第4話 ヒューゴ、幸せのおすそ分けをする側になる

 えっ、俺ってこんな幸せで良いの!? 今、俺はレピペタゲーム本編のシナリオ終了後の世界にいる。なんやかんやあって、想定外なカップルが成立しちゃったけど、みんな幸せに過ごしているからハッピーエンドだ。


 アルバートとブライアンは、結局アルバートの即位前にブライアンが二人の間の第一子を産んだ。即位したアルバートが第二子――って言って良いのか分かんないけど二人の間では二人目の子供――を妊娠中だ。

 ブライアンはアルバートに対してのポジションチェンジについて、俺に不満だとぼやくことがあったから「そんなに抱かれるのが良かったの?」って聞いたら黙っちゃった。良かったんだ……。へぇ。

 今度、こっそりとアルバートに教えてあげよっと。なんて思ったのはブライアンには秘密だ。


 ショーンとジェスローも、ちゃんと周囲に祝福されて結婚式を挙げた。ジェスローの努力の賜だ。ジェスローは過激なところはあるけど、だいぶ落ち着いたように――表向きは――見える。

 裏側で何があったか? それは、気にしたら負けだ。因みに、ジェスローにこっそりと確認したら、らしい。ありがとうございます。受けちゃんっぽくなかったショーンをネコちゃんにしてしまうとは、さすがジェスロー。

 そっかぁ。きっと、ゲーム本編内でのジェスユーみたいな感じになってるんだろうな。俺が勝手に脳内で腐男子の妄想をしていると、ジェスローがじいっと俺の妄想を見透かすように見つめてきた。

 ちょっとだけ怖かった。




 弊社は主人公が誰かと幸せを掴むところまでしか作っていないから、こんな未来があったんだな、って感慨深い気持ちにさせられる。

 そして今。俺は、なんと――挙式中だった。


 順調に式は進んでいて、夫婦の愛の誓いをする場面になっている。

 愛の誓いは逆鱗が生える位置、鎖骨への口づけだ。これは逆鱗があってもなくても変わらない、この国の文化だ。

 自分たちの原初の存在に誓いをするという意味で、そして愛をつまびらかにするそれへの敬意として、鎖骨にキスをする。


 ユーゴにキスされた逆鱗がじんわりと熱を持った。俺もお返しに、と自分色に染まったユーゴの逆鱗に唇で触れる。こそばゆいな、とか思いながら顔を上げれば、照れくさそうに笑うユーゴの顔が見えた。

 あ、同じ気持ちだ。何の疑問も思わずにそう思う。俺は嬉しくなって笑んだ。


「誓い終わったら、正面向く」

「あ、ごめん」


 前世で言う牧師役みたいなのをしてくれているアルバートの言葉で慌てて前に向き直る。ローブ姿の彼の腹部はほんのりと膨らんでいる。あと何ヶ月で生まれるんだったかな。意識しなければそんなに目立たないが、着実に育っている命を感じて温かな気持ちになる。


「君たちに、これからも一族の祝福があらんことを。ユーゴ、手間がかかるだろうが、ヒューイを頼む」

「ちょっと一言余計じゃないか!?」


 ぽそぽそと付け足したアルバートに俺が小声で突っ込めば、アルバートはにやりと笑った。


「ヒューイ、今後はひと様をたぶらかしては駄目だからな」

「誰が傾国の美女だっ!」

「ははは、ヒューイは人が良いから傾国させられないだろう」


 徐々に大きくなる声に、隣のユーゴが「しー」してくる。ごめん。どうして俺ってば、こう!


「とにかく、おめでとう。ギルドレイク王国は、君たちの婚姻を祝福する」


 アルバートはそう言って、俺とユーゴの頭にそれぞれ花冠を置いた。




 挙式って、すごい。

 俺が公爵家の嫡男だっていうのもあるんだけど、披露宴の招待客が半端ない。俺とユーゴは二人で大量の招待客に挨拶周りをしていた。その中には、アルバートのパートナー探しで一時的に一緒に生活していた人間もいる。

 あいつら、元気にしてたかな。解散直後は時々連絡を取っていたんだけど、家業の手伝い兼思い出作りとしてあちこちユーゴと歩き回ってる内に、段々連絡取らなくなってしまってたんだよな。


 ようやく彼らのテーブル群にたどり着けば、何人かは新しいパートナーと一緒に、何人かは内輪でくっついたらしく仲睦まじげにしていた。うん幸せそうで何よりだ。


「元気そうで良かったよ」

「結婚まで、ずいぶん時間かかったな?」

「ん?」


 俺が首を傾げると、ユーゴが苦笑する。


「俺たちがすぐに結婚できると思っていたなら、全然ヒューイを理解してない証拠だよ。彼の鈍さを甘く見ちゃいけないんだ」

「いや、だって解散する時には恋人になってたんだよな? 婚約したくらいだし。それがなんでこんなに時間かかったんだよ」


 全員の視線が俺に向く。居心地が悪くなった俺はゆっくりを視線を逸らす。完全に俺のせいです。自覚がなくって、自覚が生まれるまで待ってもらってたんです。でも、その内に一緒に過ごすのが楽しくなっちゃって、普通に恋人生活楽しんでました――ら、何年も経っちゃった。

 一応、反省はしてる。けど、一緒に楽しんでたユーゴに責任がないとは、言わせないぞ。


「おおむね俺のせいだけど、俺だけのせいじゃないからな」

「二人の時間を大切にしただけだからなぁ」


 そっと肩を抱き寄せてくるユーゴに、俺は身を任せる。俺、本当に幸せだ。ここ数年、ユーゴと一緒に国内外を飛び回った。もちろんそれは仕事が主な目的だったけど、ユーゴとの思い出がたくさんできたのも確かだ。


「爵位が受けられる状態じゃなかった、っていうのも大きくってさぁ」

「あー、分かる」

「そうだよな、ヒューイだし」

「商品、ちゃんと売れるようになったのか?」

「おい、あと一ヶ月もしない内に公爵様になる俺に対してずいぶん酷い言いようだなっ!?」

「ははっ」


 ギルドレイク王国は、嫡子の結婚を機に爵位の継承を行うことが多い。経験値の少ない俺が結婚するには、時間が必要だったという実情もあった 。残念ながら、公私共に結婚できる状態じゃなかったのだ。からかわれて当然だ。

 俺もそうやってからかってくれるのが嬉しいから、このままの距離感でいたい。


「まあ、いーいけどさ。本当のことだし。そんなことより、食事とか楽しんでいってくれよな。あと、結構良い感じにいっぱい来てくれてるから人脈とか、頑張れ」

「相変わらず聖人君主だなぁ」

「だから、あんなホイホイだったんだな」

「ホイホイって言うな!」


 わちゃわちゃと彼らと話をしていると楽しい。俺が笑っていると、ふいにその中の一人が言った。


「でもさ、ヒューイが幸せそうで良かったよ。幸せのおすそ分け、ありがとな」

「!」


 俺、幸せのおすそ分け、できるようになったんだ。俺が驚いて目を見開くと、俺のことをぎゅっと抱きしめたユーゴが言った。


「だって、俺が大切にしてるんだ。当たり前だろ? 俺とヒューイ、前世からずっと想いあってたんだよ、


 あーもうっ! 俺は悔しくなってユーゴの手を軽くつねってやった。でも、嬉しそうに笑むから、俺の負けで良いや。

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