第12話 ティハの料理(2)
「うう~~~ん、攻撃魔法はやっぱ無理そうですね~。まあ、食べ物で攻撃はできんですよね」
最近ようやく冒険者拠点本部に『体力回復効果付与』と『魔力回復効果付与』を各五枚セットで千マリーに設定してお試し販売が始まった。
好評ならば、四方の冒険者拠点支部でも販売しよう、ということになっている。
問題はそれまでに量産ができるかどうか、だ。
ラッピングまで含めて全部自分でやらなければいけないので、量産は難しい。
クッキー自体の量産は難しくないが、アイシングにどうしても時間がかかるので。
五枚をセットにしてして売っているが、本部に卸すのは『体力回復効果付与』十セット、『魔力回復効果付与』十セットの二十セットが今の限界。
本部にはあまり冒険者が来ないのだが、エイリーが宣伝しているので売れ行きは好調らしい。
もう少し多く作れるなら各支部やダンジョンの中にある前線拠点にも卸せるようにしたい、と言われている。
材消費や手数料を抜いて約五百マリーの収益。
エイリーには「これは千マリーで三枚くらいにした方がいい」と言われていたので、本格的に支部に卸す正規品は三枚一セット千マリーになる予定だ。
今は他の魔法も付与できないものかと試しているが、攻撃魔法は完璧にアイシングしても付与はできない。
その代わり、『全ステータス小上昇効果付与』が新たにできるようになった。
これは体力、魔力、攻撃力、防御力、素早さの五つの項目を全部少しずつ上昇させる補助魔法。
初級の魔法師が覚える魔法だが、他の初級魔法に比べて少し複雑な魔法陣。
中級の補助魔法はもっと魔法陣が細かくなる上、文字まで入ってくるのでアイシングで描くと潰れてしまいがち。
大きなクッキーを焼いて試すつもりだが、今のところ次は防御系の魔法を試すつもりなので先延ばしになりそう。
おそらく初級の補助魔法系はアイシングクッキーとして作ることは難しくないのではないかと思っている。
「ただいま! お邪魔するよ!」
「ひぎゃぁぁあぁ!? え!? 誰……あ、エイリー様……!?」
「おい、エイリー! 俺より先に入るな! そしてティハを怯えさせるな!」
「失礼だな、怯えさせてないんていないよ。そんなつもりないってば。だからどうか怯えないでおくれ! 今日は頼みがあってきたのだ!」
「ん、んえぇ……?」
と、言って厨房まできたエイリーは、魔法鞄から小麦粉の袋――しかも三十キロ――を五袋も取り出した。
目を白黒させるティハに、ホリーが頭を抱えながら「実は……」と今日、ダンジョンでの出来事を話してくれる。
最近ホリーは魔力量が増えているらしい。
特に魔力量を増やす訓練をしていないのに、なぜ?
そんな話になり、もしかしたらティハの魔力を野菜を介して取り込んでいるのでは、という仮説を立てたという。
「は、はあ……そんなことあるんですか?」
「それを立証するために小麦粉を買ってきたのだよ!」
「んぇぇ? い、いやぁ、なんで小麦粉なんですか? 野菜って話じゃあ……」
「例えばだね! 小麦粉の君の魔力を含ませることができて、それで例の魔法付与されたクッキーを作ったらどうなるかな!? もしかして、魔法付与プラス魔力量も増えるんじゃないかな!? そう思ったら試すしかない! って、思うだろう!?」
「え、あ、は、はあ〜……」
そんなこと考えるのはエイリーくらいなんじゃなかろうか、と思ってしまうティハ。
しかし相手はナフィラで一番偉い人のご子息。
逆らえるはずもなく。
「やってみてもいいですけど〜……魔力を流すのって結構時間取られるんですよ〜? 大丈夫ですかねぇ?」
「確か三時間くらい流し込むんだったかな? いやあや、急ぎではないさ! ゆっくりたっぷり流し込んで、大量に焼いてみてほしいな! [鑑定]で調べてみるから!」
「ん、んぇぇ……わ、わかりました。じゃあ、夕飯にもう何品か作ってからやってみます〜。それでいいですか?」
「いいとも! あ、なんだったら私も夕飯お相伴に預かってもいいかな!?」
「えーと……はい。大丈夫ですよ〜」
テンション高。
ここ一ヶ月、できる限り接触は避けてきたつもりだがそれでも遭遇する度に好奇心に満ちた態度を向けられて、複雑な気持ちになる。
とりあえず野菜を持ってきて簡単な野菜炒めと、ブロッコリーとベーコンのパスタ、ピーマンの肉詰めとキャベツの肉巻きをテーブルに次々出す。
温めたポトフに少し胡椒を足して、とにかく品数を作る。
(なぜなら二人分の食器しかないですからねぇ。品数を増やしてごまかしつつ、来客用のフォークとスプーンがありますけど、お皿は足りんすね。普段は使わん大皿も出しましょうね)
使った野菜はほとんど毎日ティハが魔力を流し込む
エイリーのリクエスト通りに魔力を込めた野菜を選んで使う。
冒険者の装備から普段着に着替えたホリーと、料理の過程を見ていたエイリーが出された料理に「食べてもいいかな」と期待に満ちた目を向けてくる。
「どうぞどうぞ~」
「いただくよ!」
「いただきます。今日も美味しそうだな」
「んふふ、ホリーさんが『苦手だったけど食べられた!』って嬉しそうに食べてくれるから、僕も作るの楽しいですよ~」
「ほ~~~」
にまにまとホリーを見ながら笑うエイリー。
わかりやすくからかいに来たエイリーを睨むホリー。
仲がいいのだな、と眺めながら自分の分も食べ始める。
やはり自分の魔力を取り込んだ野菜を食べると重苦しさを感じる。
(ああ、僕が自分の魔力を注いだ野菜を食べて苦しくなるけどホリーさんは魔力が増えたんですか。へえ~、僕の魔力って他の人にあげられるんですか。あれ、じゃあ野菜じゃなくてホリーさんを
で、実際に魔力を込めた野菜を使った料理を食べたエイリーの感想は――
「え? 普通に美味し……!? うちの城のシェフに引けを取らない……!」
「そうだろう! ティハの料理は美味しいだろう! やはり是非に結婚してほしい」
「んえ~……結婚とかわかんないです。今は住む場所を提供してくれているだけでありがたいですよ~」
「……お前、一ヶ月も一緒に暮らしてるのになにも進展してないの?」
「いやそれは……しつこくしたら気持ち悪がられるかもしれないだろう……!?」
「まあ、うちの国は同性婚非推奨だしな。できなくはないけれど。でも、もう少し積極的にいかないとこんな料理上手、横から掻っ攫わせかねないぞ」
「ぐぬぬ……」
ホリーとエイリーが顔を近づけてなにかを喋っている。
残念ながらティハは「仲良しですねぇ~」としか思わない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます