旅慣れしているのかな?」
「俺もそう思ったんだが、彼の人徳らしい」
「それはすごい。トライコーンは無垢な少年を好むという話は本当だったんだな」
「ん……?」
一気に眉が寄るホリー。
トライコーンという魔物のことはもちろん知っていた。
同種にユニコーンとバイコーンという魔物がおりユニコーンが無垢な少女にのみ心を開く魔物、バイコーンがそれを穢すことを好む魔物だ。
トライコーンはなにを好むのか謎だったが「ユニコーンが無垢な少女ならトライコーンは無垢な少年が好きなのでは?」という説があった。
従魔馬はトライコーン。
デレデレでティハを舐め回すところを見ながら、だんだんホリーの表情が険しくなっていく。
「ティハ、そろそろ従魔馬を主人に転送したらどうだ? 従魔馬が必要ならダンジョンでテイムするなり購入もできる」
「んぇ~? そういうものなんですか~? でも僕、
「従魔首輪という魔石道具があるんだ」
「へえ~! そんな魔石道具があるんですね~。でも高そう……」
「従属させる魔物にもよるが、いくつか種類があるから売店で説明しよう」
だから早く従魔馬を転送しろ、という副音声。
門兵の若干引いた顔。
それに気づかず、ティハは従魔馬から離れ首輪に疑似魔門を作り魔力を送って主人の下へと送還する。
お金は支払っているので、無事に返せたことに安堵した。
ホリーのところへ戻り、門兵にお礼を言ってついに北の辺境の町『ナフィラ』へと立ち入る。
「まずは城へ行こう。城の門衛棟の中に冒険者拠点本部がある。そこでさっき言っていた仮の身分証を発行してもらうんだ」
「身分証って町ごとに必要なんですか〜?」
「町ごとではなく、領ごとだな。基本的に行商人以外は領地ごとに身分証を領主に申請して発行してもらう。一応、領民も領主の財産という扱いになるからな」
「んぇ〜」
「……大通りは人も多いし、はぐれるといけないから」
「んぇ?」
と、手を差し出される。
意味がわからず固まって首を傾げるティハ。
「手を繋ごう、という意味だ」
「手……」
そういう意味なのかぁ、と目を丸くする。
はぐれるといけないので。
「そうですね〜。はぐれたらホリーさんに迷惑かけちゃいますもんね」
それはよくない。
優しい人に迷惑をかけるのは本意ではないから。
だから差し出された手に手を重ねる。
しかし緊張はどうしてもしてしまった。
人と手を繋ぐなんて生まれて初めてだ。
そのまま歩き出す。
「珍しいか?」
「んぇ? ああ、いやぁ〜、僕屋敷から出でから村や町にほとんど寄らずにここまで来たんでぇ〜。町並みをゆっくり見たこと自体初めてで〜……なんかすごいなーって」
「そう、なのか」
口を開けたまま大通りに向かって歩き出す。
外壁から北へ向けて歩いていくと、町を十字に横断するナフィラ大通りが見えてくる。
ここはナフィラ南大通りというらしい。
町、及びナフィラ領の玄関口。
「ナフィラ領は他の領地と違い、領地の境界には外壁が建設されている。ここから北一体がナフィラの領地。そしてナフィラ領地から西には海もある」
「うみ……?」
聞き返すティハに「海も知らないのか」と一瞬脳裏をよぎったが、彼が自分で「物知らずだから」と言っていたのを思い出してなにも言わず海の説明をする。
塩水が大量を包んでいて、ナフィラ領海を出るとそこは島国があると教えた。
「国があるんですか」
「クロージェスタ鬼人国という。俺の故郷だ」
「んぇ〜? ホリーさん、異国人さんだったんですかぁ〜」
「ああ。クロージェスタ鬼人国も『
「そうなんですね〜」
でも、それでも諦めずに命をかけて戦い続けているのだからやはりこの人は優しい人だな、と思う。
故郷のために。
命をかけて守りたいものがあるのも本当にすごいことだ。
(死ぬのが怖いから逃げてる僕とは真逆の生き物って感じだな〜)
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