第2話 収まるところに納まった彼ら、と俺。

 王子様のパートナーが決まったから、解散になりました。ってことで、同じ空間での生活は終了だ。

 アルバートのパートナーがブライアンに決まったと知った候補たちの顔はちょっと見ものだった。

 明らかに「どうしてそうなった!?」って感じだったから。まあ、ブライアンはアルバートの護衛としてここに来ていたから、それはそうだろう。俺だって、こんなことになるなんて思ってもみなかった。


 俺としては、アルバートが幸せになってくれたらバンザイだから、これはこれで良いと思ってる。それに、二人は意外とうまくやれているらしい。アルバートがご機嫌なのが、何よりの証だ。

 俺の大切なはとこが幸せなら、メイン攻略対象キャラだった彼が笑顔なら、俺も幸せだ。


 あと、意外なこと――この前にうすうす感じていたアレだ――に、ジェスローとショーンがくっついた。ジェスロー曰く「大切な秘密を知ってしまったから、責任をとった」結果らしいけど。

 ジェスローは過激派なだけで、割と真面目で律儀だ。過激派な部分がなければ、とてもすばらしい人として世界中の人間から愛されただろうに。ごめんな、俺と弊社がそういう人間にしちゃったんだ。

 因みにショーンは「責任を取った? 脅されただけだ」ってムスッとしながら言ってた。大丈夫そうでほっとした。


 そして、俺。ユーゴと婚約しました。わぁ……両想い。前世からの繋がりだから、気まずいというか、照れくさすぎるっていうか、逆鱗の反応で俺がそういう気持ちになっているのは察するけど、実感がなくて困惑っていうか。

 俺の中でユーゴは遼一で、遼一は同僚で。もう少し心の整理に時間が必要そうだった。




 ――で、何で王子様は俺の部屋でダラダラしてるんですかね? ブライアンとくっついてからのアルバートは、張り詰めていた気をゆるめたのか、俺の前でだらしない姿を見せるようになっていた。


「アル、今日はどうしたんだ?」

「ポジションで悩んでいる」

「は……それ、俺が相談に乗って良いやつ?」


 ポジション、それはきっと、あの左右の、タチネコの、攻め受けの、それだよな。相談される側になる時が来るなんて!


「揉めたの?」


 ま、まずは状況把握だ。俺はどっちでも良いぞ。何でも愛する雑食型の腐男子だからな。受け止めて見せる。これでも前世はBLのシナリオライターだった。あらゆるシチュエーションやカップリングの構成を知っている。きっとこの相談はちゃんと力になってやれる。

 アルバートは俺の質問に目を伏せながら「違う」と答えた。揉めてない! なら、何が悩みなんだ。


「私が王になったら、ブライアンは完璧な護衛である必要がある」

「そうだな」

「だから、即位後に子を成すとしたら、私が産む方が好ましいだろう」

「そうだな」

「だが、私はブライアンの子供も欲しい」

「なるほど……?」


 ブライアンが受けをしたがらない、ということか? ブライアン、ガチガチの攻め様っぽいもんな。でも、受けちゃんになった時はそれはそれで可愛いんだよな。俺のオススメは攻め様よりも受けちゃん。

 せっかくパートナーになったからには、そういうブライアンをアルバートに楽しんでもらいたい。


「ブライアンが、ボトムになってくれないってこと?」

「いや、トップになってくれない」

「あっ……そっち!?」


 味わい済みでしたか!! わぁ、羨ましいっ! じゃなかった。テーブルに突っ伏したままのアルバートは、恨めしそうに俺を見てくる。そんな目で俺を見てきたって、ブライアンはタチになってくれないぞ。

 それにしても、どうしてそうなったんだ?


「ブライアンがボトムになった経緯いきさつは?」

「王配となる自分が下になると言い張って、折れる気配がなかったから私が折れた」

「ブライアンって意外と……」

「ああ、あんな言動で勘違いされがちだが、自分の立場をかなり気にしている。それに、とても可愛らしかった」


 口元だけじゃなくて目元もゆるんでる。おい、そこ。俺に性生活の方ののろけをするでない。俺の妄想が捗ったらどうしてくれるんだ。


「天使みたい?」

「よく分かったな。ああ言うからには献身的かと思えば、初心な乙女のようで――」

「俺が恥ずかしくなっちゃうから、そういう話はもうちょっと後でにしようか!」


 無意識に話を促そうとしてしまった。腐男子の血が騒いでしまう己が憎い。図らず脱線するところだったのを、何とか阻止する。


「それで、立場を気にしてトップになりたがらない?」

「その通りだ、と思う」


 なるほど。でも、ブライアンは本来攻め様だったはずだ。攻略難易度の設定的には。だから、ブライアンに攻め様の自覚を持ち直してもらうだけでいけるはず。ブライアンのアレは忠誠心というよりも、周囲を気にしてのスタイルだったはずだから、俺のお手伝いでなんとかなりそうだ。

 俺は悩ましげなため息を吐くアルバートに向け、アドバイスをすることにするのだった。




 俺はみんなのお悩み相談所になってないかっ!? アルバートの一件を解決したら、今度はショーンがやってきた。


「ショーン、どうしたんだ?」

「ジェスローは……その、感情が強くないか?」

「執着心のこと?」


 こくりと頷くショーンに、心の中で謝罪する。ごめんな、あいつヤンデレなんだよ。ショーンにはどんなヤンデレ発動させてる?


「いや、執着心……なのか? あれは」

「説明してくれると助かるなぁ。そしたら、ジェスの幼馴染として何かアドバイスしてあげられる気がする」


 ジェスロールートのシナリオを書いたのは俺だからな。お父さんに任せなさい。俺は自信満々で微笑んだ。


「まず、私の家族を完全に篭絡した」

「ん!?」

「私が知っているジェスローは、君やアルバート殿下を守る為に過激な言動をする男だ」

「勘違いされがちなジェスのことを割と正確な捉えてて驚いてる」


 ショーンは誰に対しても中立で、偏見もなくてすごい。ショーンがジェスローのパートナーになったことがしっくりときた。


「責任を取る、という言葉を着実に実行する為に活動する真人間のような姿のジェスローを見ることになって、困惑している」

「あー……そこまでするのかっていう意味のそれか」

「彼は、あれが普通なのか?」


 ジェスローはとことんやる男だ。きっと、ショーンの地位向上の為の根回しのつもりで頑張っている最中なんだろう。

 そっか。ショーンには献身系のヤンデレモードなのか。良かったな、束縛系じゃなくて。


「ショーン、今のジェスは、ショーンを支える献身的なタイプだ。だから“俺の為に頑張ってくれてありがとう。嬉しいよ”って言葉にしてあげると、きっと彼は喜ぶと思う」

「そうか。早速今夜試してみよう。彼の思考が読めなかったから少し不安もあったんだ」


 小さく笑みを浮かべたショーンは、本気で彼と向き合おうとしているのが分かる。俺は心の中でそっと二人の幸せを祈るのだった。

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