第14話 休日(1)


「エイリー様、実際どうですか? 僕が魔力を込めた野菜を使った料理」

「そうだな……感想としては『微々たるもの』という感じだ。回復している実感はわずかにあるが、これが明日の朝、睡眠で魔力回復したあとどうなるのか興味があるな」

魔力器マジックべセルズの未使用部分を拡張されている感じは?」

「さすがにそういう感覚はわからない。ギャビック・ピーマンボスと戦ったあとで魔力はほとんどない状態だからな。明日の朝にならないと。っていうわけで今日泊まっていいよね?」

「ええ……? 仕方ないな……」

 

 泊まるんだぁ、とやはり警戒心が先に来る。

 まあ、仕方ないけれど。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌朝も魔力を込めた野菜で食事を作り、テーブルに並べていく。

 エイリーはホリーの部屋の隣の客室に泊まり、ホリーと一緒に階段を下りてきた。

 

「いい匂いだね。朝起きたらすぐにこんなに美味しい朝食を食べられるなんて、君は今ナフィラで一番幸せな男なんじゃないか?」

「ま、まあ、そうかもな」

「おはようございます~。フレンチトーストとマッシュポテトサラダ、スクランブルエッグにしてみました~」

「…………好きだ。結婚してほしい……」

「んなはははは、ホリーさん今日も朝に弱いですね~。お顔洗ってきてくださいね~」

「ええ……」

 

 華麗に流されて終わる、ティハとホリーの朝の定番になりつつやり取りにエイリーが引いている。

 エイリーの想像以上に全然本気にされていない。

 言われた通りに顔を洗って身支度を整えたあと、さっそくホカホカの食事を摂る三人。

 

「――やはり、未使用部分を拡張されている」

魔力器マジックべセルズか?」

「ああ、この感覚は魔力器マジックべセルズの未使用部の開放がされた時の感覚だ。素晴らしい……! やはり私の推測は間違っていなかった! これは革命だぞ、ティハ!」

「んえ? あ、そうなんですか~。よかったですね~」

「ものすごく他人事だね!? 昨日言っていた君の自立の大いなる助けになりそうなのに!」

「そう言われても、よくわかんないですよ~。野菜に効果があるのはわかりましたけど、小麦粉は今から試しますから~。小麦粉はなんていうか……”的”としては小さいじゃないですか? 魔力が籠るかわかんないですよ」

「な……なるほど!? 質量が関係するかもしれないという子とか! くう、それは考えていなかった!」

 

 ティハが魔力を込めやすいもの。

 的として大きなものが好ましい。

 キャベツや、ジャガイモ、カボチャやニンジン、玉ネギなど。

 小麦粉は試したことがない。

 粉なので。

 

「でも、今日の”的”として試してみるつもりですよ~。お二人は今日、どこに行くんですか~?」

「今日は休みなんだ。大型の魔物――エリアボスを討伐したばかりだからな。今日から三日ほどは後始末とエリア浄化、駐屯地の設置などでナフィラ騎士団が出張して整備するんだ」

「おやすみなんですね~」

 

 まあ、毎日ダンジョンに籠って魔物と戦ってばかりなのも精神的によろしくないだろう。

 そういう日があってもいいと思う。

北大森林迷宮ナフィラダンジョン』はそうやって、エリアボスを討伐して人間の住める領域を増やしていく。

 奪ったエリアは調査を入念にしたあと浄化を行い、ナフィラ騎士団の駐屯地――前線基地にして次のエリアへの調査を開始。

 ある程度情報が得られたあと、冒険者に情報提供がされて冒険者による探索が開始する。

 そしてエリアボスが発見されたら、冒険者とナフィラ領兵団、騎士団でエリアボス攻略作戦が立案・実行され、エリアの奪取が行われるのだ。

 その繰り返し。

 そうして、ゆっくりとだが確実に人類未踏の北大森林迷宮ナフィラダンジョンを開拓していく。

 現在は第三開発拠点まで展開されており、今回手に入れたエリアも第三開発拠点の一部にされる予定だという。

 さらに第一開発拠点は今、村が建設中。

 領主の息子であるはずのエイリーは、そういう方面でも忙しいはずなのに、彼も今日はしっかり休むつもりらしい。

 

「ま、長男ではあるけれど弟や妹もいるから休める時にしっかり休んで今日はティハの魔力を流すところを観察……いや、魔力底上げクッキーの試作品をぜひ食べさせてもらいたい」

「あ、はあ……」

「おい、エイリー」

「今日一日くらいいいだろう? デートなら明日すればいい」

「デッ……!」

 

 ああ、そろそろ調味料などが切れ始めている。

 魚醤や干し魚など新しい素材にも興味があるので、ホリーに提案してみたい。

 本屋でレシピ本なども探してみたいし、肌着を買い足したいとも思った。

 しかし、やはりら自分で自由にするお金がほしい。

 魔力底上げクッキーができるとそういうお金が手に入る。

 上手くいけばいいなぁ、と空になったお皿を流しに持っていく。

 じんわりと胸に重苦しい熱が広がってきた。

 魔力が溜まりすぎて、肉体を圧迫し始めている。

 エイリーが持ってきた三十キロの小麦粉袋を掴むが、ティハの細腕ではリビングに持っていくのが難しい。

 

「持とう。リビングのテーブル横で大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます〜」

 

 ホリーが気を利かせて持ってくれる。

 なんとも軽々片手でヒョイ、と。

 50センチ近く背が違うから、毎回見上げてしまうのだが、それにしても同じ性別でこうも違うというのは男としてたまにへこむ。

 にっこり微笑んでお礼を言うと、顔を赤くして背けられる。

 リビングのソファーに腰掛けて、小麦粉袋に擬似魔門を向け、魔力を注ぎ始めた。

 洗い物はエイリーとホリーが食べ終わってからやればいい。

 ゆっくりとじわじわ魔力を小麦粉袋に注ぐ。

 入っていくかどうかはわからないが、的さえあれば魔力を排出すること自体はできるから。

 

「一応魔力は蓄積しているようだな」

「んぇ〜? エイリー様、わかるんですか〜?」

「もちろん。魔法師は魔力を視認できるようにするところから修行が始まるからね」

「へぇ〜〜〜」

 

 魔法師についてはよくわからないことが多いが、さすがは魔法のプロフェッショナル。

 魔力を視認できるもんなのか。



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