第4章 束の間の癒し、そして想定外の展開へ!?

第1話 やっぱり俺の癒し、ジェスロー!

 立て続けに恋愛的なアプローチを受けてしまった俺は、とても消耗していた。となれば、もう行先は決まっている。ジェスローの部屋だ。

 寝間着姿の彼は俺の表情を見るなり、優しく微笑んで部屋に招き入れてくれた。俺はそんなジェスローに甘え、そのまま遠慮なく彼のベッドへダイブする。容赦ないって? 良いんだよ、俺は。


 ジェスローは俺の中で癒しだ。ヤンデレだけど、俺に対しては変なヤンデレ発動させないし、むしろ本当にいい子すぎて子供を見守る親の気持ちになってしまうこともしばしば。

 ジェスローのベッドはいつも綺麗に整えられていて、しかも良い香りがする。はぁ、何の香りだろう。香水だよな。嗅いだことあるから、うちの実家の商品なんだろうけど。


「……ジェス、今使ってる香水って何?」

「香水? ヒューイの実家が売っている夜に香らせたい安眠シリーズのブラックベリームーン」


 あぁ……あれか。俺は元々の香りを思い浮かべ、納得した。ブラックベリームーンは絶妙にウッディーな香水だ。甘い感じがするのに、ラストノートがウッディーだからこう、中性な感じで色っぽいんだよな。

 それが、ジェスローの体臭とあいまってこんな香りに……。良い。


「あんまりそうやって嗅がないでくれるか? さすがに恥ずかしい」

「あ、ごめん。良い香りだからつい」

「……君ね。まあ、そういうところ、嫌いではないけれど」


 ベッドに顔を押しつけてくんかくんかしてるの、バレてた。ちょっと恥ずかしいな。いや、でも良い香りなのが悪い。そういうことにしよう。


「ジェス、いつもありがとう」


 あー……ジェスロー、良い子。本当に良い子。なのにアルバートとブライアンときたら、何であんな風に。くっそー。俺はストレス発散に足をばたつかせた。少し

動けば、発散できる気がした。そして、枕に顔をうずめてジェスローの香りを堪能する。

 ジェスローはちょっと嫌かもしれないけど、癒されたい。こんなことをしててもジェスローは文句を言わない。何ていうか、実家みたいな安心感? 俺、ジェスローの猫に転生していた方が幸せだったんじゃないかな。


 ジェスローのベッド、居心地が良い。じたばたしたり、ごろごろしたり、を繰り返す。そうして猫みたいにずっと居座ってたら、さすがに小言が放たれた。


「僕のところでぐったりするの、そろそろやめないか?」

「えぇー……?」


 つい、ジェスローには甘えてしまう。最後のひと吸いをして、最後のじたばたもする。


「僕だって、そろそろ眠りたい」


 うん、そうだよな。ごめん。ジェスローがベッドに手を置いたから、場所を譲ってやる。今日は良い香りのするイケメンと一緒に寝る。なんていう贅沢だ。

 今日のモヤモヤっていうかモダモダが吹き飛んでくれる気がする。


「ジェス、俺の癒し……」

「……僕、癒しって周囲から言われたことがないのだけれど?」


 良いんだよ。ジェスローは俺の癒しで。あーもう、ほんと、俺はジェスローに助けられている。抱き着いて、すりすりしたい。やらないけど!


「君が僕のことを癒しだというのなら、そんな存在でいられるように努力しよう」


 そういうとこが! 良い子なんだよ!!!


「へへ……ジェスは本当に良い子だよなぁ……」

「持ち上げようとしたって、僕はなびかない。もう、君への感情は振り切っているから……なびこうがない」

「ストレート!」


 あー好き! ジェスローの琥珀色の目に見つめられてちょっと恥ずかしくなったけど、真っ直ぐに、でも俺の気持ちを無視せずに寄り添ってくれる言葉が嬉しい。


「困ったら、僕のところへおいで。僕がヒューイの宿り木になってあげるよ」

「ジェス……」


 アルバートやブライアンとジェスローは違う。俺の髪の毛を整えながら、そんな優しい言葉を送ってくれる。手塩にかけたキャラクターが、現実になったらすごく良い子だったなんて、お父さんは嬉しいです。

 俺はベッドの上で向かい合うようにして横になっているジェスローに微笑んだ。


「どんな状況でも、僕が君を守ってあげる。邪魔者は排除してあげる。君を困らせる全てを、葬ってあげるから」


 っぶねぇ! 葬ったら駄目だって! ふいにヤンデレ発揮してきたから俺の背中がぞわっとしたじゃないか。


「最後怖いぞ! またヤンデレになってんじゃん!」

「ふふ……」


 もう、犯罪はメッ! 俺はそんな風に育てた設定したつもりはありませんよ! あ、いや、ヤンデレ系に設定したのは俺……っていうか弊社か。自業自得!

 ふふって笑ってるけど、まさか、今までにやったことがあるんじゃないだろうな!?


「笑ってる場合じゃないぞ、ジェス!」

「こうして、二人っきりの世界が続けば良いのになぁ。いっそ、二人で世界を壊してみる? 君が望むのなら、やってあげるよ」

「結構です! 遠慮します!」


 思いっきり不穏なこと言い始めた! でも、ジェスローと二人っきりの世界も悪くはないと思う。


「そう言う君が好きだよ。僕だって、君の大切な友人や僕が崇めるアルの国が壊れていく姿は、なるべく見たくないし……」


 その路線でお願いします。みんなハッピー幸せで良い感じに進んでいきたいので大円団エンドでお願いします。俺のちょっとした気持ちの動きを察したのか、ジェスローがゆっくりと瞬き、雰囲気を変えた。


「最後に戻ってくる場所は、僕のところだよ」

「ジェス?」

「僕は、絶対にヒューイの味方だ。君が道を外そうと、どんな姿になろうと、君を肯定するよ。僕だけは君の味方だってこと、忘れないで」


 全力で肯定してくる言葉に、俺は他者に承認されることの攻撃力を知る。嬉しいけど、ちょっと重い。俺にはそんな風に思ってもらえる価値があるように思えなくて。


「ヒューイが誰かを殺したくなったとしても、僕はその気持ちを尊重する。手伝いが必要なら手伝うし、一人で成し遂げたいなら見守る。手を汚したくないのなら、代わりに僕がやっても良い」


 ジェスローの真剣なまなざしにぞくりとする。やっぱりジェスローはヤンデレだ。愛が重すぎる。でも、それが嬉しいと思ってしまう自分もいる。


「ちょっと、それはやりすぎじゃ」


 俺はうまく笑えただろうか。困った顔になってしまってはいないだろうか。


「ああ、そうだね。でも、これくらい極端な例を出した方が分かりやすいかと思って」

「あ、なるほど。極端な例ね!」


 にこやかに、さらりと嘘を口にするジェスロー。いや、嘘をついている気持ちはないのかも。俺はジェスローのそれに流されてやる。

 ジェスローがこの話は終わりだというのなら、終わりだ。本当、こういう匙加減が上手なんだから、良い子すぎる。


「ところでヒューイ」

「ん?」

「気分は落ち着いたか?」


 そうだった! ジェスローが良い子すぎて、癒しすぎて忘れてた。そうして、俺は今日の出来事をジェスローに愚痴って、すっきりしたのだった。

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