第6話 冒険者拠点本部(1)


「ここが南大通り。特に人通りが多く、門衛棟までの左右の道は商業通りになっている。必要なものはだいたいこの辺りで手に入るから、今度従魔首輪を見に来よう」

「はあ~~~」

 

 きょろきょろしているせいで、ちょいちょい人にぶつかりそうになり、その都度ホリーがティハを抱き寄せて守ってくれる。

 完全にお上りさん丸出しだ。

 そうして庇われながら進み、いよいよ城が目の前に見えてきた。

 城門の近くは水路が通り、大きな跳ね橋が降りて大勢の通行人がそこを通って行き来している。

 大通りより様相が違うのは、行き来する人の装いだろうか。

 市民というより冒険者が多いように見える。

 

「こちらも広いから気をつけて。こっちだ。門衛棟に入ってすぐに左のところにある、大きな黒い扉。あそこが冒険者拠点の本部だ」

「デッカ〜いですねぇ〜」

「中も広いぞ」

 

 手を引かれたまま中へと入ると、天井も高く人も多い。

 忙しなく走り回る事務員と、行列を捌く受付。

 巨大な浮かぶ掲示板には、依頼書がびっしり。

 

「あっちは冒険者用の受付窓口。身分証は住民窓口だからこちらだ」

「空いてますね」

「基本的に冒険者の施設だからな。正式な身分証の発行は領主館の文官が審査して行う。そして正式な身分証の前にここで仮の身分証を発行してもらうだ。まずはこの町の市民としてどのように貢献できるのか実績を積み、働きを見せなければならない」

「んぇ〜」

 

 自信ない〜、と肩を落とすが、この町の住民になるにはそうするしか方法がない。

 ので、やらねばならない。

 肩を落としつつとぼとぼ受付窓口に向かうと、暇そうだった年配女性が別の暇そうな窓口から移動してきて対応してくれた。

 

「ご用件はぁ?」

「あの……ええと……身分証? がほしいんですけど〜」

「はいはい。ここのカードに名前書いてねぇ」

 

 と長方形のカードを差し出され、青いインクと万年筆を差し出された。

 文字が書けないティハは、固まる。

 

「もしかして文字が書けないかしら?」

「は、はひ」

「あー、ちょっと待ってねぇ。名前は?」

「ティハといいます〜」

「ティハくんねぇ。……はい、これをなぞって書いて」

「ほぁ〜。ありがとうございます〜」

 

 半透明な紙にティハ、と名前を書いて手渡された。

 それをカードの上に置いて、万年筆にインクを染み込ませてなぞるだけでいいらしい。

 

「文字の書けない平民は多いからねぇ。気にしなくていいわよー。こちとら仕事だしぃ。はい、オッケーね。ふむ、色が変わらないってことは犯歴もないのね。いいわよー。はいこれ、仮身分証。出かける時は腕輪にでもして身につけておくようにねぇ」

「腕輪……?」

「あー、身分証はこうやって左右を引っ張ると――」

 

 と、受付おばさんが身分証のカードを左右から引っ張ると、ぽん、と細長い金の腕輪に変化した。

 わあ、と間抜けな声を出して驚いてしまう。

 

「身分証はこうして腕輪にして身につければいいのよ。失くさなくておすすめ。元に戻す時は腕輪をこう、左右から押し込むようにすると――ほら、元に戻るでしょ」

「うわぁ〜」

「ちなみにこの身分証の端、四箇所に魔石片が使われていてねぇ、犯罪や不正は記録れるからぁ。冒険者として魔物を討伐したりぃ、なにか商売してもその実績が記録されるわよぉ。記録しかできないけど、結構ガチガチに記録されるから気ぃ抜かないようにねぇ」

「そうなんですね〜……ありがとうございます」

 

 再び腕輪にしてもらい、左手首につけるとするん、とサイズがぴったりになった。

 魔石道具の一種なのだろう。

 身分証を受け取ってからホリーのところへ戻って、腕を見せる。

 

「身分証作れました〜」

「ああ、これでティハもナフィラの一市民だ。仮、だけどな。ティハならすぐに実績を積んで市民になれるさ」

「がんばります〜」

「可愛い」

「んぇ?」

「いや、なんでも」

 

 なにかボソリと聞こえたが、腕輪を眺めていてよく聞こえなかった。

 わざとらしい咳き込みのあと、ホリーは二階への階段を指差す。

 手を握られて、階段を上ると食堂といくつかの部屋、吹き抜けを挟んだ反対側は売店が並ぶ。

 二階の面積半分が食堂と売店のようだ。

 建物の真ん中が吹き抜けになっており、螺旋階段がさらに上へ続いている構造。

 

「この上は……」

「三階より上は職員の寮などだと聞いている。まあ、用がないから行く必要もない」

「そうなんですね~」

「そうだ、腹は減っているか? 食堂に寄って行ってもいいが……」

「うーん……ううん。僕はお腹減ってないです。ホリーさん、お腹減ってたら食べてきてもいいですよ~」

「そうか?」

 

 笑顔でやんわりお断りしたが、なぜか心配そうな目で見られた。

 首を傾げると「元気がなさそうに見える」と言われて少し驚く。

 

「んぇ……ああ……ええと……魔門眼アイゲートが機能してないんで、体に魔力が溜まって怠いんです。いつもお昼ご飯作ってる時間ですからねぇ~……そのせいですかねぇ~……」

「そうか、疑似魔門で魔力を排出する時間だったんだな。ううん……困ったな。売店に魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具など売ってないだろうか?」

「んぇ~~~? そんなもんあるんですかぁ?」

「まあ、一応? 聞いてみるだけでも?」

 

 そんな便利なアイテム絶対ないだろう、と思いながらも手を引かれて売店の方へ行く。

 カウンターの中にいたおじさんに「よお、ホリーさん」と挨拶された。

 

「珍しいね、本部の売店に来るのは。なにかお求めかね?」

魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具など売ってないだろうか?」

魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具ぅ? なんだそりゃあ? そういうのは医者に聞いた方がいいんじゃないかい?」

「ううん……やっぱりそうか……」

「あれ、ホリーじゃん。珍しいな、お前が本部にいるの。新装備の作製依頼にでも来たのか?」



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