第25話 ダンジョンデート?(3)
「進化するタイプの魔物と言われているね。進化先はコング、ビッグコング、ファイターコング、チャンピオンコング、ソルジャーコング、コングキング……メスならコングクイーンとか」
「いっぱいある……!」
「いっぱいあるよー。コングやスライム、ゴブリンなどの弱小種は進化していくとどんどん手強くなる。とはいえ、この辺りは浄化魔法が施してあるから、進化は難しい。従魔にしておけば進化しても首輪をつけ替えれば主人に逆らうことはないけれど」
「そうなんですね〜」
「護衛には向いているけれど、進化するまでそれなりに戦いで経験値を積ませ足り、魔石を食べさせたりしないといけない。進化は難しいよ」
「え!? 魔物って魔石を食べるんですか!?」
「食べるよ。結構頭の悪い魔物は共食いまでして進化するよ」
衝撃。
こわい、と悲しい顔をするとエイリーには平然と「魔物たちは魔物たちで食物連鎖を形成しているからね」とのこと。
弱い者は魔石ごと食われ、魔石を食らった魔物は一定量の魔石量と経験値で進化する。
その頂点が最終進化した魔物――エリアボスであり、エリアボス同士で縄張りを形成してそこを守っているのだ。
人間にとって手つかずのダンジョンの奥地は、それこそ人間の想像も及ばないような魔物が大量に存在していることだろう。
「安い魔石なら拠点支部の売店で買うこともできるし、どうする? 後々護衛にすることも考えて、このリトルコングを従魔にするか?」
「うーん」
「ウキ、ウキ」
「ふふ、なんか懐かれました~。人懐こいんですね~」
「「え? ………………」」
ティハの頬に擦り寄り、手の平の上に下りてお腹を見せる。
その様子に顔を見合わせるエイリーとホリー。
なぜか信じがたいものを見る目で見られて首を傾げるティハ。
「普通は懐かないものなんですか~?」
「普通はな」
「小さくても魔物だからね。さっきのように驚かして逃げ去るのが普通だ」
わりとしょうもない魔物である。
攻撃力も成人女性くらいはあるものの、比較的臆病な部類の魔物で逃げ足が非常に速い。
「従魔にする場合は名前をつけて首輪をつけるんだ」
「名前ですか~? う~~~ん……それじゃあ~~~……リンゴ」
「ウキ~~~」
「「リンゴ……?」」
意味がわからない、という表情の二人に「リトルコングってリンゴっぽいじゃないですか~」というと「「あ、ああ……」」と納得してくれた。
……かなり微妙な表情だけれど。
「よろしくね、リンゴ~」
「ウキュ~~~」
首輪をつけるとリンゴ、と名づけたリトルコングは嬉しそうにくねる。
エイリーはその様子に「ティハの
他に主のいる従魔にもずいぶん懐かれていたので、その可能性はあるだろう。
早速一匹従魔を手に入れて、三人は第二開発拠点への道を再び歩み始める。
小鳥の魔物が穏やかな囀りで森を満たす。
水の匂いがした辺りを見回すと、木々の隙間から湖が見え始めた。
「ここは……」
「ここはナディアジュゴンキングというエリアボスがいた場所だ。寄っていくか?」
「はい~」
綺麗な草原と花畑が広がる、小さな昆虫の楽園のような場所。
素保近くに石碑が建っている。
エイリーとホリーがその場所に近づき、胸に手を当てて祈りを捧げた。
石碑には三十名ほどの名前が刻まれている。
鈍いティハにも、ここがかつてエリアボスの住処、名前の刻まれた石碑を見れば刻まれた名前がここで殉職した人々の者だとわかってしまった。
ティハもその石碑の前に来て、祈りを捧げることにした。
「ティハ……ありがとう」
「この人たちのおかげでここを安心して歩けるんでしょう~? これからこの場所がより多くの人が訪れて、多くの祈りが捧げられるんですよね~。たくさんの人の笑顔を見られるこんな場所で――」
僕も、と言いかけてやめた。
死にたくないと思いながらも、最近は体の限界を感じ始めている。
今も破裂しそうな
それが気にならなくなっている。
心が充実しているから、と前向きにとらえることもできるけれど、世の中そんなに都合がいいわけがない。
(あんまり長く……もたないんだろうなぁ、僕……)
人に感謝され、作ったものを嬉しそうに食べてもらえるのが幸せ。
こんな自分には過ぎた日々。
でもだからこそ、人生に満足してしまったような気がする。
思い残すことが――もうない。
(って、思ってたんですけどねぇ~……)
隣にいたホリーを見上げる。
淡紅藤色の髪が陽の光で煌めいて、眩しい。
眩しくて眩しくて、目をキュッときつく閉じる。
「ティハ? どうかしたか?」
「あ、ええと……眩しくて~」
「普段家の中にいるからか? ……と、あれは……」
なにかが近づいてくる、とホリーがティハの前に立つ。
こそっと顔を覗かせてみると、しょぼしょぼとした老犬だろうか?
湖の水を飲み、そのまま横たわって落ち着いてしまう。
「おや、珍しいね。アサシンローウルフじゃないか」
「名前がものすごく物騒ですね~」
「実際夜に遭遇すると上級冒険者パーティーでも生きて帰れないよ。アサシンローウルフは昼と夜で等級と危険度が変わる珍しい魔物で、昼間は四級・危険緑だが夜は一等級・危険度赤。遭遇したら仲間の一人を捧げて振り返ることなく全速力で逃げろ、とまで言われるほど危険な魔物だよ。その代わり昼間はスライム以下の普通の犬、と言われている。昼間に会えば人懐こく、餌づけして信頼関係を築ければ従魔にすることも可能だと聞いたことがあるね」
「そんなに強いんですか」
「というか、アサシンローウルフは群れで行動するんだ。昼間も複数でいることが多いから、一頭でいることも昼間に見ることも珍しいんだよ。多分、世代交代で群れのリーダーを追われたのだろう」
「……追い出されちゃったんですか?」
多分、と頷かれてウォル家を追い出された時のことを思い出した。
人間を見つけたアサシンローウルフは、じっとこちらを見ている。
なにか考えているようにも、こちらを観察しているように見えた。
「おいで。一緒に行こう」
手を差し出すと、しゃがんでいたアサシンローウルフが立ち上がってゆっくり歩いてきた。
ティハもしゃがんで待つ。
差し出した手をクンクン、と嗅いでから目を細めてからお座りして首を差し出した。
「えっと、名前をつけるんですよね~。なにがいいかな~。美味しそうな名前が思いつかないですね~」
「え? いや、別に美味しそうな名前じゃなくていいんじゃないか?」
「ええ~? 美味しそうな名前の方がよくありませんか? あ、そうだ! クッキーにしましょ~」
「混乱する! 別な名前にしてほしい!」
「んえ? そうですか? それじゃあ~~~……マフィンはどうですか~? スコーンでもいいですね~。あ、チョコチップのチップとかも美味しそうじゃありません?」
「そ、そうだな」
「い、いいんじゃないかな……」
二人の反応が超微妙。
しかし、アサシンローウルフが一つの名前を気に入ってくれた。
「スコーンがいいんですか~?じゃあ、スコーンにしましょうね。よろしくね、スコーン」
「クウーン」
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