第2話 転生仲間と相談するはずが……?
俺の同僚、
どうやら俺が小さい頃に遊んだことがあるらしく、それがきっかけで友人のように接してくれということになったんだった。新入社員として現れた俺を見て、すごく驚いたんだとか。まあ、十年以上越しに偶然の再会を果たせば、そうなるよな。
で、どうしてか俺は今、遼一と一緒にBLゲームの世界――それも、自分たちが手がけたゲーム――に転生したわけだが。
偶然と偶然が今、俺たちを繋げている。
「それで、アルバートと誰をくっつけようとしていたんだって?」
「それはもう、この前のアレで諦め気味だよ。だってあれ、親子の会話じゃんか。まあ、ユーゴが遼一だって分かればそれもそうだよなって納得がいった感じ」
俺たち制作者サイドからすれば、この世界に生きる全員が子供みたいなもんだ。特に、主人公や攻略対象キャラは我が子同然だ。アルバートの無欲さに、思わず「こんないい子に育って……」ってなってしまうのも当然だ。
俺だって、そうなる時あるし。でも、遼一が担当したシナリオはヒューイなんだよな。俺に対してはそういう顔をしたこと――なくね?
「たまにお前もジェスローのこと、母親みたいな顔で見てるもんな」
「そこは父親って言ってくれよ! そもそも、俺のことはどうしてそんな風に見守ってくれなかったんだよ」
俺のことも、優しく見守ってくれても良かったと思うんだ。
「え? だって、昔からヒューイの中身が高臣だって気づいてたからな」
「はぁっ!?」
いつ、少し前まで平民だったユーゴが俺の正体を知る機会があったんだよ。意味が分からない。俺はあんまりユーゴがいそうな下町に行かなかったのに、いったいどうやったんだ。
まさか、生まれた時から遼一だったとか? それはかなり辛くないか? 俺が遼一に労りの言葉を向けるよりも早く、遼一の方が口を開いた。
「本編開始直後のあの顔芸には、さすがにドン引きしたぞ」
ドン引きって何だよ。それはこっちのセリフだし。
「いやいや、ドン引きは俺の方だって。ちゃんと最低限のシナリオは進めろよ。しかも何だよあの棒読み! 主人公だろ?」
「だって、どうみたってアレ、男だろ。それに、あれがなんちゃって悪役令息だって知ってるから、俺は健気な姿に穏やかな気持ちなるだけだったしさ」
「それは、ちょっと分かる……ジェス、健気で本当に可愛いよな」
「実際はヤンデレだけどな」
健気だと分かっているジェスローに、差別的ともとれる発言をするのは気が引ける。のは、分かる。あんなにいい子、なかなかいないもんな。
一定の理解を示した俺に向けてそれを言うか。所詮ヤンデレ、と言われたような気持ちになって、何となくいらっとする。
いや、まあ……どう考えてもそれは俺が勝手にいらっとしてるだけで遼一は悪くない。
「ヤンデレ言うけど、ジェスの身内に入っちゃえば安全だぜ?」
「身内に入るまでが大変だろ? それに、知らないのか?」
「何が?」
遼一が不思議そうに言ってくるけど、俺が知らないジェスローの話なんてあるのか?
「ジェスローはアルバートや好感度が高くなった主人公に対してヤンデレ発動させるけど、ヒューイに対しても発動させるって」
「あー……それは、知ってる。けど、別に大変じゃないぞ?」
ジェスローはちょっと過激なだけだ。悪いやつじゃない。ただ、普通の人よりハンドルさばきが急なだけで。
そういうものだと思えば可愛く感じる程度だと、俺は認識してる。
「高臣、お前……ヤンデレほいほいな性格してたんだな」
「は? ヤンデレほいほいって何だよ」
言葉通りだと返されたが、俺には心当たりがまったくない。確かにヤンデレのジェスローとは良い関係を築けていると思う。でも、それとこれは多分意味が違う。
遼一は始終呆れ顔で俺のことを見てくるし、何なんだろうな?
「あー、そうだよな。無意識だからこそ“ほいほい”なんだよな。困ったら俺に何でも相談してくれ。話くらいは聞いてやる。
力になれそうだったら、動いてやるよ」
「そう言って、いつも助けてくれるくせにぃ」
俺が煮詰まった時とか、いつも遼一が助けてくれていた。いつも助けてやれるわけじゃないぞ、と言いながらなんだかんだ結局、助けてくれるんだ。
面倒見が良いんだよな。甘えちゃだめだって分かってるけど、俺が困っているとどこからともなくやってきて、支えてくれるんだから。
「力になれるようなもんじゃないかもしれないだろ」
「確約しないでいるの、遼一の優しさだよね」
俺がそう言って小さく笑うと、遼一は照れくさそうに頬をかく。あ、遼一だった時の仕草。俺は前世を感じさせるそれに、ちょっとだけ切なくなった。
全然記憶にないけど、俺と遼一は死んだからここにいるんだもんな。
「遼一」
「ん?」
「いつもありがとう」
「……おう」
話が落ち着いたところで、再び話題を戻そうとした。
「でさ、アルのパートナーだけど、誰かめぼしい人いる? もう、いっそ攻略対象キャラ同士とかの方がうまくいくんじゃないかって思い始めてるんだけどさ」
「あー……それはそれで、難易度高いぞ」
「何で?」
遼一の方がこの世界のこと知ってるんじゃないか? 何で? 一緒に作った世界なのに。
製作者側の人間なのに、どうしてこんなことになってるんだか腑に落ちない。明らかに俺の表情が硬くなったからか、遼一が変な顔をした。これは、俺が何かやらかした時の顔だ。俺が仕事でヘマをした時とか、よくこんな顔をしていたのを思い出す。
「……聞いてない? ヒューイが攻略の難易度高い理由」
「隠しキャラだから、じゃないのか?」
「その要素の理由づけとして、設定があるんだ」
裏設定ってやつか。なるほどな。どうして俺がその話を知らないのか分かんないけど。いや、俺の記憶があいまいだから覚えていないだけか?
とにかく俺の知らない、俺の設定があるなら早く知りたい。うきうきしながら「それで!?」と前のめりになると、やっぱり変な顔をしたまま遼一が口を開いた。
「ユーゴが現れるまで、ヒューイが彼らの愛されキャラだったんだよ」
「はぁ……?」
いまいちピンとこない。愛されキャラって、あれだろ? 主人公ポジションの、ハーレムっていうか。明らかに俺が首を傾げたのを見て、遼一が深いため息を吐いた。
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