第2章 どうりで話が全然進まないと思った!

第1話 おや、君も転生者……え、同僚じゃん!

 昨日、どうにかユーゴとアルバートを良い感じに引き合わせられた――と思いきや、ちょっと方向性がおかしくなってしまった。アルバートは一日置きに女性棟と男性棟を忙しそうに行き来しているから、今日はユーゴと相談という名の作戦会議をすることにする。

 相談がある、とユーゴに持ちかければ、彼は快くついてきてくれた。うーん、優しくて良い子だ。

 談話室の一つを貸切ると、ユーゴは勝手に深刻そうな顔をし始める。ごめん、深刻じゃない……いや、ある意味そうかもしれないけど、多分ユーゴ的には深刻じゃない。

 おずおずと着席する彼に、小さく謝罪した。


「ごめん、ユーゴが考えているほど深刻な話じゃない」

「あ、そうなんだ。ほっとしたよ」


 チョコレート色の髪が揺れる。そのサラサラ良いな。俺はサラサラっていうかトュルンって感じで……髪の毛まとめてないと何となくバランスが悪いんだよな。

 気がついたら攻略キャラの髪型になってたし。六四分けくらいにした残りの四割を、俺は編み込みして、残りの髪の毛と一緒にハーフアップのお団子にしている。このヘアアレンジ面倒なんだけど、これをしているとなんか落ち着くんだ。

 ちょっと右側の前髪が長くて少しだけ目が隠れているのが俺好み。隠し攻略キャラに生まれ変わっていたことに気がついてからはすごく納得してる。

 きっとこれはこの世界のキャラクター補正だ。

 もしかしたら他にもそういう補正があったりするかしれないけど、まぁ分からない方が幸せなのかもしれないな、とか分かった方が生きやすそうだな、とか優柔不断な考えをして過ごすことにしてる。


 考えたって仕方ないしな。変えられるもんじゃないし。


「それで、相談事って?」

「あ、うん。それなんだけどさ」


 危ねぇ、ユーゴの前で思考トリップしかけてた。慌ててユーゴに視点を合わせれば、彼は微笑んでいた。あれだ。これは「何でも言ってくれ」の顔だ。

 ここのユーゴは頼もしい系かな。攻め様の香りがする。でも、現時点での攻略キャラたちも攻め様の香りがするんだよな。

 困った。攻めと攻めじゃ、カップリングが成立しにくいじゃんか。


「俺の周囲って、俺含めてアルバートに近いじゃん?」

「そうだな」

「なのに、意外と誰ともアルバートがくっついてないんだよ」

「……そうだな」


 何を言おうとしているのか分からないらしく、曖昧な相槌が返ってくる。そりゃそうだろう、と思いながら俺は言葉を続ける。


「俺的には、友人が全員幸せになる姿が見たいんだよ。でも、誰もそういう気配がない。そこで、ユーゴはどう思う?」

「……どう、って? アルバートを? それともアルバートの周辺関係のこと?」


 あ、しまった。質問になってないぞ、これ。俺、前世はシナリオライターだったのに、ぜんっぜん活かせてない。

 俺は気を取り直して、両方と答えた。


「本当に幸せな姿を見る為の努力を惜しまないつもり……なんだけど、どうにも揉め始めちゃうんだ。

 しかも、みんなふざけて俺のことを取り合うし。そりゃ、俺がこいつどう? あいつは? とか言ってきてウザイのかもしれないけどさぁ」


 何も、当てつけみたいにしなくても、そういう“お見合いおばさん”みたいなのはやめてくれって言うだけで良いのに。

 そこまで嫌がられているなら、俺だって諦めるのに。


「……もしかして、記憶がないのか?」

「は? 記憶?」


 どんどん深刻そうな顔になっていくユーゴに、俺はどきりとした。


「記憶がないなら、どうして俺に“早くイベント起こせ”って視線で指示してきたんだ?」

「え?」


 ユーゴの指摘に、もしかして……と、一つの考えが浮かぶ。


「レピペタ」

「なんだ、記憶あるじゃないか」

「なっ!?」


 嘘だろ!? 俺の他に転生者がいたのか! しかも、タイトル知ってるやつじゃん!


「マジかぁぁ! だから、イベント起こさずに来たのか! えっ、てことはプレイ済み!? すっげー!!!」

「…………」


 沈黙するユーゴの表情もろくに確認せず、はしゃいでいるテンションのまま、ペラペラと話し続けた。


「なあ、プレイ済みってことはさ、誰が好きだった? あ、でも誰ともイベント起こしてないくらいだし、もしかして攻略対象キャラ同士のムフフをご期待で?

 っていうか、そもそもごめん。転生前は女の子だったりする? 配慮した話し方にするべきだったかな……?」


 オタク特有の早口を駆使し、ひたすら話し続ける。


「まずは自己紹介からだよな! 俺、前世でも男でさ、レピペタのシナリオライターしてたんだ」

「ジェスロー・キーラン」

「そうそう! って……はぁ!?」


 何で俺がシナリオ担当したキャラが誰なのか知ってるんだよ。親しみ通り越してこえぇよ!

 俺が動揺していると、ユーゴが深い、とっても深いため息を吐いた。


「……俺だとは、気づかなかったか。あんなに親密だったのに…………俺は、ヒューイが高臣たかおみだって、すぐに気がついたのに

「ほ……?」


 俺の名前も知っている……だと? ってことは、同僚か上司か……少なくとも、弊社社員の誰かで、かつ俺の名前を呼び捨てにする人間……いや、一人しかいねぇわ。


遼一りょういちか!」

「大正解」

「マジかよォ!?」


 俺の驚きようにユーゴとして転生した遼一が苦笑する。それはそうだ。だって、全然気づかなかったんだから。

 ユーゴって呼べば良いのか、遼一って呼べば良いのか分かんないけど、仲間がいたというは何となく朗報な気がした。

 っていうか、普通に知ってる人間がいて嬉しいし、それが仲の良かった同僚ならばなおさら。


「えっ、いつ気づいたんだ? 俺はユーゴの姿を見てから!」

「…………なるほど。俺はもっと昔からだ」

「そっかぁ……」


 それから俺とユーゴは、高臣と遼一として話始めた。

 俺はレピペタの話以外の前世の記憶がかなり曖昧だ。その話をすれば、遼一は心当たりがあるのかうんうんと頷いた。


「昔の俺がそうだったな。まぁ、いずれ全部思い出すと思う」


 どうしてこの世界に転生してしまったのか、どうして俺と遼一の二人なのか、とか色々聞きたいことはたくさんあった。でも、今はこうして再会――って言って良いのか?――したことを喜んでいたい。

 それに、中身が遼一だと分かったの幸せはともかく、アルバートの結婚相手についての問題をどうにかするべく作戦会議をするべきだ。



「よし、遼一。作戦会議するぞ」

「……お前の本題はそっちだったな」


 どこかあきれ声というか、がっかりしたような声というか、テンションの低い遼一が苦笑しながら頷いた。

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