第8話 冒険者拠点本部(3)


(き、貴族の人も色々いるのかなぁ? それとも、やっぱり僕をなにかに使うつもりなのかな? 研究してる人って言ってたから僕になにか使い道があるんですかねぇ?)

 

 自分がなにか使い道があるのなら、使ってもらって有用性があると示した方がすぐに殺されないかもしれない。

 という結論を出してパッとエイリーを見上げる。

 

「はい! やってみます~!」

「オッケー! 今買ってくるね!」

 

 ルンルンで三階に戻り、三冊の魔法書を買って戻ってくるエイリー。

 三階は職員の寮部屋と聞いていたが、魔法師のための魔法書専門店があるらしい。

 魔法書の「これとこれとこれとこれを」とリクエストされるが、覚えきれないので紙に書いてもらう。

 

「それで、これをティハに作ってもらって本部始め、各支部の売店に置いてもらえないかと思ってな」

「それはいい考えだね!」

「『体力回復効果付与』のクッキーを食べたあとなら、ポーションを飲んで衰弱死する心配もなくなる」

「ハッ!! そうじゃん! そうか、そういう使い方もできるのか!」

「『防御力上昇効果付与』で落ちる攻撃力もカバーできるのではないか?」

「天才か!? これは今までの魔法の常識を覆すかもしれない!」

 

 ティハは首を傾げ、頭に「?」を浮かべるしかない。

 目を輝かせるエイリーは、クッキーを取り出すと、『体力回復効果付与』のクッキー効果が切れていないのに食べ始める。

 まあ、普通のアイシングクッキーとしても美味しいと思うので、お腹が空いていたのかもしれない。

 

「――やはり! 魔法と違って複数効果が同時に発動している! 素晴らしい!」

「本当か!?」

「『体力回復効果付与』『防御力上昇効果付与』『体力上昇効果付与』のクッキーしかないのかい?」

「んぇ? は、はい。僕、この三種類しか作ったことがなくて……」

「ぜひ色んな魔方陣で作ってみてほしい!!」

「んぇっ!」

 

 手を握られ、顔を近づけられて背中を変な汗が流れる。

 が、ホリーがその手を引きはがす。

 

「ティハは俺の命の恩人だからな!」

「え? 急になんだ? わかったわかった?」

「……は、はあ……」

「ティハ?」

 

 俯いて深く息を吐き出す。

 胸が重苦しい。

 ホリーに優しく肩を掴まれて、なんとか笑顔を浮かべられる。

 

「あ、えーと……魔力が溜まっちゃってるんで……ちょっと苦しくなってきてて……」

「そうか。料理をしないと排出ができないんだったな」

「料理じゃなくても、魔力を送る対象があれば……」

「ああ、魔門眼アイゲートが機能していない体質なんだったな。疑似魔門を作ると少し排出できるんだったか? それなら私の魔石装飾品に魔力をチャージしてくれないか? ほら、こっちに座って」

「んぇ……」

 

 食堂の方に連れていかれ、席に座らせられると指輪を渡される。

 曇りのない美しい紫色の魔石が嵌った指輪だ。

 魔石は定期的に魔力を供給しないと、自然魔力に分解されて消えてしまう。

 指をわっかにして疑似魔門を作り、その魔石に魔力を送る。

 ゆっくり自分の中に溜まった魔力が体から動く。

 

「は、はあ……はあ……」

「疑似魔門ではこの程度の魔力しか排出できないのか。これはつらいな。効率が悪すぎる」

「エイリー、ティハはアイシングクッキーを作る時に指を丸くするから、それでクッキーに描く魔方陣に魔力が込められるんだろう」

「なるほどな。普通の人間は魔門眼アイゲートが機能しているから少量をゆっくりと流し込むには向かない。魔門眼アイゲートでこの少量でゆっくりとした魔力の抽出は、相当に熟練度が必要だ。そんなことができる魔法師は、クッキー作りよりも魔法の研究や神髄の追及を行うだろうし……この魔法付与のクッキーはティハくんにしか作れないかもしれないな」

「そうなのか!」

「少し楽になりました~」

 

 まだまだ体は気怠いが、それはいつものこと。

 立って歩いて話すのに問題ない程度に体から魔力が排出できた。

 

「……ふむ、魔石の魔力が満タンになっているな。ありがとう。だが、まだ顔色はよくないように見えるが」

「え、ええと……はい、まあ。でも、クッキーを作っている方が体外に魔力を排出できるので……」

「そうなのか。では君にもこのアイシングクッキーは利益になるんだね。いや、むしろ生命線かな? クッキーの研究もさせてもらいたいし、城の厨房を貸すからクッキーを作ってくれないか?」

「え、あ、でも、材料が……」

「こちらから出そう。お金での支給と現物支給、どっちがいい?」

 

 城で、というところに体が強張る。

 貴族がたくさん働くこの城から、できれば早く出たい。

 俯いてしまうと、なにかを感じたのかホリーが「ティハはしばらく俺の家に居候させて、休ませたい。長旅だったようだからな」と庇ってくれる。

 

「そうか、配慮が足りなくてすまない。詳しい事情は聞かないでおくよ、この町に来るのは訳アリが多いからね」

「ん、んえ……んぇ……あ、あう……」

「今日のところは俺の家についてきてもらう。クッキーは後日まとめて作って渡しに来ればいいだろう?」

「そうだな、ではマリーを支給しよう。二万マリーで足りるか?」

「そ、そんなにもらっていいんですか?」

「もちろん! 非常に興味深いからね! むしろ足りなければ言ってほしい。とにかく、サンプルがほしいからね! 渡した魔法書で、作れそうな魔法陣は全部作って持ってきてほしい! 全部買い取るよ! そうだな、一枚につき千マリーでどうかな?」

「んえええええ!? い、一枚千マリー!?」

 

 それはぼったくりすぎなのでは!?

 高額買い取りすぎる、と目を見開くが、ウキウキのエイリーは「もちろんだよ! 君のアイシングクッキーはこの町の在り方を変えるかもしれないからね!」とのこと。

 ホリーにも「お金を貯めるんだろう? 家を借りるために」と肩を叩く。

 確かに。自立するためにもお金は必要だ。

 けれどいいんだろうか?

 金銭感覚にまだ自信はないけれど、これが破格の報酬であることはわかる。

 

「い、いいんでしょうか~?」

「技術には相応の報酬は当然だよ。頑張っていっぱい作っておくれ!」

「えっと…………わかりました~。が、がんばりますぅ~」



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