第4話 何もイベントが起きてないぞ!?

 いったいどうなってる!?

 これは、ここ数日を過ごした俺の感想である。ユーゴがアルバートと急接近する階段転落も、ユーゴがブライアンと急接近する噴水イベントも、ユーゴがショーンと急接近する図書館の梯子落下イベントも、ユーゴがジェスローと急接近するこっそり断罪イベントも、もちろんユーゴと俺が急接近する閉じこまれイベントも起きてない!

 まあ、最後のは俺が故意に避けているから当然と言えば当然だな。とにかく、レピペタ本編の重要なイベントが、ひとつも起きていないのは異常だ。


 だって、ここはレピペタの世界だ。ユーゴの為に作られた世界だ。つまり、ユーゴが誰かと幸せになる物語になるはずの世界。攻略対象キャラの誰かとのルートに入って幸せになるべきなのだ。ただし俺以外の。

 ユーゴは素晴らしい子だ――と、思う。少なくとも、本編のシナリオから逸脱しない限り!


 問題が起きている主人公のユーゴだけど、こっちは……なんかすごく平和に過ごしてる。ジェスローの出鼻をくじいちゃったせいで、ジェスローはユーゴのことを虐めないし。周囲もなんかまともな感じにジェスローを扱うから、すっかり彼は大人しくなってしまった。

 時々ヤンデレの顔が出てくるけど、悪役令息というところまではいかない。何だか不完全燃焼って感じだ。


 基本的にジェスローが暴れなければユーゴは平和に過ごせる。だから本当にユーゴは平和な日々を過ごしているのだった。

 実際に会話をすることもあるけど、ユーゴは良い子だ。時々年長者の気配がするのを除けば。なーんか、俺の知ってるユーゴと違うんだよな。元のキャラよりも穏やかっていうか、過ごしやすいっていうか。でも、これくらいの変化はあっても当然なのかもしれない。

 だって、みんなちょっとずつ変だもん。まあ、変なの筆頭は転生者である俺なんだけど。


 話してみて分かったこと。ユーゴは、どうやらアルバートを狙っていなさそうだということ。かと言って他の攻略キャラと仲良くしている感じもないし、俺とのイベントが起きたりもしない。

 イベントが起きないように俺が避けてるってのが要素として大きいものの、ユーゴがそれを狙っているような気配も感じない。


 もしや、これは……アルバートのパートナー探し含めて、難航してる!?


 うん。これは、もう……第二回ユーゴをみんなにアピールする会議をするしかない。それで、ユーゴに幸せになってもらわないと! ついでにアルバートの婚活も!

 ユーゴとアルバートがくっついたら楽なんだけど、そうなるかどうかは二人の気持ち次第だし、簡単にはいかないことは分かってる。

 二人の幸せはそれぞれの心の中にしかないからな。俺はその両方の幸せを応援したい。ってことで。


「何かと思ったら、またユーゴの話か?」

「ヒューイ。ユーゴのこと、気に入ったのか?」

「……ユーゴか。僕の中では無害な人間に分類されているが……アルバートの番に良さそうなのか?」

「どうしてここに私が呼ばれたんですか? おそれ多いにもほどがあります。帰って良いですか?」


 んんー!? 全員が全員、興味なし!! 何でだよ!

 眉をひそめるアルバート、首を傾げるブライアン、真面目に相談モードのジェスロー、早く立ち去りたいショーン。どう考えても全員興味なし、だ。

 本当にどうなってるんだ?


「えっ、ユーゴってとても良い子だよな? でも、こう……それ以外に何かないのか? 彼も候補じゃないか」


 俺の言葉にアルバートは考える素振りを見せ――苦笑した。あ……これ、俺が諭されるやつ。どれくらい細かく言われるかな。

 俺はドキドキしながら彼の言葉を待つ。


「しかしな、積極的にアプローチしてこないのだ。私は無理やり距離を詰めるつもりはない。ここにいるショーンと同じく、嫌々ながらこの場にいるだけかもしれないではないか」

「ユーゴはどうか知りませんが、少なくとも私はそうですね。殿下には早くお相手を決めて頂き、私は早々に解放されたいものです」


 俺への小言に変わる前に、ショーンがアルバートとの会話に割り込んだ。助けてくれてありがとう! 俺のメンタルの安寧が保たれた!

 俺がキラキラした視線を向ければ、ショーンはちらっと俺を見て、すっと視線を逸らした。え、何だそれ。


「ははは、言うではないか。ショーン。そんな君を私が選んでも良いのだぞ?」

「やめてくださいよ、縁起でもない!」


 アルバートはにやりと笑い、ショーンに絡む。アルバートは嫌がるショーンを楽しむことで我慢してやる、と言いたげな視線を俺に向けてきた。ショーンの割り込みに気づいたんですよね、そうですよね、あはは……。

 そりゃ、気づくよな。ごめん。でも、俺がショーンに頼んだんじゃないぞ。ショーンが勝手に庇ってくれたんだ。友情って素晴らしい。


 アルバートのウザ絡みを甘んじて受けるショーンはすごく嫌そうな顔をしていて、ちょっと面白い。恩を仇で返す所業かもしれないけど、笑っちゃう。俺たち三人のふざけた姿をつまみにブライアンがワインを飲んでいる。

 護衛の癖に酒を飲むとは不良だ。そんな彼の隣で優雅にナッツを食べているのはジェスロー。ううん、相変わらずキャラデザが良い……。


「なぜ、そんなにユーゴを気にする?」


 ふいにアルバートから視線を向けられた俺はドキリとする。まさか、彼が主人公なんだと言うわけにもいかない。となれば、言えることは限られてくる。


「……話してみたら、良い子だったから?」

「はっ」


 鼻で笑われた。そりゃそうだ。でも、勝手にユーゴの気持ちを捏造して言うわけにはいかない。中身の俺がこの見た目相応の年齢だったら、つい言ってしまったかもしれないが、俺は今、良心のある大人だ。この世界での人生含めたら、もうアラフォーだし。

 あれ? アラフォーだよな? 少なくとも、アラフィフではないはず……。不安になってきた。


「……まぁ、ユーゴは最近貴族の仲間入りを果たしたからな。少しくらいは気を向けてやっても良い」

「やった!」

「お前の頼みは、割と聞いてやっているだろう?」


 アルバートが穏やかに笑む。時々向けられるその笑顔は俺をむず痒い気持ちにさせる。その笑顔でユーゴを見つめてくれたら最高だ。

 俺に、ナマの見せてくれ……!


「……確かに? ありがとう」

「…………友人だからな」


 うーん、なんだかんだ言って優しい。明日からアルユーが始まるかもしれないという期待感に、俺は強く頷くのだった。

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