第11話 ティハの料理(1)
一ヶ月後。
『
「火炎斬・蒼!」
『ギャアアア!』
「やった! ギャビック・ピーマンボスを倒したぞ!」
「すごいじゃないか、ホリー! 剣スキルがどんどん強化されていないか!?」
「魔力がほとんどないとか、絶対嘘だろ」
「…………」
ドシン、と巨大ピーマンの魔物が倒れる。
同じく討伐依頼を受けていた冒険者が駆け寄ってきて、とどめを刺したホリーの肩を叩いて褒めちぎった。
中には嫉妬ややっかみも多いだろう。
上級冒険者の間では、ホリーの保有魔力量が常人の五分の一程度だということは有名。
実際ホリーは故郷の家から、生まれながらに魔力量が少ないことで過保護にされることを嫌って飛び出した経緯がある。
守ってもらいたいのではなく、故郷と家を守りたい――そう思ったから。
(どうなっているんだ? [火炎斬・蒼]は俺の保有魔力すべてを使っても本来使えない技スキル。使っても倒れることなく、体力も魔力もまだ余裕がある……俺の魔力量が……増えているとしか……)
剣を鞘に戻す。
すぐに他の冒険者は倒した魔物の解体に移る。
後方で魔法支援をしていたエイリーも、不信そうな表情で近づいてきた。
「どうなっている? 君の魔力量が増えている。一度城で
「あ、ああ。俺も不思議なんだ。
体内の魔力を貯める器官、
それは生まれながらに大きさが決まっており、大きさは生涯変わることはない。
ホリーは生まれつき
障害と呼ぶほどのものではないが、ホリーの実家の家柄からすると問題視されるレベルではあった。
エイリーが簡易[鑑定]を行う。
現時点の魔力量は[簡易鑑定]でも見ることができた。
「これは……最大魔力量が増えている!」
「は、はあ!?
「いや、
「コップに溜める水の量を増やせるかどうか、ということだな? 俺のコップが最大で100ccしか入らないのに、溢れんばかりに満タンになっていると?」
「ま、そんな感じだ。あとは濃度だな。例のティハのように
だが、その人よりもはるかに小さな
最大容量まで魔力が通うようになったところで常人以下だろうが、魔力の量が増えれば戦いの幅が広がる。
先ほどのように、今まで使えなかった魔法を纏った”技スキル”が使えるようになるからだ。
冒険者の中でも技スキルは重要で、物理攻撃の利かないゴースト系の魔物相手でも魔法師なしで対応ができる。
使えるか使えないかで生存率が桁違いになるのだ。
ホリーのような”鬼人族”でなければ、物理だけでここまで生きては来れないだろう。
(本来”鬼人族”は人間族よりも
首を傾げ、エイリーが「うーむ……いつ頃からだ? 魔力が増えたと感じるのは。なにか心当たりは?」と聞いてくる。
いつから?
「そうだな――」
記憶を辿ると、約一ヵ月ほど前から、のような気がする。
一ヵ月前というと――ティハと同居を始めた頃から。
ティハの作った食事を摂るようになってから。
そう話すと、顎に指を当てて考え込んでいたエイリーが、なにかを思い出したように向き直る。
「ティハは確か野菜を
「ああ」
「もしかして、その野菜を食べ……?」
「食べているな」
「それだ!」
「え、野菜が?」
「そうだけどそうじゃない! ティハが魔力を送って野菜を摂取したせいだ、と言っているんだ! ナフィラに流通している野菜の七割は魔物が原産だ。魔物にも魔力を貯める器官――
と大興奮になるエイリー。
あまりにもテンションが高すぎて若干ドン引きするホリー。
「待てよ? と、いうことはティハの魔力を小麦粉に込めてもらえば、魔法付与のアイシングクッキーにも魔力を底上げする効果が期待できるのでは? ……っ!! ホリー、すぐに町に帰ってティハに検証に協力してもらおう!!」
「お、お前……」
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