第3話 おかしいな。主人公の現時点の好感度を探ってたはずなんだが。

 こうして想定外のテンションで始まったゲーム本編の時間軸初日の夜。アルバート、ブライアン、ジェスロー、そして俺。つまり、ほとんどの攻略キャラが顔を合わせて談笑していた。


「ジェス、あの返事はあんまりだろ。もっとこう、悪いご令息って感じで高飛車に――」

「そんなこと言われてもな。だって、礼儀正しく接してきた相手に、失礼な返しはできないだろ」


 おう、意外と真面目。俺がそういうキャラメイクにしたんだけど。適度なヤンデレだから、まぁ……その対象以外には普通なんだよな。ヤンデレが発動するのは、王子であるアルバートと主人公であるユーゴにだけなのだ。


「アルに変な虫でもついてごらん! 国が傾くぞ!? だから、ああいうまともな手合いは大切にしないと!」


 ん……? もしかして、ユーゴ。あの一言でジェスローの好感度を爆上げした? の流れを感じ、俺のテンションも上がる。


「ジェスはユーゴのこと、気に入ったのか?」

「……ん? そうだな……ああいうまともな人間は、悪くはない」

「そっかぁー! あ、みんなは?」


 俺は三人を見回した。残念ながら、図書館で会う彼はいない。ショーンは王子の幼なじみじゃないし、あの場面に居合わせていないから呼べなかったんだ。会ってもいない人の感想は聞きようがないから、まぁちょうど良かったかも。


「特には何も……」

「……なるほど?」


 王子様は、あまり興味なしか。ふむ。相槌を打つ俺の隣に座るブライアンが「そうだなぁ……」と考える素振りを見せる。お、もしかして、何か……こう、感じるものがあるのか?

 ワクワクしてブライアンを見つめれば、彼は小さく笑った。


「ヒューイの視線に気づいて嫌そうな反応していたのは、なかなか面白かった」


 掴みは上々だ! 俺は心の中でガッツポーズをした。


「僕はユーゴより自分の方がアルのパートナーに向いていると思っているし、そんな僕よりもヒューイの方がよほど向いていると思っている」

「俺!?」


 いや、俺はないだろ。前世庶民だし、今世で何とか貴族やってるけど、所詮ただの腐男子だし、俺はあんたらが仲良くしてるところをニヤニヤして愛でたい変態なんだぞ。それに、がアルバートと結婚だなんて、解釈違――


「私は二人のどちらでもかまわないよ。二人とも可愛いし」

「そこの節操なしは駄目だ。不誠実なのはよくないから、ヒューイの面倒は俺が見てやる」

「は……?」


 意外にも肯定的な返事をしてきたアルバートに、ブライアンが変につっかかる。俺の肩をがっちりと掴んできたブライアンに、俺は目を白黒させるだけだ。


「俺もお前も逆鱗持ちだから、なんの問題もないな」

「は……えっ!?」

「逆鱗持ち、と言うのならばここにいる全員が逆鱗持ちではないか。意味のわからないことを言ってヒューイを混乱させるのはよしてくれないか?」


 するりと俺の脇腹が持っていかれる。ジェスローが俺のことを引き寄せようとしたんだ。俺の上半身はブライアンに、下半身はジェスローに中途半端に囚われている。マジでどういう状況!?


 ユーゴの好感度を探りにきたのに、俺の取り合いが始まった。もはや何の集まりだか分からない。

 ジェスローがアルバートに俺を推薦して、アルバートにするなら俺にしろと言い出したブライアンを窘めてる……んだから、俺は多分ジェスローについた方が良い。

 アルバートに助けを求めたらアルヒューが始まりそうで怖いし、かといって誘いに乗りますってブライアンに言ったら確実にブラヒューだろ?

 どれもお断りだ。だって、俺は第三者として存在したいから! 俺はユーゴとここの誰か、もしくはショーンがくっつくのが見たい。


「それに、ヒューイはまだ、そういうのではないのだから……」

って何っ!?」

「ああ、確かに」

「それはそうだな……」


 ジェスローの言葉にアルバートとブライアンが頷いた。何なんだよ、と思ったけどぎゅうっと俺を確保していたブライアンの腕が解かれ、俺の上半身が自由になった。自由になれるのは良いな。うん。

 ああ、とても解放感。下半身は何かジェスローに確保されたままだけど。


「ヒューイ」

「うん?」

「ヒューイはそのままで良いからな。急いで変わろうとしないでおくれ」

「お、おう……?」


 するりと頬を撫でてくるジェスローの優しい笑みに、俺は意味が分からず中途半端な笑顔で頷いた。まだ、俺の腰は彼に確保されたままだ。

 ジェスローの長いまつ毛の影が落ちる。やっぱり俺好みの造形なんだよな。


「彼らと違って、僕だけはヒューイの味方だから。変わりたくなったら、変われば良い。何もわからないならそれでも良い」

「おい、ヒューイの考える力を殺そうとするな」

「していないが? 僕はヒューイの全てを肯定するって言っているだけではないか」


 あぁー! 俺の為に争わないでー! ってジェスローがガチで臨戦態勢じゃんか。口調が! 口調が!! お貴族様になってる!

 この口調のジェスローはかっこいいんだよな……好き。


「素で囲いこもうとするなよ」

「言い方が失礼ではないか? 言いがかりも甚だしい」


 だんだんヒートアップしてる気がする。いや、ここはある意味人生二周目の俺がどうにかすべき場面!


「あのさぁ……?」


 俺が発言した途端、口論が止まった。えっ、いや、そんな集中されても困る。


「俺がどうあるべきか、一般的な常識から逸脱していたら教えて欲しいし、考えに詰まってしまっていたり、困っていたら手を引いてくれたら嬉しいとは思うけど、俺は俺だから。

 誰かに頼りたくなったら頼るし、誰かと関係を深めようと思ったらそうする。それは俺の意思だから。そういうのを互いにするのが友情だろ?」


 俺はブライアンとジェスローを交互に見遣り、問いかける。


「で? 二人は俺のことで、何をそんなに揉めてるんだ?」


 俺の一言に、二人は固まった。冷静にさせたかっただけなんだけど、俺、間違えた気がする。

 どうにか前の空気――じゃなかった、前の前くらいの空気にしたくて、俺は大袈裟な身振り素振りをした。


「俺の話より、ユーゴの話しようぜ! 俺さ、ユーゴって実はすごい奴なんじゃないかと思ってるんだ」

「……まあ、僕も彼はすごいと思う。あの状態の僕に棒読みで話しかけてきたくらいだからね」


 俺の言葉に真っ先に乗ってくれたのはジェスローだった。変な空気になる前の話題を持ち出してくれた。この調子で元の空気に戻したい。


「あれはお前の視線に負けて、仕方なくだろ? にしても、あの言葉選びはないよな」

「周囲の人間も驚いていた。確かに、あれは興味深かった」


 うんうん、そんな感じでいこう! ほっとして全員の言葉に頷き続けている俺は、いずれこのメンバーが自分に向けて猛アプローチを仕掛けてくることになるとは考えてもいなかった。

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