第34話 王国騎士団駐屯地
「見つけたぞ! エリアボスだ!」
「燃やし尽くせ! ぎゃははははは!」
「馬鹿! 火魔法以外を使え! その魔物は――クソ……! 聞いちゃいない……!」
「エイリー様! あまり近づくのは危険だ! 周辺の延焼を止めないと!」
「チッ……」
ナフィラ騎士がエイリーを王国騎士単から引き離す。
森を燃やし尽くし、引きずり出したエリアボスはドラゴンの姿をしたスライム。
粘液で形作られたスライムドラゴンは超大型。
翼を広げて、大型のスライムを広範囲に向けて吐き出して飛ばす。
王国騎士たちは一瞬怯んだが、リヴォルに「燃やせ!」という鶴の一声でスライムドラゴンへ大火力での一斉攻撃を始めた。
だがスライムドラゴンは火耐性ではなく火無効化。
喉を膨らませて、二度目のスライム吐き。
「ク、クソ! 火が効かない!」
「炎の壁を作って時間を稼げ! おい、田舎者ども! いい加減働け!」
「はあ!?」
リヴォルがエイリーを振り返り、スライムドラゴンを指差す。
どんどん増えていく巨大スライムがせっかく増やした炎を飲み込んで消化していく。
スライムは物理攻撃が効かない。
エリアボスのスライムドラゴンが吐くスライムは、火魔法も効かないようだ。
スライムの弱点は火魔法というのは常識。
それなのに、スライムドラゴンのスライムは火が効かないのでどうすればいいのかわからなくなったのだろう。
舌打ちするエイリー。
着実にスライムの数が増えている。
スライムドラゴンが吐いたスライムは燃える木々を飲み込みながら、分裂してさらに増えた。
あっという間にに囲まれていく。
「このままでは囲まれて全滅する! 一度駐屯地まで撤退する! 全員転移魔法準備!」
「おい! 勝手な指示を出すな!」
「全滅したいのか、この無能! これ以上騎士を消費すれば延長も断られることになるぞ! 言う通りにしろ!」
「っっっ」
エイリーが指示を出し、王国魔法師団の魔法師も増えつ受けるスライムに怯えてエイリーの指示に従い魔法陣を展開した。
今まで順調にスライム退治をしてきたのに、急に通用しなくたなったことで臨機応変な対応ができなかったと見える。
本来なら指揮する者――リヴォルが騎士たちを落ち着かせて適切に指示するべきなのだが、残念ながらあのアホにその能力はなかった。
強行軍は、これだからよくないと言っていたというのに。
エイリーの指示を優先したため、王国騎士団も魔法師団もナフィラの冒険者、兵士、騎士団も一時王国騎士団の駐屯地まで転移魔法で引き返した。
「エイリー!?」
「ホリー!?」
町に帰したホリーが真後ろから現れて、驚くエイリー。
だが、その時に駐屯地の異様さに気がつく。
駐屯地中をか細い魔法陣が包み込み、転移魔法を使った魔法師団へと魔力供給した。
これが王国騎士団の魔力の正体――。
「エイリー、この魔法陣はなんのものだかわかるか?」
「大きすぎて全体像が掴めない。ただ、これにより王国騎士団が潤沢な魔力を使っていたのだろうと予測はできるな。それよりホリー、どうしてここにいる? ここは王国騎士団の駐屯地だぞ?」
「スコーンに案内されて来たんだ。ここにティハがいると」
「…………」
エイリーが険しい表情で沈黙し、周囲を見回す。
テントに隠れ、魔法陣の全体像は掴めない。
だが、立ち上がった王国騎士や魔法師の間から怒りで顔を真っ赤にさせたリヴォルが近づいてくるのを見てホリーに「詳しい話はやつに聞こう」と呟く。
「この田舎者! どうして全員で我らの駐屯地に飛んできた! お前たちはなんとか開発拠点に飛べばよかっただろう!」
「バーカ! 転移魔法は空間に流れる魔力の流れが混線しては失敗してしまうんだ! そんなことも知らないで魔法騎士を名乗っているのか!?」
「ぐぎぎ……!」
うんうん、と王国魔法師団の魔法師たちまで頷いてエイリーの言うことを肯定する。
魔法陣が設置してあるわけではない転移魔法を使う時に、目的地をバラバラにするのは自殺行為。
複数人で同時に転移魔法で逃げる場合、同じ場所に逃げるのは鉄則だ。
「そんなことより、この駐屯地中に拡がる魔法陣はいったいなんだ? 赤い光を灯しているということは――血を用いているな? まさか人の血ではないだろうな?」
「がううう!」
「黙れ! 田舎者には関係ない! さっさと帰れ!」
「そうはいかない! この従魔は我らの町の住人が従えているモノ。その従魔がこの駐屯地にやって来たということがどういうことなのか――魔法に携わる者ならわからないわけがないだろう? そして、私はこのナフィラの領主の息子! 領民を傷つけられて黙っているような男ではない!」
話を聞いていた冒険者や、ナフィラ兵士、騎士もその言葉で顔つきを変える。
毎年横暴な振る舞いをしてきた王国騎士団には、腹に据えかねていたのだ。
今回は二週間も遠征を延長して町にも多大な迷惑をかけている。
その上、町の“仲間”に手を出したとなれば、結束力の強いナフィラの者は黙っていられるわけがない。
武器を持ち、殺気を放ち王国騎士団を睨みつける。
ホリーもスコーンから降りて、背の大剣を引き抜く。
後ろの仲間の姿に、エイリーが王国騎士団とリヴォルを睨みながら「彼らもな」とつけ加えた。
これは脅しだ。
おとなしく魔法陣の秘密を話し、ナフィラの民を返さなければこの場で武力による制圧も辞さない――と。
そんなことをすればナフィラは王国に牙を向いたと捉えられても不思議ではないが、王国側はナフィラに対して再三の断りを捩じ伏せて王国騎士団を派遣強行した件で詰められる。
リヴォルも国境を守る盾であるナフィラとの関係悪化を理由に、第四姫との婚約話を破棄にされかねない。
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