第18話 こんなところで試食会(1)
「魔力が増えるのか? 食べるだけで? 本当に?」
「画期的なアイテムじゃないか! それに美味い!」
「俺、これ知ってるよ! 最近拠点本部にも魔法菓子が売っているんだ。『体力回復効果付与』『攻撃力上昇効果付与』『防御力上昇効果付与』『素早さ上昇効果付与』『魔力回復効果付与』の五枚セットで、特にポーションを使った時の体力減少をカバーしてくれるんだ。すごく便利なんだよ! 『体力回復効果付与』だけのセットはないのか聞いてみたんだが、『そういう要望は職人に伝えておく』としか言われてなくて……もしかして、そこの小さな子が魔法菓子の職人さんなのか? これはその新商品?」
エイリー並みによく話す騎士が、笑顔で近づいてくる。
なぜか握手を求められて、思わず応じてしまう。
「この『体力回復効果付与』のクッキーのおかげで仲間にポーションを連続で飲ませることができて、助かったんだ! 作った菓子職人に出会えたら直接お礼を言いたいって言っていた。いつか騎士宿舎に会いに来てください。モーリスという騎士です。本当にありがとう! あなたのおかげでこれからはポーションに頼ることができる」
「待て待て、俺もお礼を言いたい!」
「ん、んえぇ?」
今度はなんだ、と身を引くティハ。
今度近づいてきたのは見るからに文科系の人。
戦う職業の人には見えない。
丸い眼鏡をかけたその男も、ティハに握手を求めてきた。
「私は錬金術師なのですが、ポーションを作っています。人の助けになればとポーション作りをしているのですが、ポーションは即効性があるものの体力をごっそりと持って行って衰弱死に至らせる危険性がありました。これを改善する研究は王宮でも続けられていますが、私も長年それを研究し、ポーションを改良し続けていたんです。あなたはこの問題を、クッキーに魔方陣を描くという形で解決してくださった。そこでどうでしょう! これからのポーションとあなたのクッキーをセットで売ってみては! ぜひ私の工房のポーションと契約を――」
「リーサン、いいこと言っている風で抜け駆けしようとするんではないよ。そういうのは領主である父に話を通してからにしてもらおうか」
「……残念」
本当に、途中まではイイハナシダナーと思ったのに。
「つまりこのクッキーを食べると
「訓練に比べて非常に微々たる拡張なのだ。だからこそ痛みがない。訓練で激痛を味わいながら拡張していくよりも、朝に子の魔力底上げクッキーを食べ続けていく方が効率的に感じるね、私は」
「その話、詳しく聞かせてくれ!」
「食べるだけで
どんどん人が集まっていく。
特に食いつきがいいのは魔法師だろう。
集まってくる者たちにエイリーがクッキーの説明を行ってくれた。
初めてティハのクッキーのことを知った者も多く、クッキーにいくら出せるか、という話になると「毎日食べるならできるだけ安い方がいいな」「まとめ買いができるようにしてほしい」「大量購入か、定期購入で少し安くしてくれるなら購入する」などなど、色々感想をくれる。
なるほど、と感心した。
エイリーの言う通りになっている。
「試供品とかはないんですか?」
「おいおい、いくら微々たるものと言っても
「魔法師からすると確かにそのくらいの価格でも安いと感じるな」
「いやいや、前衛からすると一枚五百マリーは高すぎる」
あと、彼らの話を聞きながらティハが思うのは彼らの言い分をどうしても叶えてあげられない要因――賞味期限と消費期限。
食べ物なのでどうしても長期保存は好ましくない。
それは魔力底上げクッキーだけでなく魔法付与したアイシングクッキーも同様である。
「あ、あのぉ〜」
「どうした、ティハ」
「あ、あの、あの……食べ物なので、あんまり日持ちしないです〜。クッキーは他のお菓子に比べて焼き菓子なので、ケーキとかよりはよっぽど日持ちしやすいんですけど……でもやっぱり何ヶ月もっていうのは無理ですね〜。美味しくなくなっちゃいますよ〜。魔力を込めても抜けちゃうんじゃないんですかねぇ〜」
魔力というのは循環するものだ。
ティハも魔力を排出しなければならないし、望まずとも回復する。
物質であれば停滞した魔力は自然魔力に戻っていくはず。
それを言うと、全員が思い出したように「あ」という顔になる。
お気づきになられたようでなにより。
「そ、それもそうか。消費期限……そこまで調べてないな」
「この大きさでは一ヶ月程度で抜けてしまうだろうな」
「ちなみに食べすぎるとさすがに痛みは感じたよ。だいたい二十枚くらいでチクっと」
「そんなに毎日食べてたら太っちゃいますよぉ〜。クッキーって結構バターや砂糖をふんだんに使いますからね〜? いくら運動する人でも毎日二十枚は多すぎです〜。健康にもよくないですよ〜」
つまり、魔力を含んだ野菜たっぷりの料理がある意味一番安全で健康的で美味しく無理なく摂取できる、ということ。
その恩恵を一人で受けられるホリーは、この一ヶ月で飛躍的に
とはいえ、それを他人にも提供するにはティハの時間が足りなくなる。
毎日三時間は魔力を込めなければならない上、すぐに体調を崩しがちになるティハに食堂を開くなんて不可能だ。
やはり量産が可能なクッキーを売るのが一番確実で手っ取り早い。
しかし、クッキーはカロリーの高い部類のお菓子。
食べ過ぎは肥満のもとだ。
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