第24話 ダンジョンデート?(2)


 ウォル家――長男の婚約。

 唇が震えて、思わず二人を見上げてしまう。

 不快感を隠しもしないエイリーが「つまり実力を示して、姫に相応しいとアピールするためだよ。そんなことのために王国騎士団まで動かすなんて、実に馬鹿馬鹿しい! エリアボスの討伐がどんなに危険か、わかっていないんじゃないか!?」と半ば叫ぶように同意を求めてくる。

 これまでナフィラの騎士団と兵団、さらに冒険者の上位パーティーが参加して綿密な作戦を立て、時間をかけて準備をして挑む。

 それでも被害者が二桁出てしまうのが、エリアボス戦。

 それをただの箔づけのために――。

 エイリーやホリーが不快そうに表情を歪めるのは、当たり前だろう。

 

「エリアを二つも解放したことで、自分たちにも簡単にできると考えられてしまったのだろうか?」

「だとしても父上が散々断りを入れたんだぞ! 国王陛下もなにをお考えなのか。自分の娘を嫁がせる男の力量を測りたいのか? だとしたら無謀だな! 巻き込まれる騎士団の騎士たちが哀れだ! それに、その騎士団を支援するためにナフィラが金やら食糧やら物資やらを無償で提供しなければならないんだぞ!? しかも、国王命令で! 今年はスタンピードも起こる可能性が少ないからいいかもしれないが、それでも備えは必要だ。そういう物まで寄越せと言ってくるんだぞ!? 毎年毎年、スタンピードが起こらなければ使わない物なのだからいいだろう、と……気分が悪い!」

 

 ナフィラと王国は仲が悪いんですか、とホリーに耳打ちして聞いてみると、ホリーも毎年補給物資を無償提供するのが面白くないのだと言う。

 しかも王国騎士は上位貴族の次男か末の者が集まっているため、辺境のナフィラ騎士団や兵団を非常に見下しているとか。

 理不尽な命令をしてきたり、斥候や荷物持ちを押しつけてきたり、町の中でも無銭飲食をしたりとやりたい放題だという。

 騎士団はそのように横暴に振る舞うが、王国魔法師団の方は研究熱心でエイリーと話が合う。

 エイリーとしても王国魔法師団の方は歓迎だか、騎士団はお呼びじゃない。

 

「あの振る舞い、とても貴族のものとは思えない。あんなのただの蛮族じゃないか! まだ冒険者の方がお上品だよ! フン!」

「そんなにえげつないんですか〜」

「毎年この時期は……そうだな。だが、せいぜい四日程度の滞在だ。その四日を乗り切れば、スタンピードの危険性は実際下がる。ナフィラの町の民も、その四日だけは事前に食糧を買い込んで家に引きこもっているな。店も……拠点や支部の中の店や、よほど誇り高い店主か、騎士団の振る舞いにも耐えられる店主の店以外は店を休んでいる」

「そ……そんなに……」

 

 それは、相当にヤバいのでは。

 思い出す、ティハの実家の家族。

 まさかあの態度、外でもあの振る舞いをしている?

 

(マジで……?)

 

 それはさすがにいかがなものだろう、とティハもドン引き。

 エイリーからは「あの選民思想の役立たずども」と不満が止まらない。

 同じ上位貴族でも、エイリーは自身も騎士や冒険者として前線に出ているからそう思うのだろう。

 魔物以下の存在と蔑まれていたティハは、それはもう自分が彼らの言う通りの価値しかないから仕方ないのだと思っていた。

 けれど、人の価値観は人の数だけあるのをホリーから教わった。

 その上で、今改めて実家の家族の話を聞くと彼らは外でも――ティハ以外にもそういう態度を取っているらしい。

 

(つまりあの人たちって、僕以外にもあんな態度だったんですか? ええ〜……なんでそんなことするんですかねぇ? 貴族ならなにしてもいいわけじゃないと思うんですけど……)

 

 少なくともエイリーはそんな貴族ではないし、ホリーだって他国とはいえ王族。

 王族のホリーがこんな自分に丁寧に大切に接してくれるのに。

 

「受け入れるのか? 今回の騎士団遠征も」

「国王陛下の命だからな。曰く『念には念を入れよ』とのことだよ。父上もエリアを二つも解放して浮かれているのは間違いないし、ここで気を引き締め直すのはいい機会かもしれないとか言うし。ま、蛮族どもの姿を見て我がふり直せと言いたいんだろうけれど、あの連中は浮かれてるんじゃなくて素で自分たち以外を見下しているんだよ!」

 

 見下している。

 その言葉に、目を見開く。

 その通りだと思う。

 

(でも僕は魔門眼アイゲートが機能してないから、見下されて蔑まれて嫌われてもしょーがないんですよね。そう思うてたんですけど……あの人たち僕みたいな役立たず以外にもあんな態度なんだったら……それは……)

 

 そういう人間たちなんだろう。

 けれど、少なくとも自分はそう言われても仕方なのない存在だ。

 両親兄姉、全員ティハをそう扱ったとしても魔門眼アイゲートが機能していないという立派な理由がある。

 ティハのことを知っている使用人たちを“処分”したのも彼らには、そういう権限があるからで――。

 

(でも、命は……)

 

 命をそんなふうに扱う権利が彼らにもあるというのだろうか?

 ナフィラではみんなが命を賭けて、守るために戦っているのに。

 

(あれ……?)

 

 頭が混乱してくる。

 自分の思考がぐちゃぐちゃになっていて、認識との差異でまとまらない。

 

「ウキー!」

「うわー!」

「ティハ、大丈夫だ。それはリトルコング。人を驚かすのが好きな猿型の魔物だ。人を驚かす以外には無害な魔物だよ」

「ん、んえええ……」

 

 突然木の上から現れた黄色い子猿。

 子猿かと思ったら、これが大人の姿らしい。

 肩に飛び乗ってきて「ウキキ!」と手を差し出す。

 

「んぇ? なんですか? お腹空いてるんですか〜?」

「ウキキ」

「ティハは食べ物の匂いがするから、呼び寄せてしまったのかもしれないね。このあたりの魔物は特になにか役に立つモノもいないが、愛玩用としてはいいんじゃないかな? 手懐けるかい?」

「えーと、まあ……クッキーくらいならあげますよ〜。お店用のはもうなくなっちゃいましたけど〜、自分で食べるおやつはあるんです〜」

 

 と、ポシェットから取り出したのは野菜クッキー。差し出すと、それはもう目を輝かせて受け取るリトルコング。

 大変に可愛い。

 

「んなはははは〜、可愛いですね〜」

「ティハの方が可愛い」

「リトルコングって従魔してなにか役に立つのかな? 誰も従魔にしているところを見たことないよね」

「リトルコングって進化とかするんですか〜?」

 

 魔物の中には進化するモノもいる。

 ティハのように体内の魔石が魔力を取り込み回復するタイプの魔物に多く、進化すると巨大化し、凶暴化するという。

 エリアボスのほとんどが、そうして巨大化し強力に進化したモノ。

 あるいは、異常進化したモノと言われている。


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